上野駅から徒歩1分。「サウナ&カプセルホテル 北欧」は、言わずと知れた、あのドラマ「サ道」の“ホームサウナ”。サウナ好きでなくとも、その名だったり、赤い壁の外観などは多くの人に知られていますよね。
現在発売中の最新号「SAUNA BROS.vol.6」では、多様なテーマで全国のさまざまな魅力あふれるサウナ施設を訪問・取材し、掲載しています。今回はそれらの中から、この「北欧」をあらためてクローズアップした特集をギュッと凝縮してお届け。
愛好家たちを惹きつけてやまない、あの気持ちよさにはどんな秘密があるのか。また、ここの「カレーライス」は日本一有名なサ飯ですが、ほかにもおススメのメニューを菅剛史支配人にうかがったり。さらなる「進化」の最新情報も聞いてきました。
では、始めていきましょう!
重厚な熱さ。無になれる時間――今日も唯一無二の安らぎを求めて
まさに定期的に、“その時”が訪れるんですよね。どこかのサウナに行きたいわけではなく、どうしても「北欧」へ行きたくなってしまう時が。
重厚で風格のある石の壁。味わい深い据え付けのライトから放たれる仄かな光。そして小窓から差し込む陽光をぼんやりと見つめる、あのサウナ室での時間。
もちろん雰囲気だけじゃありません。
扉を開いた瞬間に、ガツ~ンと全身を包み込んでくる、あの密度の濃い熱さも恋しいんです。なんというか……体が覚えてしまったあの気持ちよさは、やっぱり唯一無二なんじゃないでしょうか。
座面に腰を下ろして数分経つと、少しずつ、でも確実に意識がぼんやりとしてきます。テレビの映像や音が、たしかに目や耳に届いてはくるんですが、不思議と何も頭には入ってこなくなります。次第に自分が空っぽになっていくあの感じ。やっぱり好きなんですよね。
温度計の針は、常に軽く110℃オーバー。
石壁からの輻射熱もあわせた「安定の熱さ」に加えて、利用客同士が「あうん」の感覚で行うセルフロウリュもあって、常時、絶妙なセッティングがキープされています。
ストーブ上の熱反射板の形状や角度、周囲を照らす赤いライトも実に美しいですよね。
「サウナ室の全体的なつくりは、オープンの時(※平成4年=1992年)からほとんど変わっていないんですよね」とは、支配人の菅剛史さん。
でも、当初は熱さの“質”が現在とは全然、違っていたそう。
「当時は、サウナ室の温度が今より少し低めの100℃ちょっとぐらい。100~105℃くらいの感じでした。その一方で湿度にはあまり気を配っていなかったんで、かなりカラカラのサウナ室だったんですね。
でもあるとき、タナカカツキさんの、マンガじゃない方の『サ道』っていうエッセーがあるじゃないですか? あれを読んで『湿度が大事なんだ』ということにあらためて気づいたというか」(菅さん。以下同)
利用客に、少しでもいいサウナを味わってもらいたいと、「勉強のためにいろんなサウナ施設に行ったりもしていた」という菅さん。あらためて参考にした施設が、同じ台東区の鶯谷にある「サウナセンター」だったそうです。
「よく行っていたんですよ。その『サ道』を読んだときに、好きな理由はコレだったのかもしれない、って思いました(笑)。
その日から、あらためてじっくりサウナセンターさんのサウナ室を観察して。まずは同じようにサウナストーブの横に鍋を置いて、水が蒸発してきたら継ぎ足して……みたいなところから始めましたね」
湿度を調整しながら、温度も模索すること数年。コツコツとバランスを探った結果、現在のセッティングにたどり着いたそう。
清冽な水風呂や外気浴エリアも、幾度ものアップデートを経て現在の形に
さて、「北欧」の魅力は、もちろんサウナ室だけではなく――あの清冽な水風呂に入る瞬間だったり、何よりも、あの外気浴スペースでの休憩の時間だったりもします。
もちろんこれらも、さまざまな試行錯誤の賜物のようです。
「もともと水風呂は18℃くらいで、今よりもかなり高めの水温だったんですよね。でも、サウナ室の熱さを変えたこともあって、より気持ちよく楽しんでもらうには……と、そこのバランスも並行して探っていって。本当に微妙に温度をずらしながら、いろいろと試しました。それで現在の、だいたい13℃くらいの水温がいちばん良いんじゃないかなって。まぁ、あくまでも私の個人的な好みだったりはするんですが(笑)」
