雑誌として発売している「SAUNA BROS.」と、お読みいただいているこのWEBサイト「SAUNA BROS.WEB」。その両方で横断的に掲載している特集シリーズ「GO! 1010-37!!」(ゴー! 銭湯サウナ!!)は、ご近所にあったり、料金もお手頃だったりと、私たちの暮らしにとても身近な存在の「銭湯サウナ」の魅力を東京の人気銭湯を訪ねてあらためて深掘りする企画です。

今回うかがったのは、東京・豊島区は椎名町にある「妙法湯」さん。皆さんもご存じとは思いますが、ここ数年、東京都内では数多くの銭湯サウナがリニューアルを行ったり、さまざまなサウナ好きに向けての新たなサービスを展開したりしています。

そうした「ムーブメント」を少しひも解いてみると、実にさまざまなところで、この「妙法湯」さん、そしてご店主の名前が登場してきます! そう。ここ数年の東京の銭湯サウナシーンの、キーパーソンの一人なのです。

◆「松本湯」、「巣鴨湯」、品川区の「富士見湯」には、ある共通点が!

現在5号目まで刊行している「SAUNA BROS.」では、サウナ好きの皆さんが支持する施設を数多く取材してきました。上記の見出しにある3施設も、それぞれここ数年の間にリニューアルを果たすやいなや、都内はもちろんのこと全国のサウナ好きから注目を集めた人気施設。掲載後の読者の皆さんの反応も激アツでした。実はこれらの3施設は、同じ方が設計やデザインを担当しています。そして、その方が最初に手がけた銭湯が、実はこの「妙法湯」なんです。

「ウチは2019年1月にリニューアルオープンしたんですが、その5~6年前からいろいろと考えるところがあって……それまで銭湯とはまったく縁がなかった人に改装をお願いしてみても面白いかなと思ったんですよね」

そう話すのは、妙法湯のご主人・柳澤幸彦さん。

「銭湯は普通の店舗や建物とは違うので、勾配とか防水をはじめ、やっぱり特殊な設計や工法、経験が求められるんです。ただそうした事情のせいで、設計も施工も業者さんが固定化してしまって……。いつの間にか、どの銭湯へ行っても同じような感じになり過ぎたりしてるんじゃないかなと」(柳澤さん。以下同)

もちろん、ノウハウを知り尽くした「強み」は大事だけれど、逆に「弊害」もあるのではないかと思うようになってきたんだそう。

「銭湯はだいたい30年くらい経過すると、配管などを見直したりする時期になるんです。そのタイミングで配管を替えるだけじゃなく大幅なリニューアルをするところなども出てきます。

一方で、そうしたタイミングをきっかけに『これまでと同じことをするだけだと未来がない』と考えて閉業してしまうケースも少なくないんですね。そして、実際にお店を閉める銭湯も増えていました。

業界全体を見てもそういう状況がある中で、ウチもリニューアルを考える時期が近付いてきた。それで『よし、まずはウチの改装をまったく新しい人にお願いしてみようか』と考えたんです」

◆「3年待つので、銭湯を勉強してほしい」。アツ過ぎるオファーの背景!

とはいえ、まったく銭湯を知らない“素人”に設計やデザインを依頼するのは勇気が必要だったのではないかと思うのですが……柳澤さんは果敢にもそれを実行しました。

妙法湯は戦前より営業していた老舗の銭湯です。戦時中は軍に接収されていた時期もあったそうですが(軍の倉庫として敷地を占用されたり、軍関係者が入浴する施設として使われていたそうです)、戦後に返却されてからは街の銭湯として営業を再開。平成元年(1989年)に現在のような、階上に居住マンションなどのある「ビル型の銭湯」になりました。

「そのマンションの部屋などを直したりする際に依頼したデザイナーさんが、非常にセンスが良かったんですよね。聞いてみたら、飲食店や美容室なんかを手がけた経験もあるって言うんですよ。それで、その方にお願いしてみたんです。『銭湯もやってみないか』って。

最初は『やったことがないから、ちょっと無理だ』と言われました。そりゃそうですよね(苦笑)。でもね、『3年待つので、ちょっと勉強してもらい、やってくれないかな』とさらにお願いしてみたら、『分かりました』って。

そこからは、僕も知っていることをお話ししたりもしましたが、その彼のほうでも一生懸命いろいろと学んでくれてね。そういう経緯で出来上がったのが、今のこの妙法湯なんです」

◆大事にしたのは「利用者=お客様に寄り添う」こと

さて、実際のリニューアルにあたって、柳澤さんがもっとも大切にしたのは「利用者に寄り添う」こと。とにかく「清潔」で、「気持ち良くなってもらう」ことを重視したそう。

「まぁ『清潔』は当たり前ですけどね(笑)。『気持ち良さ』については、徹底的に風呂屋の基本である「水と湯」から考え直しました。ウチはもともと地下水を汲み上げて使っていて、これがかなり水質のいいものではあるんですが、さらに“軟水”にしてみようかなと」

まさしく「うるツヤ」な水。サイコーなんです!!

