<連載>友野一希「スケートときどきサウナ」第8回「本当はナイショにしておきたい、秘密基地のこと」

世界を舞台に活躍するトップフィギュアスケーターにして、大のサウナ好きでもある友野一希選手にさまざまなお話を伺う当連載。

今回は、まずは3月にさいたまスーパーアリーナで開催された世界選手権についての話題から振り返っていただこうと思います。

(過去記事<#1><#2><#3><#4><#5><#6><#7>を未読の方は、ぜひあわせてお読みください)

目次

2022-23シーズンで得たもの。そして次なる目標とは

――世界選手権、おつかれさまでした!

「ありがとうございます。1年間、ずっと目標にしてきた試合がついに終わりました。今回で3回目だったんですが、やっぱり本当にものすごく緊張しましたね。なんというか、他のどんな大会にもない独特の雰囲気がある試合なんですよ」

――テレビの画面越しにも、緊張というかすごく集中されているのは伝わりました。

「そうですね。実は緊張するのって、試合の本番というよりはその直前の練習くらいまでなんですよね。本番になると、もう始まってしまっているので、意外と覚悟も決まって落ち着いたりもするんです」

――今回、「練習は裏切るし、裏切らない」というようなコメントをされていたのが印象的でした。あ、なんか友野選手らしいな。でも、すごく分かる気がするな、って。

「練習はね……裏切るし、裏切らないんですよね。もちろんめちゃくちゃ練習するんです。しなきゃダメなんですけど、なんていうか、練習中にちょっと気になったり不安に思ったりしたことが出てしまうこともあったりして。だから、その隙みたいなものを消すために、そういう部分を含めていかに全体を底上げするか、埋めていくかっていうことが大事で。そこで覚悟みたいなものができてくるんです」

――最初のコンビネーションジャンプが決まったとき、テレビのこちら側では声をあげてみんなガッツポーズしていました(笑)。

「あはは。そうなんですね。ありがとうございます(笑)」

――そうやって演技が進んでいって、最後にはまた……あの広い会場全体を盛り上げられてしまうという。

「自国開催というのもあってでしょうけど、あの雰囲気は僕も感じながら滑っていました。試合中は一瞬でも気を抜いてしまうと思わぬところで崩れてしまったりするんで、もう本当にいつも通りに、常に成功しても失敗しても平常心を心がけていて。歓声なども聴こえてはいるんですけど、入って来過ぎないようにとにかく集中を切らさないようにしているんですが。でも、全身でビシバシ感じてはいましたね」

――そうなんですね。今回は、大げさではなくアリーナ全体が地鳴りのように……。

「ほかの記者さんたちからも『揺れた』って言われました(笑)。やっぱり自国開催だし、曲も盛り上がっていくものというのもありますけど、その、一体感みたいなものを生み出せたというのはすごくうれしかったですね。ステップのときなどは後押しにさせてもらいました」

――ステップといえば、ショートでは世界最高得点。そして、1年の目標としていた大会で自己最高得点を更新。

「そうですね。それはすごく良かったです。なんか、3回目なんですけど、世界選手権では毎回、自己ベストを更新してるんですよね。だから、最後でその都度、決めきるというか出し切るみたいなところは備わっているのかな、と(笑)。それに今回は“代打”での出場ではないので、いい意味でプレッシャーのなかった前回や前々回とはぜんぜん状況も違うから……そこは自信にしてもいいのかなって思うし、本当に1年間、それを目指してやってきたのでホッとしています」

――先ほどの「揺れた」という声。会場全体であの赤い応援のタオルが振られていました。壮観でしたよ。

「それはそう(笑)! 壮観でした!! あれはめっちゃうれしかったですね。販売数も限られていたのに、それ以上にあったんじゃないかって思ってしまうくらいに。色も赤で良かったのかもしれないですよね」

――色もそうだし、デザインもシンプルに「TOMONO」って書いてあるだけなのにめっちゃかわいくて。丸っこいO(オー)が3つあるのが良かったです。友野っていい苗字ですね。

