2人のサウナ好きの出会い。すべてはここから始まった
――そして「自分でもサウナをやってみたい」と思われた?
「いや、最初から自分もサウナ施設に携わろうと思っていたわけではないんです。きっかけは……草加にある飲み屋さんでの出会いだったんですよね。
もともと『草加健康センター』が好きなこともあって、草加にはちょくちょく来ていたんですけど……そのうちに、音楽つながりの友人が教えてくれた飲み屋さんによく顔を出すようになって。
そこのマスターが『サウナが好きなら、きっと話が合うはずだ』って、いまのこの店のオーナーと引き合わせてくれたんです」
――なるほど。
「彼(オーナー)は草加で内装関係の会社もやっているんですが、やはりサウナが好きで。もちろん意気投合というか、ものすごく気が合ってしまいました(笑)。
それまで僕はあまりサウナのことを誰かと深く話すことはなかったんですけど、それは身近に話題が合う人がいなかったからで、そういう相手にほぼ初めて出会ったんです」
――サウナの話を、サウナ好きとするのって……楽しいですよね。
「そう。楽しかったですねぇ(笑)。時々、顔を合わせては好きなサウナ施設について話したり、『こんなサウナがあったらいいよね』とか、『誰かに先にやられたら悔しいわぁ』なんて言ったりもして(笑)。
そうしたら、あるとき『一緒に始めてみないか?』という話になったんです。もともと彼のほうにも、大好きな地元である草加でサウナ事業をやってみたいという思いはあったそうなんですが、僕の『誰かに先にやられたら悔しい』という言葉がちょっと響いたらしくて(笑)」
――背中を押してしまった。
「はい(笑)。そして僕自身も、すごくやってみたくなってしまった」
――背中を押されもしてしまった(笑)。
「そうです。そして『まずはフィンランドに一緒に行ってみよう』と。その時点では、設計はもちろんのこと、物件などもまだぜんぜん具体的なことは決めていなかったんですが『とにかく、一度、フィンランドのサウナを見てみないと』と。それが2022年の秋くらい。出会ってからおよそ1年くらいが経った日のことでした」
「フィンランド式サウナ」を知らないと始まらない……そう思った理由とは
――なぜ「まずはフィンランドに行こう」だったんですか?
いや、分からなくはないんですが……。
「う〜ん。なんて言うか……“フィンランド コンプレックス”みたいなものが僕ら2人の中にあったと言いますか。僕たちはサウナや蒸気浴みたいなものがもちろん好きなんですけど、それはあくまでも日本における公衆サウナでの体験であり、知識なんですよね。
やっぱりフィンランドに行かれた方々の話を見聞きしたり、日本の“フィンランド式”と呼ばれるサウナ施設に行くと、普通に“気持ち良さそうだな”“いいなぁ”って思うじゃないですか。そして、次の瞬間には“でも自分たちは本当のフィンランドを知らない”と思ってしまう……という」
――はい。
「やっぱり『本場のサウナを実際に体験してみないと始まらないよね』というシンプルな思いがあったんですよね。
行ってみて経験したものや感じたものを、必ずしもそのまま取り入れるかどうかというのは別だけど……少なくとも知らないままなのはイヤだよね、って。
ただ、結論としては『行って良かった』でした。そして『やっぱり自分たちは“フィンランド式”のスタイル、蒸気浴が大好きなんだな』というのを再確認できたんですね」
――それは、具体的にはどういう……?
「まずは、シンプルに体感として気持ち良かったんです。蒸気というか湿度と温度のバランスも含めて、サウナ室のアツさがとにかく心地よい。
それは何が要因かっていうと、いろんな要素があるとは思うんですけど、いちばん重要なものの一つは換気。フレッシュなエアをどう取り込んで、どう循環させるかということなんだなっていうのをあらためて感じました。
ヘルシンキとタンペレという2つの都市のサウナを回ったんですが、古い公衆サウナも新しくオープンしたサウナも、どこも換気がやっぱりめちゃくちゃ良かったんですね」
――いわゆる「給気(吸気)」と「排気」の制御が、優れている。
「そうです。施設によってサウナ室のつくりやストーブに違いはあるんですが、どこも共通しているのはこの空気の流れをうまくつくっていること。だから、その点は、この『サウナヘヴン草加』のサウナ室を作るにあたって、最もこだわりました」
――ドア下に10センチ以上の隙間が設けられていますよね。
「はい。そこからフレッシュエアが室内に入るようにしています。これがまず、フィンランド式サウナの一番の特徴かもしれませんね」
「その上で、サウナ室全体の床面も、部屋じたいの床との間に空間を設けて、室内に入ってきた空気がそこを通るようにしています」
「さらに、ロウリュをするメインのikiストーブのすぐ横の位置に給気口をつくっているんですね。
ロウリュする=ストーンに水をかけると、蒸気が立ち上って空気が動くわけなんですが、そのときにエアがいかに効率よく吸い込まれるか。これが重要なんです」
「ロウリュしてフレッシュなエアを吸い込むことで対流が発生するんですが、必然的に最終的には排気口から流れ出ていく。スルッと入って、スーッと静かに出ていくんです」
「つまり、ロウリュをするということは単純に蒸気=湿度を生むだけでなく、対流や換気も生むんです。どの施設でもこの“空気の流れの構造”みたいなものの良さが理屈抜きに感じられて。
アツさを愉しみながら、しっかりと見てきました。『あ、排気口がこういう位置にあれば、こういう対流になるんだ』みたいに」
――さすがは「本場」ですね。
現存する“最古のフィンランド式公衆サウナ”で感じたこと
――ヘルシンキとタンペレの2都市を回られたというのは、何か理由が?
「僕らが草加という、いわば『都市の中』『街の中』でサウナをつくろうと決めていたからです。日程的な事情もある中で、大自然の中の……森の中にあるサウナ小屋にまで足を伸ばすよりは、街の中の公衆サウナをじっくりと体験したいという思いがあったので、首都のヘルシンキ、そしてフィンランド第2の都市にして、2018年に“世界サウナ首都宣言”をしたタンペレに絞ったんです」
――なるほど。そういった意識の中で、歴史のある施設から最新式の施設まで、幅広く回られたんですね。
「はい。タンペレでは、フィンランドに現存する最古の公衆サウナ『ラヤポルッティ・サウナ』と、街の中にありながらも湖に面していて、2010年に改修されたという『カウピンオヤ・サウナ』を訪ねました」
「『ラヤポルッティ〜』は、今から120年近く前に開業した公衆サウナで、街の人々が本業のかたわら、お互いに協力しあって運営を続けられているそうなんです」
「その歴史的な風格というか、街の人々が憩い合うあたたかみ……ちょっとスピリチュアルな感覚にも近いんですけど、サウナに込められる“魂”や“神聖さ”みたいなものも滲み出ている感じで。ちょっと感動してしまいましたね」
「一方の『カウピンオヤ〜』は、若い世代もたくさんいて。レジャー感覚みたいなノリで、賑やかにロウリュを楽しんでは、そのままの勢いで湖に飛び込んで『気持ちいい〜っ』って言い合ってる、みたいな施設です。
外にバーベキューパンがあって、サウナのあとにビール片手にマッカラ(=ソーセージ)を焼いて食べる、みたいな過ごし方もできるんです」
「対照的というか、対極にあるような2施設だったんですが、どちらも素晴らしいサウナでしたね。まぁ、個人的にはどちらかというと『ラヤポルッティ〜』の方が印象的ではありましたけど。でもマッカラも美味しかったし、湖にドボーンって入るのも夢ではあったんで『カウピンオヤ〜』も心から楽しみました(笑)」