公開中の短編映画プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season3』の9作品の一つ、「サウネ」はサウナ好きの松居大悟が監督・脚本を務め、長年続いたサウナの最終営業日に集まった人々の悲喜こもごもを描いた作品です。そんなサウナ映画をSAUNA BROS.が放っておくはずがありません!……ということで、「サウネ」インタビュー特別編を送ります。#1、#2はメーンキャストの善雄善雄さん、奥村徹也さんのお二人、#3、#4は松居大悟監督、#5、#6は清水みさとさんから、撮影エピソードやご自身のサウナライフについて、たっぷりお届けします。
◆映画「サウネ」は大晦日の「船橋グランドサウナ」で生まれた⁉ 「サウネ」にはアナザーストーリーもありました
——「MIRRORLIARFILMS」プロジェクトに参加した経緯を教えてください。
去年春ごろに「MIRRORLIARFILMS」さんからお話をいただきました。主宰している劇団「ゴジゲン」の劇団員と一緒に作れるならということでお受けしました。どういう内容にしようか考えていた時、コロナ禍でサウナ施設の営業が難しくなっていることに胸を痛めていたんです。だから、そういう人たちの精一杯の人間模様を描けたらと思いました。長編でサウナにまつわる作品をやったことがなかったので、まずは短編で挑戦してみようと。
——「サウネ」の構想は?
BS朝日さんが力を貸してくれて、サウナ施設の最終営業日のお客さん側の話を映画「サウネ」で、従業員側のお話をBS朝日「ネッパ」で放送することになりました。お客さん側と従業員側、変わりゆく場所での変わらない気持ちなど、それぞれの目線を描くことで、「MIRRORLIAR FILMS Season3」のテーマの“変化”にも沿っていて良いなと思いました。
——善雄善雄さんを主人公に起用したのはどうしてですか?
「ネッパ」は従業員側のお話で、50年も営業を続けてきた施設が終わってしまう、それをお客さんに言わずにこっそり締めるみたいな切ないストーリーになったんです。なので、「サウネ」のほうは、お客さん側の、ちょっと軽めのラブストーリーがいいなと思って。善雄くんは主人公の好きな人にその気持ちをうまく伝えられない感じやラストの何気ない感じが良いなと思いました。
——では、主人公の後輩でサウナビギナーという役どころの奥村徹也さんについては?
奥村くんは、後輩気質で、ストイックじゃないように見えるところですね。サウナもすぐに出ちゃいそうに見えるところが、善雄とのバランスも良いと思いました。「ちょっと無理です。早く出たいです」みたいな。実は、劇団メンバーからサウナを勧められたのがサウナにハマったきっかけなんですよ。だから、実際には奥村くん自身はサウナビギナーではないんです。
――今回の撮影は「船橋グランドサウナカプセルホテル」(以下「船橋グランドサウナ」)で行われたそうですね。
台本を書いている途中で、プロデューサーの柳橋さんとマグ万平さんにご協力いただいて探してもらいました。撮影するにあたっては、サウナ付き銭湯だと小さすぎて、スーパー銭湯だと大きすぎて。いわゆるサウナ専用施設がいいね、と話し合って。基本的にサウナは横長が多いんですけど、引きの画が撮るための引き尻が必要なので、真四角系が良くて。さらに、サイドとセンターで囲むような形のサウナで、真ん中で熱波師がタオルを回すような構造が理想的だと思いました。いくつかあたっていただいて、「船橋グランドサウナ」さんに決まりました。レトロで味があって、大浴場の雰囲気もよかったので是非、ここで!とお願いしました。
——「船橋グランドサウナ」には撮影前に行ったことはありましたか?