サウナ室の温度との差はおよそ100℃ほど。もちろん、単純に温度差が大きいのがいいとは思いませんが、あの重厚な熱さのあとの、このキリっとした冷たさは本当に気持ちいいです。菅さんの「好み」で、バッチリだと思います。
アッチアチの体をこの絶妙な水風呂でキュッと引き締めたら、外気浴エリアへ。
「ここも、当初は露天の浴槽の脇はすべて白い玉砂利を敷いたスペースだったんです。当時のお客さんの中には、健康のためなのか足の裏で踏んで歩いたりしている方もいらっしゃいましたね(笑)。
でも、そうじゃないんだよな、と。もっと休憩する場所として使ってもらうには……と、玉砂利を撤去して、木の板を敷いてイスを置くようにしたんです。でも、ほとんど皆さん、使ってくれなかったですけど」
たしかに。かつては「休憩」という概念がなかったですよね。
「そうなんです。皆さん、サウナ室と水風呂をひたすら往復されていましたから。それが変わってきたのは2017年とか2018年とか。一度、テレビでこの店が紹介されたことがあったんです。そうしたら急に座る人が現れて。はじめは2脚だけだったのが、倍にしても足りなくなり、さらに倍、そのまた倍に、って」
当時はまだ「サウナイキタイ」などもなく、みんな情報を求めていた時代でもありました。その番組により、「北欧」の存在が愛好家たちに一気に知られるようになったんでしょうか。
「そうかもしれませんね。その後、2019年にドラマの『サ道』のロケに使わせてほしい、というお話がきたんですが、最初はどうしてウチなのかが分からなかったんです。でも、スタッフさんの中に見覚えのある方がいたり、『よく来ているんです』なんて言ってくれる人もいて。
『あ、来ていてくださったんだ』『知っていてくれたんだ』と、あのときはうれしかったですね」
食堂や休憩室で多幸感が持続&増幅。おススメのサ飯はコレだ!?
浴室以外にも「くつろぎ」や「リラックス」を感じられる空間が整っているのも、もちろん「北欧」が支持され続けている理由の一つでしょう。
「実は、はじめは“サウナを出たあとのスペース”の方に割と力を入れていたんです。タナカカツキさんの本を読むまでは。
『後楽園サウナ』さん(※「サウナ東京ドーム」と改称後の2013年に惜しまれつつも閉店した伝説的な名施設)とか、それこそ『サウナセンター』さんもそうですし、どこも、いいお店はご飯もすごく美味しいし、雰囲気もいいし」
その言葉どおり、階下にあるリクライニングエリアや食堂もまた……ずっと居られる居心地の良さに満ちています。とくに、食堂のメニューの充実ぶりたるや!
「そう言っていただけるとありがたいですね。ドラマの影響もあってか、『カレーライス』がやっぱり一番人気なんですが、ほかのメニューもすごくこだわって調理してもらってますから、自分たちで言うのもなんですが、すべて自信作なんですよね。もちろん僕も、考案・開発のときから実際にお店で出せるようになるまで、すべて必ず試食しています」
ラーメンなども気になりながら、ついつい「北欧特製カレーライス」ばかりオーダーしてしまっている筆者。ちょっと反省(!?)です。
「いやいや、もちろんそれもありがたいんですが(笑)。でも、どの料理にも本当に愛着があって(笑)、ぜひいろいろと味わっていただけたらとは思います」
あえて、数品、菅さんにおススメをうかがってみました。
「いやぁ、本当に難しいなぁ。僕自身もよく食べたり、個人の好みも入っちゃうんですが、それで言うと、この3品かな」
それがコチラです。上から「味噌ラーメン」「若鶏の唐揚げ」「肉茄子味噌炒め」。
う~ん。どれも美味いです。
いやぁ、これはどこのサウナ施設さんでもそうなんですけど、シンプルだし、そんなに「特別」じゃない、どこにでもあるメニューが美味しいというのは、なんだか本当にうれしいしホッとするんですよね。
今秋に新たなサウナ室が爆誕! 30周年を超えて今なお進化が止まらない!
