僕が富士山麓でサウナイベントを開いたワケ

「FUJI ROCK FESTIVAL ’24」が開催された7月27・28日、第1回「FUJI ROCK」が行われた富士山麓では、富士山“溶岩石=ROCK”をサウナストーンに使ったサウナイベントが熱気であふれていた。一体なぜココで…? その目的と今後の展望とは?

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僕が富士山麓でサウナイベントを開いたワケ

静岡県富士宮市にある「富士山こどもの国」で行われた「ととのう!サウナ体験」は、静岡で新しいサウナ文化を世界に発信するべく設立された「静岡サウナ協議会(We SAUNA Shizuoka、以下:WSS)」が主催。

Tシャツに入った「WSS」のロゴもまぶしい理事の神田主税さんは、「 “静岡らしい絶景スポットで静岡にゆかりのある方と一緒にサウナを楽しんでほしい”と思い、企画しました。この6月に富士山静岡空港のテラスで行ったテントサウナイベントに続き、2回目。屋外のテントサウナで思いきり汗を流し、富士山の湧き水を使った水風呂に入り、富士山を臨みながら、サウナ仲間とゆったりとととのう。それって、最高にぜいたくな時間じゃないですか?」と、イベント開催の趣旨を語る。

神田さんは浜松市の出身で、三島で暮らしながら東京の大手企業に勤務。 「本業は『3×3Lab Future(さんさんラボ フューチャー)』という東京大手町にある社会課題解決や地方創生に取り組む拠点を軸に、全国の自治体と連携しながら活動しているのですが、いざ地元に目を向けてみると、静岡には特徴のあるサウナがたくさんあるなと。なおかつ、サウナで重要な要素の一つとなる水にも恵まれていて、サウナと相性のよい自然や食なども豊富にある。地域を活性化するポテンシャルが静岡のサウナには秘められているんじゃないかなと思いました」。

人生変えちゃった!? 北海道十勝の名物サウナ

いわく「私自身もサウナは大好きですが、まだビギナー」。サウナのよさに気づいたのは、4年ほど前だ。北海道は十勝・帯広の地方創生プロジェクトに携わった際、牧場内にあるプライベートサウナ「十勝しんむら牧場 ミルクサウナ」(河東郡上士幌町)を体験。「それまで持っていたサウナの概念を覆された」という。

「閉塞感のある場所で、修行僧のように熱さに耐える……というイメージがあったのですが、『ミルクサウナ』は目の前に広がる北海道の大自然が美しくて、湧き水の水風呂もめちゃくちゃ気持ちよかった。代表で牧場主の新村浩隆さんからサウナの入り方を教わりながら入ったんですけど、その体験が強烈で。いただいた牛乳がまた、信じられないくらいおいしかったんですよ」。

そこから一気にサウナにハマっていくうちに「『ミルクサウナ』のような体験を、静岡のサウナでも味わってほしいな」と、すぐさま「十勝サウナ協議会」の発起人で「森のスパリゾート 北海道ホテル」社長の林克彦さんに相談。今年2月、晴れて「WSS」設立となった。

サウナを通じて静岡全体の魅力を発信したい

静岡のサウナといえば、まず「サウナ しきじ」(静岡市)が頭に浮かぶ。県内外から多くの人が訪れる、ご存じサウナ愛好家の“聖地”だ。

「『しきじ』に魅力があることに、まったく異論はありません。ただ、影響力が強すぎて、静岡を訪れるサウナ好きは、そこ一択になっている。県内にはほかにも、すばらしいサウナ施設がありますし、サウナ目的で訪れた際には、ぜひ会ってほしい魅力的な人や見てもらいたい自然やスポット、食べてほしい野菜や果物、魚介類や肉などもたくさん。『WSS』では、そうした静岡全体の魅力をサウナとともに発信していきたいと考えています」。