よく聞く「軟水」ですが、水からカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分を取り除く処理をしてつくることができます。文字通りの、肌触りがきわめてやわらかい水……つっぱり感が一切なく、髪などの洗いあがりはしなやかに、肌もつるつるスベスベに、という効果が期待できます。

「女性には本当に喜んでもらえますからね。これは絶対にやりたかった。ただ、男性の中には軟水を好まない層がいることも分かっていたんで、男性客にはアンケートをとってみたんですよ、事前に。そうしたら、半々くらいだった。うわぁ、どうしようかなって思いましたが、『じゃあ、軟水と硬水、両方を出せるようにしよう』と。配管がちょっと複雑になって予算もオーバーしましたけど(笑)、井戸水を軟水で出すカランと硬水で出すカランの2種類を男湯には用意しました」

男湯は浴室中央付近が軟水のカラン。奥に見える壁側に硬水のカランが並びます(女湯はすべて軟水のカラン&シャワー!!)

浴槽にも、ちょっとそれまでの常識にはなかった発想が生かされています。男湯、女湯の両方に大きな「軟水炭酸シルキー風呂」という浴槽があるんですが、実はコレ「炭酸風呂」と「シルキー=ナノマイクロバブルの浴槽」を掛け合わせた、日本初の試みだったとか。

湯温は熱くないのにめちゃくちゃあったまる、日本初(!)の「軟水炭酸シルキー風呂」

「“日本初”というと、なんか大げさだけどね(笑)。いわゆる『炭酸泉』……『炭酸ガス』を溶けこませたお湯は、皮膚を通して血管内に炭酸ガスも入り込むので、血流を良くして、細胞を活性化させたりする健康効果があると言われてるんですね。

そしてシルキーバス=『ナノマイクロバブル』は、目に見えない細かな気泡が毛穴の奥まで浸透して、洗浄や保湿をしてくれます。化粧水のようにしっとりした肌触りのお湯になる。

この2つを妙法湯でもやりたかったんだけど、2つの浴槽を用意するには浴室の広さが足りない。調べてみたら、どうやら同一の浴槽でやってみても問題はないらしいし、むしろ気持ちいいんじゃないかってことになって。『じゃあ、一緒にしちゃおうよ』ってね(笑)」

「狭いから」とおっしゃいますが、男湯、女湯ともにジェットバスや電気風呂など浴槽のバリエーション、実は豊富です!

入った人は分かると思いますが、このお湯が本当に気持ち良く、じわじわ&ウルウルと体をあたためてくれます。サウナ好きの中には「お湯の浴槽にはあまり浸からない」という方も少なくないですが(筆者もその一人ですが……)、このお湯には入ってもらった方がいいですね!

 実際に浴槽&サウナ室の横に「妙法湯流のサウナの入り方」として、この浴槽をルーティーンに取り入れたサウナの愉しみ方が掲示されているのですが、これがめっちゃ気持ちいいんです!!

一度おためしあれ! 汗ドバドバです!!

◆決して派手さはないけれど、居心地も発汗も最高のサウナ室

サウナ室も実に心地良い空間です。今でこそ、そうした施設は多いですが、調光を抑え目にしてジャズが流れています。そして体を存分にあたためてくれる遠赤外線ヒーターの上にはホーローの鍋が置かれ、湿度管理もバッチリ。男湯サウナ室は110℃以上、女湯サウナ室も100℃以上の温度をキープし、じっくりキモチイイ汗を促してくれます。

いい明るさにいい音楽。ワッフル地のマットもうれしいっす

いい湿度の秘密。シンプルだけど、めちゃくちゃ効果的!