サウナにはスタッフの思いがあらわれる、とよく言われますが、「北欧」もまさにそう。菅さんはじめ、スタッフの皆さんの、たゆまぬ「おもてなし」の心が、創業から30年もの間、注がれ続けて現在に至っているわけですが――なんと、うれしいニュースが!
「実は今年の秋を目標に、もう一つ新しいサウナ室を増やそうと思っているんです。もちろんスペースには限りがあるので、そこまで大きくはできないのですが」
一番大きなきっかけは、人気施設の宿命でもある「混んでしまう」ことの緩和だそうです。
「ありがたいことに、本当に多くのお客様に来ていただけるようになって、サウナ室に行列が出来たり、受付でも並んでいただくようになってしまって。コロナ禍もあって、数年前から午後の時間帯は事前予約制にさせていただいたんですね。
本当はカジュアルに楽しんでいただきたいので、かなり悩んだというか、苦渋の決断だったんですが、それでも、時折、サウナ待ちの列ができてしまうんです。
せっかく気持ちよくなりに来ていただいているのに、ストレスを感じられていたら申し訳なくて。予約制については、引き続き悩みどころですが、まずは少しでも出来ることをやりたいな、と」
実際に7月から工事がスタート。サウナ室と隣接する水風呂のちょうど向かいの部分(以前まではカーテンで仕切られ、リラクゼーションが施術されていたスペース)に、囲いが設けられているのですが……。
現在(※8月10日時点)、サウナ室の基礎部分や壁なども設置され始めていて、順調に少しずつ完成に近づいているのが分かるのも、ちょっとうれしいです。。
「混雑の解消というだけでなく、いまあるサウナ室とは少しタイプの違うサウナ室を、とも思っているんですね。現在のセッティングや水風呂の温度なども、言ってみれば私の好みだったりはするので(笑)、『コレがいいサウナなんだ』なんていう気持ちはまったくないんです。
ここ数年、いろいろな新しい施設も出来ていますし、さまざまな快適なサウナも増えていますよね。そうした施設をリスペクトしたり、お客さんの声を聞いたりして、ウチも出来る進化はどんどんやっていきます。
サウナ室に限らず、本当にお客さんに『来て良かったな』『気持ち良かったなぁ』と思ってもらえる施設であり続けたいと思っていますから。
ご覧のように、営業しつつの改装なので、浴室が少し狭くなってしまってご迷惑をおかけしているのが心苦しいのですが」
いやいや、全然です。めちゃくちゃ楽しみです。
ハード、ソフトの両面であくなき進化を続ける「北欧」。やっぱり多くのサウナ好きにとって、この赤い建物は……“唯一無二”の存在なんですよね!
※現在発売中の「SAUNA BROS.vol.6」では、菅支配人へのロングインタビューも掲載しています。ぜひそちらも併せてご覧ください!!
サウナ&カプセルホテル 北欧 (※男性専用施設)
■住所:東京都台東区上野7-2-16
■営業時間:年中無休、24時間営業(宿泊利用) ●サウナのみ利用は、前5:00~10:00(早朝コース=3時間利用/予約不要)、および後0:00~11:00(3時間利用/要事前予約)
■料金:前5:00~10:00(早朝コース/3時間利用)=1,600円、後0:00~11:00(3時間利用)=2,000円 ※土日祝、特定日はプラス200円
撮影/長谷繁郎