「あ、それうれしいコメントです。実はデザインにはちょっと自分でもこだわりがあった部分なので。とくに具体的にこの書体でとまでは言わなかったけど、親しみがあるポップな字体で、とか、ちょっと懐かしい感じでもいいかも、みたいな要望を事前にお伝えして。上がってきたデザインをさらにブラッシュアップしてもらったりもしたんです。そこまでやる選手っていないみたいで、デザイナーさんもちょっと驚かれたようなんですけど、『リクエストを言ってくれるのはうれしい』って(笑)。ほんとに素敵に仕上げていただきました」

――あ~、いいお話ですね。そういう思いとかって伝わるものだと僕も思うので。ファンの方と友野さんをつなぐものですしね。

「こだわって良かったです。いや、本当に世界選手権の会場のあの光景には自分でも感動しちゃいましたから」

――あの光景を目指して、また新たな1年がスタートされるんですね。

「今回の結果には決して満足していませんし、もちろん悔しいですし。でも、さっきも言ったように、やり切った、やり切れたなっていうのと、会場を盛り上げられる滑りができたということはすごく良かったなって。それと失敗というか、今回もメダルまで届かなかったのは本当にジャンプ2本分くらいだったんですけど、そこを底上げしていって。そこが分かったのも収穫だったと思います。またこのオフからも、シーズンをかけて、自分をさらに成長させていきたいですね」

大阪の「秘密基地」。ナイショにしたい気持ちもあるけど……

――さて、そんな世界選手権前後は、どんなサウナライフを過ごされていました?

「“秘密基地”みたいなサウナに何回か行っていました」

――秘密基地? 気になります。めっちゃ。

「あの、前回、写真だけお送りして、話はしていないサウナ施設さんがあるんです。『グランドサウナ心斎橋』さんっていう。そちらに結構短いスパンで何回か行っていましたね。

あの、遠くからわざわざ行くかっていうと、決してそういうタイプのサウナ施設ではないんですけど……なんていうか、近くにあったら一番うれしいような、落ち着いてホッとするサウナなんですよね」

――ああ、良さそう。サウナ好きが好きそうなサウナです。

「あ、ホントそう思います。メーンのサウナ室も、いわゆる普通のサウナ室というか。温度自体はそんなに高くはないんですけど、しっかり普通にアツアツで。オートロウリュはあるんですけど、そんなに湿度は高くはないんですよね。ちょっとヒリッとするくらいの、シンプルで、熱い……なんか大阪だなぁ、みたいなタイプのサウナ室なんです。

それで、水風呂が備長炭を使ってるのかな? その炭の効果なのか、水が少しマイルドな肌感で、温度も冷たく感じるんですよね。水の匂いとかもちょっといい感じがする。

そして、東京・上野の『北欧』にちょっと似た雰囲気の外気浴スペースがあるんですよ。『北欧』ほど広くはなくて、あの半分くらいかな。でも静かに休憩できる外気浴スペースがあって。風も入ってくるし、上を見上げるとちゃんと月と星空も見えるんです。最初に行った時は、ちょっと『おっ!』ってなりました」

――いいですね。たしかに!

「余計なものが何もないというか、ぜんぜんシンプルなんですけど、『あ、これでいいんだよ』って思えるサウナ。セルフロウリュとか、熱波のサービスとかはなくても、しっかり熱くて、気持ち良く水風呂に入って外気浴ができる。

ちょっと歴史があるのか、懐かしい感じはするんだけど、清潔感もしっかりあって。本当に心落ち着く感じなんですよね」

――それは、秘密基地ですね、たしかに。

「はい。時間帯によるのかもしれないけど、僕が行くときはいつも全然混んでいないし、入っている人たちも、サウナを特別視していないというか、皆さん、淡々と静かにサウナを楽しんでいる。なんか、いいんですよねぇ。

あ、ひとつだけエンタメ的な要素というか、ここならではの必殺技みたいなのがありました。メーンのサウナ室のほかにスチームサウナもあるんですけど、そこに『GS砲』っていうのがあるんです」

――「GS砲」?

「スチームサウナも結構しっかり熱いんですけど、室内にポチっ、と押せるボタンがあるんですよ」

――ポチっとすると……?

