<連載> 友野一希「スケートときどきサウナ」-第3回/サウナと季節と…オノマトペ(!?)-


トップフィギュアスケーターとして、世界を舞台に活躍する友野一希選手。見る者を引きこむ豊かな表現力で“浪速のエンターテイナー”と呼ばれることも。
 
そんな友野選手、実は知る人ぞ知る“サウナ好き”でもあります。パフォーマンスと同様にぐいぐいと引き込まれてしまう友野選手のサウナにまつわるトークを、毎月1回、15日にお届けする本連載。
 
今月も練習の合間を縫って、オンライン取材の画面の中に「サウナ」と書かれたTシャツを着て登場してくれました。

(過去記事<#1><#2>を未読の方は、ぜひあわせてお読みください)

目次

サウナグッズにも、力をもらってます

――今月もよろしくお願いします!

「こちらこそ、よろしくお願いします。あれ、皆さんすごく笑顔ですね?」

――我々の連載の取材ということもあって、そのTシャツを着てきていただいてるんですか? なんだかうれしいです(笑)。

「あ、本当だ。サウナTですね(笑)。いや、とくに『SAUNA BROS.』さんの取材だから、というわけではなくて、けっこうふだんから着ています。部屋着としてもそうだし、寝るときに着ているものもあるし。近所の銭湯やサウナに着て行くことももちろんありますし、着ていてすごく楽でいられるんで」

――リラックスできる……えぇと、そういう服とかって“ダル着”って言うんでしたっけ?

「ふふ、そうですね。デザイン的にもほど良い“ゆるっと感”があるじゃないですか。文字の書体とかも好きですし、サイズ感とかシルエットも含めて全体の雰囲気がすごくいいなって。着ていてとにかく気持ちいい、みたいな。サウナを好きになり始めたころ、結構買っていましたね」

――Tシャツとか、パーカーとか、ふだん使いできるものも多いですよね。

「あ、パーカーもめちゃめちゃ気に入ってるものがあります。生地もすごく肌触りが良いし、肉厚だったりして。いろいろなブランドとサウナ施設だったりサウナを扱っているメディアとかがコラボしていたりもしますよね」

取材の時に着ていたサウナTがこちら

――ありますね。「FREAK’S STORE」と京都の銭湯さんとか。

「そうですそうです。きっとファッションに携わってる方の中にも、サウナが好きな人って多いんじゃないですかね。サウナの魅力というか、サウナの持つ雰囲気が、服にも反映されている気がしますから。

そういうアイテムの中に、完全に部屋着というか寝間着として着るスエットの上下とかもあって、応援してくださっている方から送っていただいたりもします」 

――それはうらやましいかも(笑)。

「はい(笑)。あの……寝間着とかってふだん自分ではなかなか買わないけど、『あ、いいなぁ、コレ』だとか、実は欲しいと思っていたりしませんか? だから、すごくうれしいです(笑)」

――分かります。

「はい、ホントに。先日も、あの……トントゥ(※)の置物というか、ストーンがあるじゃないですか。あれを送ってくださった方がいて」

(※トントゥ=フィンランドに伝わる、サウナ室に住む妖精。この妖精をかたどったサウナストーンなどをサウナ室やサウナストーブの上に置いている施設も多い)

――へぇ、いいなぁ!!

「はい。トントゥのストーンも前からカワイイなぁって思っていたんで、めっちゃうれしかったです。でも、その送ってくださった方がすごい方(!?)で。僕だけじゃなくスケーターみんなを応援してくださっているんですけど、サウナ好きのスケーターみんなに送ってくださっているという」

――すごい!

「そうなんです。いただいた時に、うれしかったんで『なんか、トントゥ送ってもらった!』って友人のスケーターに話したら、『俺もいただいたぜぇ』って。『すげぇ!』なんて言い合いましたもん(笑)」

――ますますがんばれちゃいますね。

「はい、本当にありがたいですし、力になりますよね」

季節とシーズン。サウナとスケート

――さて。最近の友野さんのサウナ事情もうかがいます。いよいよ本格的にシーズンに突入されましたが……。

「そうですね、グランプリシリーズなど、大きな試合が続くようになってきました」

――友野さんにとっては、この時期=秋や冬の感じ方が、私たちとはきっと違いますよね。ただの「季節」ではなく、スケートの「シーズン」……“さあ本番だ”みたいな感じもあるんでしょうか?

「まさに、そんな感じです。この時期になると、何をしていても常に頭のどこかでスケートのことを考えちゃってます。だから、シーズン中のサウナはオフのときに比べて、僕にとってはより大事な、貴重な時間かもしれないですね。サウナにいるときだけは、マインドリセットができるので」

――大事な時間。

「そうですね。ずっと同じ場所で練習して、1日1日を追いこんで、次の試合に向けて……という日々が続くので。試合が終わって、その結果が良くても悪くても、いったん、少しだけ“無”になれるというか。あ、追い込むと言っても、そんなに悲壮感があるわけではなくて(笑)、“もっとこうしよう”とか“だんだんノってきたから、次はこんな練習をしてみよう”とか、ポジティブなことのほうが多いですけど」

――でも、そうすると……サウナがなかったら、どうしていたんでしょう?

