37人のサウナ好きに会った話。「SNAP×SNAP」ウラ話①

街頭インタビューが好き。道行く人に声がけして話を聞くあれです。筆者はあれが好きなのです。それをかたちにしたのが、発売中の「SAUNA BROS.別冊 SAUNA KIITOS」に掲載している「SNAP × SNAP」という37人のサウナ好きの方にお話を伺ったページでした。

ここではその取材時の舞台裏を綴りたいと思いますので、どうぞお付き合いください。

目次

草加健康センターのサウナ好きさん、お話を聞かせてください

2025年2月某日。埼玉県草加市にある「湯乃泉 草加健康センター」(以下、草加健康センター)の駐車場に私はいました。公共交通機関だと自宅からけっこうな時間がかかるのですが、乗り物だと存外に近く、むしろ予定よりも早く着きすぎたなと思いながら駐車場にバイクを停めていました。

この日の予定は草加健康センターに陣取り、来場したサウナ好きのお客さんにお声がけして話を聞き、さらに写真を撮らせてもらおうというもの。これを37人分、つまり37回繰り返すのです。ひとり10分でも10×37人≒6時間超! 実際はもっともっとかかるので、こりゃ長い一日になりそうだと思っていると、そこに一台のバイクが滑り込んできました。ライダーの歳のころは40代でしょうか。日本製の少し古いバイクをカッコよく乗りこなしています。

ここで声をかけて話を聞こうかと思い、あいさつが喉まで出かかったのですがやめておきました。だって、肌寒いなかバイクでここまでやってきて、これからサウナに入ろう! と思っているのだから。ガンジーみたいな聖人でも、俺はいま寒いんじゃ! と思うに違いありません。そう思い、歩いていく背中を見送りました。

……あのとき、声かけときゃよかったな。と数時間後に後悔するのを、このときの私はまだ気づいていませんでした。

ここをキャンプ地とする!

約束の時間になったので、草加健康センターのご担当者にお声がけしたのち、アンケート用紙とカメラを用意。さて、どこを拠点にナンパを始めようか、とまずは館内を物色します。なんとなくまずは脱衣所の出入り口あたりに移動してみましたが、男である筆者はすぐ、女湯のそばにいることに気まずさを覚えます。出入り口付近で不特定多数のお客さんを目で追うカメラを構えた男なんて、不審者以外の何者でもありません。すぐに場所を移動しました。

お次に向かったのは大広間(食堂)。しかし、平日の午前中ということもあり、人はまばら。そもそもここは食事をするスペースなので、席にいる方々は当然何かを食べたり飲んだりしている。どう考えても邪魔ですね。「子供がまだ食ってる途中でしょうが!」と言われるかもしれません。ということで、そそくさと退散。

けっきょく、フロントと大広間のあいだのちょっとした休憩スペースをベースに動くことにしました。ここで行き来するサウナ好きのみなさんを待ち構え、どんどん声をかけていく作戦です。というわけで、筆者の戦いが始まりました。

幸先がよいスタートにテンションがアガる!

戦が始まる前にさっそくひとつ問題が。ここ草加健康センターはサウナ専門施設ではなく、あくまで総合的な温浴施設。みんながみんなサウナを目的に訪れているわけではありません。サウナには興味がなく、純粋にお風呂を目的にいらっしゃるお客さんも多いはず。何を以ってサウナ好きかどうか判断するか。自らの勘を信じるしかありません。

そんななか、鵜の目鷹の目で来館者を追う筆者のセンサーにビビッと来たひとりの男性がいました。30代と思しきその男性に、意を決して声をかけます。

「すみません。“SAUNA BROS.”というサウナ雑誌の編集をしている者なのですが、もしサウナがお好きで、さらにお時間よろしければちょっとお話を伺い、写真を撮らせていただくことは可能でしょうか……?」

男性は笑顔で、「僕でいいんですか? 大丈夫ですよ」と答えてくれました。こいつは朝から縁起がいいわい。立ち話も何なんで、と男性にはベンチに座ってもらい、用意してきたアンケート用紙には自分の手で記入しながら話を聞いていきます。ただ、お名前だけは「書き間違えてしまうとあれなので」と、ご自身で書いてもらうのが、こうした取材を長年やってきて身につけたテクニックです。なお、今回の取材でみなさんに伺った質問はお名前に加えて、下記の10問でした。

①サウナ歴 ②ハマったきっかけ ③サウナの好きな点 ④草加健康センターに来る理由 ⑤サウナに行きたくなるのはどんなときか ⑥サウナに関するマイルールやルーティン ⑦必ず持っていくもの ⑧サウナブームの前後で変わったこと ⑨草加健康センターのオススメメニュー ⑩ひとこと