「噴き出しのパイプみたいのが出ているんですけど、そこから熱いスチームが出てくるんですよ。これが結構熱さがヤバくて、気持ちいいんです。でも、噴射時間がちょっと短くて。『シャーーーッ』、『あれ、終わっちゃったか』っていつもなります(笑)。何回でも押せるんですけどね」

――うわぁ、押してみたいですね。

「面白いですよ。この仕掛けも大好きです。もうちょっと長く噴射されてたらうれしいなと個人的には思っています(笑)」

――熱いのかもしれないけど、なんともかわいい仕掛け(笑)。友野さんがおっしゃっている、心が落ち着くというのもなんか想像できますね。

「『大東洋』とか『アムザ』とか、『なにけん』(なにわ健康ランド 湯~トピア)とか。本当に大阪にも好きなサウナ施設さんはいっぱいありますけど、このグランドサウナさんも僕がいいなぁって思うサウナの1つですね。まだご飯を食べたことはないけど、食事処のメニューも美味しそうですし。シンプルにサウナに入りたい。シンプルにちょっとだけ心身をリセットしたい。そんな風に思う人を優しく迎えてくれる施設だなって。あ、お値段的にも、お財布に十分に優しいところも好きです(笑)」

――世界選手権前は、ちょこちょこ行かれていたんですね。

「そうですね。割と何回か。埼玉へ行く前、大阪で行った最後のサウナ施設もここだったかもしれないです。気分的にも、なんとなくここでリセットしたりするのが合ってたのかもしれないですね」

――今回も試合前はやっぱりプレッシャーとか、逆にちょっと昂ったりとか?

「そうですね。どこかやっぱり落ち着かないし、『もう、明日にでもやってしまいたい。早く決着をつけたい』って思う日もあったりしますからね(笑)。ここを見つけられたのはすごく良かったなぁって思います。できるだけ“日常感”を大事にしたかったので」

――そうやってサウナでも心身をととのえて、決戦の地へと向かわれたわけですね。

「はい。気になるものとかが一切ない、まさに僕の隠れ家。『秘密基地』的なサウナでした。素晴らしい施設なのでこうやってお話ししちゃってますけど、僕としては今後も秘密にしておきたい気持ちも実はあるんですよね(笑)」

魔法を解き明かしたい、そんな気持ちにさせられるサウナ

――ではこれも恒例(?)ですが……試合終わりのサウナは、今回もどちらかへ行かれたんですか?

「それが、今回は行ってないんです。フリーがあって翌日エキシビションがあって。そのあとバンケットって言ってパーティーみたいなものがあるんですが、本当に時間もなくて、何より疲労がすごくて。本当に、フリーの終わった夜はホテルに帰ってご飯を食べるのがやっと、くらいの感じだったんです」

――ショートとあわせて、すべてを出し切った、って感じだったんですね。

「まさにそうでした。本当は草太(山本草太選手)とかと『(湯乃泉)草加健康センター』へ行きたかったんですが。『ラッコ討伐に行くぞ』って感じで。まぁ、いつも返り討ちにあって、あの熱いサウナとキンキンの水風呂にシバかれるのはこっちなんですけど(笑)」

――(笑)。

「でも実は、今回はショートが終わった日の夜に草太と新宿の『(東京新宿天然温泉)テルマー湯』(以下、テルマー湯)へ行きました。宿舎というかホテルも新宿で、ショートの翌日は1日空くので、疲れをとっておこうというのと、その日はミスもあったので、その切り替えもしたかったので」

――そうなんですね。その目的なら「テルマー湯」はいいですね。シンプルさというか、必要なものだけがしっかりあるという意味で、今日お話に出た「グランドサウナ心斎橋」と共通点がある気がします。

「本当にそうかもしれないです。しかも、今回は遅い時間だったので、人も多くなくて、いつも以上にめっちゃ静かで快適で。サウナ室も出入りが少ないせいか、めちゃくちゃ熱かったです。最上段なんか、ちょっと座れないんじゃないかっていう熱さでした」

――静かなテルマー湯は、私も大好きです。

「めっちゃ良かったです。僕はまだ4~5回くらいしか行ったことはないんですが、もっと回数を重ねたいサウナ施設さんですよね。謎が多いというか魔法のサウナというか」

――魔法のサウナ?