「ほんと、僕もそれ、ときどき思います。どうしてたんでしょうね、サウナがなかったら(笑)。うん、どうしていたんだろう……。何かしらの違う形でリラックスする方法はあったと思いますけど」

――何かしらの、違う“没頭できるもの”とかですかね。

「人によっては、それが音楽だったり、映像を見たり。あとは、美味しいものを食べたり、とかしていらっしゃいますからね。あ、でもゲームをする、なんていう選手が多いかな。意外とみんな、外に出たがらないんですよね。僕もサウナに出会ってなかったら……ほとんど外出しないで、ゲームしたりNetflixをずっと見てたり。そんな感じだったかもしれません(笑)」

――サウナがあって、良かった?

「はい。間違いなく(笑)。僕の中では、不動の一番の存在です。なんか難しいこと抜きで……もう、何か、すべてを洗い流せる場所ですから。(結果が)悪かったときは、厄を汗と一緒に流して落とすというか、“またがんばればいい”って前向きになれますし。良かったときも天狗にならないように……“隙”みたいなものが生まれがちなので、それを洗い流すという」

――いいですね、その感覚。

「半分趣味ですけど、良くも悪くも、常に自分をリセットできる場所。救いになってますし、それこそ力をもらえています」

――分かりました。では……競技は別として、感覚的に一番気持ちのいい季節はいつですか?

「あぁ~、それは難しいですね。やっぱり冬が好きな気もするんですけど……いや、でも冬は意外と寒すぎる(笑)」

――そうですね(笑)。

「でも、ガンガンにアツくなった体が冷めるというか引き締まる感じがやっぱり好きなんですよね。だから、ちょっと肌寒い……くらいのコンディションがいちばんいいんですよね。なので、ちょうど今くらい=秋から冬にかけてのサウナがいちばん好きかもしれないです」

――夜の冷気とか、気持ちいいですよね。

「実は僕は、あんまり夜遅くとかは行かないんです。とくにこの時期は。なんとなく自分に余裕があるときにしか行かないので、練習を夜までやったときはどちらかというとすぐに家に帰って寝たくなっちゃうので(笑)。お昼過ぎくらいまでに練習が終わった日とかに行くことが多いかもしれない」

――夕方くらいまで、って感じ?

「そうですね。最後のセットを終えるくらいに、晴れた日は夕焼けを見たりしてることが多い気がします。あれ、好きなんですよね。日が沈むのを眺めている時間。“ふわ~っ”とか“いいじゃ~ん”とか言いながら」

美しい夕焼け(友野さん撮影)

サウナとボクと、オノマトペ(ひとりごと)

――言いながら(笑)?

「まわりに人がいなかったら、言葉が出ます(笑)。けっこう僕、独り言を言うこと多いんですよ。擬音を発することもあれば、単語で言うこともあります」

――気持ちは分かるんですが(笑)、実際に口から出るんですね? ほかにはどんな擬音が?

「気持よくなってるときに『ホエ~っ』とか、水風呂に飛び込んだときに「ぴぇ~っ」とか(笑)。アレ!? あらためて言うとちょっと恥ずかしいかも……。変人やん(笑)。でも、言っていますね、擬音もそうだし、言葉もいろいろと。熱くなってサウナ室を出た瞬間とかにも『サウナ、出たぁ!!』とか小声で。あとは……着替え終わってサウナ施設を出るときにボソッと『あぁ~、気持ち良かった』とか、ドリンクの自販機の前で『よ~し、何にしよっかな』とかも(笑)」

――(笑)。

「いや、大声じゃないですよ! あくまでも小声で、ボソッとですから。でも、何か行動するときに声に出したり、擬音と一緒に体を動かすのって、いいんじゃないかなって思いますよ!!」

――あ、たしかに。あらためてそのときの気持ちを確認できたり、心がフッと軽やかになったりしますね。

「オノマトペみたいなものだと、半分、奇声っぽいこともありますけど(笑)。でも、まわりの人の迷惑にならない限りは、自然と出る声を僕は我慢しないです」

――演技の動きやジャンプのタイミングなども、擬音の感覚とかで覚えたりすることもありそうですね。

「ありますね。『シュパッ』とか『“タン・タン・タン”じゃなくて“タ・タ・タン”だ』とか。海外の先生やコーチも『ラッタッタッ』とか言いながら教えてくれますし。たとえばテニスや卓球とか、いろいろな競技の選手も、テレビ中継でよく声が拾われたりするじゃなですか」

――はい。アスリートあるあるなのかもしれませんね。

「そうやって擬音を使って覚えたりすると、体の動きも良くなるんですよね。体と声、それと気持ちってやっぱり連動してるんだなって。朝起きたときに大きく伸びをすると声が出ることもあるし、それで体も気持ちもシャキッとしたりするじゃないですか。それが、僕の場合はサウナでも出るんですよね。……ハイ、出がちです(笑)」

――サウナでよく出るのは……なんでしたっけ?

「『ホエ~っ』とか、『ぴぇ~っ』とかですね……(照)」

【友野一希(ともの・かずき)】
1998年5月15日生まれ。大阪府出身。4歳よりスケートを始め、ジュニア時代から表現力の豊かさには高い評価が。“氷上のエンターテイナー”“浪速のエンターテイナー”等とも称される。2021-22年シーズンには、四大陸選手権で2位、世界選手権で6位。新シーズンもさらなる躍進を目指す。グランプリシリーズ第5戦:日本大会(NHK杯/11月18日~20日に開催)に出場。

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