去年のクリスマスイブが終わったくらいの頃に、撮影ができるかもしれないと聞いて、嬉しくなって12月31日の大晦日に行きました。お客さんとしてサウナを楽しみながら、そこで台本を書きあげて。大晦日だけど、普段と同じで、誰も浮かれていなくてすごく良かったですよ。テレビで紅白が流れていても、ただ普通の日みたいに、みんながサウナに入っている感じが居心地がよかったです。その後、正式にOKが出たのでスタッフと一緒にロケハンに行って、またサウナに入りました。
——サウナ施設での撮影はいかがでしたか?
サウナ施設で映画の撮影なんてみんな初めてだったので、結構、話し合いました。作品としてはリアルな感じで撮りたいけど、「船橋グランドサウナ」のサウナは結構熱いほうだから、10分撮影しただけでも大変なことになってしまうので……。役者さんがお芝居できなくなるのもそうだけど、カメラのレンズが曇るし、機材も壊れてしまう。その辺りのことを考慮して、サウナの温度を50度ぐらいまで下げて、オレンジの明かりをつけてもらう形にしました。役者には汗を足して、サウナ室感は失われないようにしつつ、健全に撮ることに気をつけました。
——とはいえ、50度の中で撮影ですよね……
まあ、50度はちょうどよくずっといられました。水風呂もちょっとぬるくしましたね。15度だと2,3分しかいられないので。船橋グランドサウナの水風呂は、冷却機能がついているので、ずっと冷たいんですけど、それをお湯で調節しながら、25度~30度ぐらいにしていました。
——撮影中、印象に残っていることは?
全員裸で撮影するのでハプニングだらけでしたね(笑)。最初、ベージュのパンツを用意してもらったんです。けど、サウナは表だけを隠すから、横から撮ると変になってしまって……。結局、パンツもやめて、前張りもやめて。役者のみなさんには自分で死守していただくことにしました。隠すのがなかなか難しくて、ハプニングだらけで、そのシーンに出ていない人たちで、モニターを見ながら、「善雄さん今、出てなかった?」とか。チェックをして(笑)
——サウナ施設の女性スタッフに片想いしている男性が主人公ですが、松居監督ご自身もサウナ施設のスタッフにときめいたことがあるのですか?
みんなあるんじゃないですね? サウナに入っているとすごい五感が冴えわたるというか、感覚が研ぎ澄まされているので、ゲレンデ現象みたいな。街で会ったら普通にすれ違っているのかもしれないけど、なんかゲレンデにいると綺麗に見えるみたいなのが、サウナ施設にもある気がする。みんな言わないだけで、多分。
——映画「サウネ」の見所を教えてください。
プロジェクトの9作品でいろいろなテイストがある中で、ちょっと肩の力が抜けるような感じの作品が一個ぐらいあってもいいんじゃないかなと思って作ったところもあるんです。だからリラックスしてみてほしいなと思います。「サウネ」単独の作品として言うならば、短編だからこそ、メインの二人を描いているけど、他の人たちの表情も感じてほしいです。最終営業日というちょっと寂しい時間だけれども、だからこそ そういういろんな人たちの背景も含めて楽しんでもらったら嬉しいなあと思います。今後放送予定の従業員側のドラマ「ネッパ」も是非、合わせて見てほしいです。サウナの作品がいっぱいあったりする中で、「サ道」とかはいろんな施設のいいところを人間ドラマと一緒に描いていますよね。僕はお客さんの心境やスタッフさんの心境という、サウナにまつわる人々の気持ちを中心に描いたので、その部分を楽しんでもらえたらと思います。
松居大悟
1985年11月2日生まれ。福岡県出身。
劇団ゴジゲン主宰。2012年「アフロ田中」で長編映画初監督。ほかに「私たちのハァハァ」「アイスと雨音」「アズミ・ハルコは行方不明」「くれなずめ」など。枠に捉われない作風は国内外から評価が高い。テレビ東京系列「バイプレイヤーズ」シリーズも手掛け、J-WAVE「JUMP OVER」ではナビゲーターを務める。最新作「ちょっと思い出しただけ」もロングラン公開中
文/奥澤しのぶ