実際、取材に訪れた28日のイベントでは、富士山の湧水をかけ流しにした水風呂のほか、名産の深むし煎茶や和紅茶(全国茶品評会で数々の受賞歴を持つ三川茶処「にしたな」の“翠-みどり-”と“Yabukita Black tea”)を使ったお茶ロウリュ、地元大学生が静岡産のハーブを調合し、三島のせせらぎをイメージしたという「LOFWA」(三島市)のアロマロウリュをテントサウナで体験。三者三様に香るサウナはもちろんのこと、冷たいけれど、やさしい湧水の水風呂(この日は13℃!)が、とにかく気持ちよかった。

ほか、無料提供された「WSS」の推奨フードで、伊豆の名物ところてんをサウナ用にアレンジした「サウナところてん」(「ところてんの伊豆 河童」)には静岡を代表する品種「青島温州みかん」が入っていて、さっぱりと食べられた。“サ飯(サウナ飯)”=ガッツリというイメージが強いが、屋外ではこれくらいがちょうどいい。ところてんはミネラルが豊富というから、汗をかくサウナ中の補給食にもピッタリだろう。

地元自動車部品メーカーが作ったテントサウナ

サウナを通じた地産地消は、水やロウリュ、サ飯にとどまらない。聞けば、今回のイベントで使用されたテントサウナも、御前崎市の自動車部品メーカー「エイケン工業」が手がけた“県産”だそうだ。

この日、3つのテントを切り盛りしていた同社開発部・鈴木大成さんによれば、「私どもの会社も、静岡を盛り上げたいという気持ちは同じ」。静岡からテントサウナを製作し、発信することで地元の活性化につながることを期待している。

「試作を繰り返した末に、ようやく納得がいくサウナストーブにたどり着きました。テントも最大で6名を収容できるなど、海外輸入のテントサウナよりも広く、快適に過ごせると自負しています。窓を大きくすることで閉塞感を軽減し、景色も楽しめるようにするなど、工夫も凝らしていますので、これまでサウナに興味がなかった方も試していただければ」

ブランド名は「Garage sauna」。柄の長さが1mはありそうな長くて使いやすいラドルも自社製。薪は地元の間伐材を使い、冒頭で述べた富士山溶岩石のサウナストーンは「空気が多く含まれていると石が冷めやすく、ロウリュが十分に楽しめないため、目の詰まった蓄熱性の高いものをセレクトした」とのこと。

イベントで使用したサウナストーブで試作から13号機目。まだまだ開発途上だが、「14号機、15号機と改良を重ねて、より丈夫で使い勝手のいいものを作っていきたいです。ぜひ静岡の美しい山や海で使っていただいて、おいしい海の幸、山の幸を食べてください」と地元をPRする。

あのお風呂ソムリエも静岡を盛り上げる

こうした「WSS」の活動に、賛同者も増えてきた。イベントでサウナの入り方や健康への影響などを解説した「BATHLIER(バスリエ)」(千葉県我孫子市)の代表で、裾野市にあるサウナのテーマパーク「サーマルクライムスタジオ富士」のオーナー、松永武さんもその1人。

「長年、お風呂文化の啓もうをやってきた中で、温浴を通じたコミュニティが作れたらいいなと思っていたんです。そういう意味で、今回のような男性も女性も、大人も子どもも関係なく楽しめるサウナイベントというのは、非常に有意義。温浴という文化を広めていく上で、すばらしい試みだなと思い、参加させていただきました」

テレビでもおなじみの松永さんは、寝具メーカーに勤めていた経験から「質のいい睡眠にはお風呂が大事」と考え、2005年2月に温浴関連のことなら何でも手がける「バスリエ」を創業。2022年3月には日本、フィンランド、ドイツなど6種類のサウナが揃う「サーマルクライムスタジオ」をオープンしたが、それまでは静岡県には馴染みがなかった。

「神田さんもおっしゃっていたと思いますが、静岡に来て知ったのは、とにかく水がきれいであること。気候がいいこと。食べ物が何でもおいしいこと。温浴文化を広めるには最適な土地だと思います」