「本当はもっと広くして、ロウリュもできるストーブを置いて……なんて考えていたんですけど、どうしてもスペースの都合でそこまでは出来なかった。それはちょっと残念だったんだけど、ウラに駐車場にしているスペースもあるんで、ゆくゆくはそこを拡張したりすればいいかなと。お風呂のお客さんとサウナのお客さん、それぞれが満足できる空間をまずは成立させたいと思って、いったん今の形にしたんです」

たしかにスペース的にはそれほど広くはないけれど、入った瞬間に優しく体を包み込む熱や、室内のあちこちに吊るされた香りの良いタブレット入りの袋などを見ても、心遣いがすぐに伝わってきます。いやぁ、この居心地の良さが、一番うれしいんですよ。

こういう細かな気配りが本当にうれしいんです

水風呂も、男女浴室ともに地下水を軟水化した水をチラーを通して快適管理。やわらかく、かつほど良い冷たさで、サウナ室やお湯の浴槽との温冷交代浴を楽しむことができます。

冷たすぎないのにしっかり冷える。可能な限りの広さ&深さを実現

リニューアルオープン後、この妙法湯の心地よさは、サウナ好きの、そして銭湯好きの間で大きな話題になりました。その評判を聞きつけて「そろそろリニューアルをしようか」と考えていた他の都内の銭湯の経営者たちも相次いで見学に訪れたそうです。

機能的に並ぶロッカーも、大き目のサイズがふんだんに。利用者への「寄り添い」がここにも
個人的には女湯の洗面器の花柄とかも……好き~

そうした中に、本記事の冒頭でも書いた「松本湯」のご店主たちがいらっしゃったわけですね。

「設計をしてくれた人と引き合わせたり、松本湯さんなんかは妙法湯よりも広さがあるので『ウチだったらもっとココをこうできるな』『こんなことも、きっとできるんじゃない?』なんて一緒になっていろいろ話したりしてね。

そんな感じで、同じ方が松本湯さん、巣鴨湯さん、富士見湯さんなども手がけることになったという経緯があるんです。

流れとしてはそういう感じなんですが……ウチで出来なかったことや、改善の余地がある部分については松本湯さんで生かしてくれたんじゃないかなと思っています。だから、2021年の夏に松本湯さんがリニューアルした途端に全国区の話題になったときは本当に私もうれしかった(笑)。

で、そうしたアップデートが、さらに2022年の巣鴨湯さんや富士見湯さんのリニューアルでも繰り返されていると思うんですよね。そうやってどんどん銭湯が洗練されたり使いやすくなっていくことで、銭湯好きの方、サウナ好きの方がますます増えてくれればこんなにいいことはないと思うんです」

◆1店舗でやれることはタカがしれている。業界全体を盛り上げていきたい

浴後にフロントで飲み物(クラフトビールやサイダー)を愉しめたり、自店のオリジナルTシャツをはじめ、さまざまなグッズを販売したりといったサービスを他店に先駆けてスタートさせたのもこの妙法湯。そうしたグッズを作ってくれる知り合いの業者さんを他の銭湯に紹介したりも、もちろんしてきたそうです。

カラフルなサイダー。目にも楽しいですね

オリジナルのクラフトビールも、めっちゃ美味です

デザインなどもこだわったグッズ類がズラリ

また、店の前には電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」の広いポートが。2022年の9月と12月に都内の銭湯サウナや温浴施設が参加した「#LUUPで銭湯、サウナ」というキャンペーンが実施されたのを知っている方もいると思いますが、その企画の中心となったのも、実はこの妙法湯さん。

「LUUP」のキャンペーンは銭湯だけでなく、サウナ専門施設も参加する大掛かりなものに

さらに「こんぶ湯」といった“変わり湯”を東京の銭湯全体で企画したりなど、ほかにもいろいろなプロジェクトが推進される陰で、妙法湯さんと柳澤さんの名前を聞くことが、本当に多いのです。

「商売ごとはなんでもそうだと思うんですが、1店舗でどんなに頑張っても、どんなに売り上げをあげたとしても、実はタカがしれてるんですよね。いろんなお店が、それぞれお客さんが喜んでくれるものを目指せば、それは大きな力になっていく。僕はそう思ってるんです。

僕自身も東京の銭湯の組合でいろいろと活動をさせてもらっているんですが、そういう思いでこれまでも妙法湯を運営しつつ、銭湯業界全体を盛り上げていければと思ってきました。

これからも、まずはお客さまのために。そして銭湯業界や、さらには社会のために。できることはいろいろと何でもやっていきたいですね。まずは、こうやってSAUNA BROS.さんも取材に来てくれてますし(笑)、近いうちにサウナのサービスをもっと充実させましょうか(笑)!」

最後に、実に頼もしいお言葉、ありがとうございます。先例がなくても、日本初でも、いつのまにか実行してしまう妙法湯さんの行動力というか実現力は十分に存じ上げているので、本気で期待して待っています! あ、もし、妙法湯さんがまた何かを始められようとしていたら、もちろん「いの一番」に取材にうかがい、皆さんにお伝えします!


【妙法湯】
■住所:東京都豊島区西池袋4-32-4 
■営業時間:後3:00~深1:00 毎週月曜定休 
■料金:入浴料500円+サウナ利用料350円(大小タオル付き)

撮影/田中健児