「いや、なんていうか……奥が深い施設さんだと思っていて。行くときによって感じ方が違うんですけど、でも毎回、しっかり気持ち良くはさせてもらってます。ほんと、日によっては殴られたかのようなぶっ倒れ方をすることもあれば、あ、もちろん気持ち良くてですよ(笑)。逆に、静かにいろいろとリセットされるときもある。どちらにしても、すごく好きなんですけどね」

――あ、分かります。でも、それは友野さんのサウナへの向き合い方と合ってるのかもしれないですね。その時々の状態に応じて入るという。

「今回は、もちろん静かにリフレッシュさせてもらいました。あの日も本当にすごく疲れはあって、それをどうにかしたかったのと、あとは僕もそうだったんですけど、草太もすごくサウナに行きたそうだったんですね。『じゃぁ、行きますか』って」

――2人の感じが、ちょっと目に浮かぶ気もします(笑)。

「チャチャっと行って、で、しっかり『無』になって切り替えさせてもらいました。あの日も、本当にテルマー湯に行って良かったなって。いつどんなときも気持ち良くしてくれる『術』の謎は、これからも何回か通って解明したいと思います。そういう施設って、ほかにもいくつもありますけど(笑)」

――ぜひお願いします! そして、このお写真は……。

「ここも大好きな『スカイスパYOKOHAMA』ですね。『スターズ・オン・アイス』というアイスショーの横浜公演のときに草太と、あと(島田)高志郎と一緒に行ったときのものです。すみません、『テルマー湯』で写真を撮らなかったので」

SAUNA BROS.WEBではおなじみの、草太さん、高志郎さんとともに
「奇跡的に空いていて気絶してきました……(笑)」

――いやいや、とんでもない。むしろ、いつもすみません。ありがとうございます。いいですね、いつもの……スケーターのサウナー組。

「ふふふ」

――でも、世界選手権後も、のんびりはされていないんですね。

「今回は、そうですね。世界選手権が終わってすぐにこのアイスショーのリハーサルに入って、それから本番が岩手と横浜であって。そのあとに『国別対抗戦』……。結構大変といえば大変ではあるんですけど、充実しています。

今回のアイスショーでは羽生(結弦)選手とも一緒なので。やっぱり氷の上に出るだけでもそれこそ会場の空気を一変させてしまう選手なので、見ていてやっぱりすごく勉強にも刺激にもなるし、いろいろお話もさせてもらえたらと思います」

――世界選手権のあとは、もう「大東洋」とか「神戸サウナ」とか「グランドサウナ心斎橋」でのんびりできるんだな、なんて思っていました(笑)。

「今回は、僕なんかより、世界選手権のあとに国別対抗に出る外国人選手の方が大変だなって思いますよ。ずっと帰国できずに日本で過ごすなんていう選手もいますから。(イリア・)マリニン選手なんか、『スターズ・オン・アイス』にも出演しますからね。みんなで、ちょっと可哀そうだねって」

――たしかに。でも羽生選手や宇野選手と一緒にショーができるというのは、若い選手にもいい経験かもしれないですね。

「それはそう思います。僕自身も、国別対抗はもちろん試合ですし、日本代表として責任を持って自分なりにしっかりがんばりますけど……この1カ月はツアーも含めてちょっとワクワクしていて。なんか野球のWBCみたいな感じもちょっとあるというか(笑)」

――そうですね(笑)。でも、2022-2023シーズンがついに終わります。本当にお疲れさまでした。

「はい。さっきも言ったんですけど、自分としては悔しいことも多かったけど、自信も多く感じられたシーズンだったなと思っています。でも、もちろんもっともっと成長したい。次の新しい高みに向けて、数カ月間、しっかり充電するいいオフを過ごせたらと思います。

サウナもそうだし、ほかにもたくさんの好きなものはあるんで。そのひとつひとつ、いろんなものに楽しみながらしっかり向き合っていくことって、嫌でも自分にとって本当に大切なものにつながってくるんですよね。

サウナとかは別に頑張るものではないですけど(笑)、次の自分のためにもいい時間をこれからも過ごしていきたいです」

【友野一希(ともの・かずき)】
1998年5月15日生まれ。大阪府出身。4歳よりスケートを始め、ジュニア時代から表現力の豊かさには高い評価が。見ていて楽しくなるその演技で“氷上のエンターテイナー”“浪速のエンターテイナー”と称されることも。2022-23シーズンは、全日本選手権で3位。世界選手権6位。次シーズンもさらなる高みを目指す。

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