ゆくゆくは「これまで視察で何度も巡ってきたフィンランドやドイツのようなサウナ文化が日本に根づけば」と願っている。

「土地によって食が違うように、サウナを含めた温浴も、その土地ごとの楽しみ方、特色があっていい。静岡発で、そうした本場のような、本当の意味での温浴文化が広まっていくとうれしいですね」

静岡サウナのポテンシャルを発信したい

その思いは、神田さんも同じだ。「“ととのう”はサウナの楽しみの一つではありますが、それがすべてではありません。自然や食など、いろんな要素を組み合わせることで可能性が広がっていく。静岡で、サウナの新たな価値を創り出せると思っています」と、力を込める。

サウナと親和性のある分野…例えば、キャンプであるとかツーリング、サーフィン、釣り、Jリーグの観戦(サッカー王国静岡には、神奈川県に次ぐ4チームが県内にある)など、レジャーを目的に静岡を訪れる人も多い。

「東西に横長の県であるため移動のハンディはありますが、逆にいえば、首都圏にも中京圏に近くて、どこからでも来やすい。サウナ×レジャー以外にも、商談などを行うサウナ×ビジネス、健康のために訪れる方のためのサウナ×ウェルネス、静岡はサッカーをはじめスポーツが盛んですからサウナ×スポーツなど、さまざまなかけ算ができればと考えています」

静岡は、サウナには欠かせない良質な水はもとより、今日のように薪ストーブを燃やす間伐材も手に入りやすい。海に山、川、外気浴をするための自然にも恵まれているため、「サウナ文化が根付く可能性が十分にある」と神田さん。

「さらには、人もいい。『ミルクサウナ』の新村さんしかり。サウナ好きは施設の方々の人柄に魅かれている部分も大きいと思うんですけど、その点、静岡も個性的なオーナーさんやバイタリティにあふれた支配人さんが多いです。みなさんサウナ愛が深く、静岡のサウナ文化を発信したいという思いは同じだと感じます」

富士山とお茶とミカン、ウナギだけではない、新たな静岡の魅力。今後は「静岡のサウナが、さまざまな人たちが集うコミュニティベース、交流拠点になれば」と、展望を語る。

「眺めのいい環境で景色や会話を楽しみながら、ゆったりとぜいたくな時間を過ごす。みんな裸だから、一緒にサウナに入ると、初対面の人でも自然と距離が縮まる。会話をして交流が生まれる……いずれはフィンランドやドイツのような社交場になればいいなと思います」

イチ施設の力だけでは、なかなか発信できない秘められた静岡のサウナのポテンシャルを「点と点でつなぎ、線や面にして」拡大するのが、「WSS」の大きな役わり。

「『WSS』設立の際、お世話になった『十勝サウナ協議会』さんをはじめ、長野の『信州サウナ同盟』さん、山形県西川町の『サウナ月山協議会』さん、宮崎の『宮崎ひなたサウナ協会』さんら、地方のサウナ団体と連携を取りながら、それぞれを行き来するツアーなど組めればいいかなとも考えています」

とはいえ、「サウナの目的や入り方はさまざま」。まずは「サウナの楽しさを知ってほしい」というのが、神田さんをはじめ「WSS」の切なる思いだ。

「1人、じっくりと蒸されるもよし。家族や友人と会話するもよし。外気浴中に音楽を聴くもよし、読書をするもよし。今日のイベントのような機会を通じて、そうしたととのう以外の楽しみ方も広めていきながら、いずれは静岡独自のサウナ文化を確立したいです」

神田主税(かんだ・ちから)
1977年生まれ。静岡県三島市出身。三菱地所㈱エリアマネジメント企画部に所属しながら、エコッツェリア協会「3×3Lab Future」館長を務める。「静岡サウナ協議会」の発起人の1人で理事。趣味はアウトドア、そして、もちろんサウナ。

撮影/山口京和
取材・文/橋本達典

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