せっかくサウナを楽しみにいらした方の時間を奪い取っているので、撮影まで入れて10分前後では終わらせることを意識する一方、面白いお話をできるだけ引き出せるよう、広げるべき点は広げながらお話を伺います。このあたりの駆け引きこそ、街頭インタビュー取材の妙なのです。

たとえばこの一人目の男性は取材の最後に、こうおっしゃいました。「いま僕は仕事中ということになってるんですけど、写真バンバン撮ってもらって大丈夫っす(笑)」。申し訳なく思いつつも、最高のコメントをいただけました。わたしたちもみんな大人ですから、自分の機嫌は自分で取りつつ、スケジュール管理もしっかりする。大人の鑑のような方でした。初っ端から素晴らしい方に出会えたなと、ひとりウフフとシャッターを切りました。

進まない取材、過ぎていく時間。そして迫られる判断

その後も3人めまではトントン拍子で取材でき、これは案外スムーズに終わるのかもと思っていました。最初の男性のあとすぐには、20年来のサウナ好きで、この日も車で2時間近くかけてやってきたという二人組にお話を伺えたこともあり、完全に調子に乗っていた筆者。雑談も弾みます。しかし、11時を回ったくらいから取材に失敗することが増えてきました。というのも、平日の昼前ということからご年配のお客さんが多く、「サウナには入らないのよ、ごめんね」と断られるのです。また、筆者が40代男性ということもあってか、女性に対する声がけがことごとく失敗。ご婦人グループに断られ、20歳そこそこの女性2人組に断られ、同世代と思しきソロ活女性に断られ……。そりゃそうですよね。見ず知らずの中年男性が近づいてきて、入浴前後のすっぴんをカメラに晒せと言ってくるのですから!

さらにランチタイム、そして13時からアウフグースイベントが始まるということで、「飯食うからごめんね」「これからアウフグースだから早くサウナに行きたい」などと連敗を重ね、気がつけば2時間以上かかって3人しか取材できていません。こんなことなら今朝、駐車場で会ったお兄さんにも話を聞いておくべきだったと思うも後の祭り。あまりにもアフターフェスティバルです。

物販エリア周辺や大広間で目星をつけ、それとなく接近し、声をかける。そして断られる。このルーティンを何セットも繰り返し、3時間半ほど粘った結果、お話を聞けたのは6人でした。それだけの時間をかけて、まだ目標の6分の1にも満たないという厳しい現実に、ここは一度撤退するのも手か、と判断するのに時間はかかりませんでした。とはいえ、ほかの仕事もありますし、これだけに時間を割き続けるわけにもいきません。草加健康センターを後にし、会社に向かってバイクを走らせながら、土日に仕切り直す算段を立てていました。

そもそも筆者はなぜ、このように時間がかかる街頭インタビューが好きなのか。それは以前、バイクや自転車、自動車の雑誌を編集しているころに、こういった取材を何度も経験してきたのですが、このたぐいの取材は面白い人にたくさん会えるうえ、その人たちの愛車や愛用品をあれこれ愛でられるので、単純に楽しいのです。とくにバイク好きの場合は8割以上OKがもらえるので、手間をかけずに何百人ものお話を伺えるという、まさにWin-Winな取材。趣味の雑誌という点では同じだ、サウナ好きのみなさんもきっと気軽に話を聞かせてくれるだろうという希望的観測でのスタートでしたが、体感的には2割もOKが出ない。つまるところ、やはり人は自分の好きなもの(愛車)を自慢したい生き物なのですね……。

なお、どうしてお客さんの絶対数が少ないであろう平日に取材したかも説明しておきましょう。草加健康センターでは毎週火曜日のみ、フロントで「サウナ・スパ健康アドバイザー」の資格証を提示することで割引が受けられるというサービスがあるため、火曜日はサウナ好きの割合が多いと事前に伺っていたからなんです。逆に土日だとお客さんは多いものの、相対的にサウナ目的の方の割合が減る、とのアドバイスもあったので、どうしたものかと思ったものの背は腹に変えられず。ここにきて初めて、この取材、締切までに終わるのかしらんと、ちょっと心配になりながら土日を待つのでした。

次回、仕切り直した先で筆者を待っていたこととは? お楽しみに。

湯乃泉 草加健康センター
■住所:埼玉県草加市北谷2-23-23
■営業時間:10:00~翌8:00、先行入館パックは8:30から(入浴時間:10:00~25:30、土日祝前日は翌朝7:30まで。男性のみサウナ・水風呂限定で1:30~7:30)、朝風呂=5:00~7:30
■料金:[平日]=大人1,100円、リクライニングシート指定付(館内着・タオルセット付)2,100円[土日祝日]=大人1,300円、リクライニングシート指定付(館内着・タオルセット付)2,300円
詳しくは公式HP(https://yunoizumi.com/souka/)でご確認ください

シェアお願いいたします
  • URLをコピーしました!
目次