富山県黒部市に2023年7月にオープンした「湯屋FUROBAKKA」。
名水どころ=北陸・北アルプスエリアの中でも、とくに清冽でマイルドな水質で知られる「黒部の名水」がかけ流しで味わえるうえに、さまざまな工夫を凝らした薪ストーブによる極上のサウナ体験が、(わずか数百円の入館料のみで)誰でも入れる大浴場エリアで愉しめる施設として、人気、注目度とも急上昇中です。
また、大浴場エリアのみならず、気の合う仲間同士や家族で利用できる個室&貸切のサウナ小屋もなんと11棟も(!)併設。そちらでも存分に名水&薪ストーブの心地よさを味わえるほか、施設全体でのさまざまなサービス、おもてなしなどもとてもあたたかくて……!
その気持ちよさ、居心地の良さは、現在発売中の雑誌「SAUNA BROS.vol.7」や、この「SAUNA BROS.vol.7」でも豊富な写真とともにお伝えしています。(SAUNA BROS.WEBの前回記事はこちらから。ぜひ雑誌ともども、あわせてお読みください!)
まさしく、サウナ好きにとっては夢のような場所。いわば「名水&薪ストーブのテーマパーク」が、いかにしてつくられたのか。支配人の水越勇人さんにお話をうかがうと、さまざまな紆余曲折、試行錯誤がありました。そしてオープン以降も、今年1月1日の「令和6年能登半島地震」の影響も含め、さまざまなアクシデントが……。それらを一つずつ、乗り越えて来られています。
今回は、そうした数々のエピソードを通じて「湯屋FUROBAKKA」(以下、「FUROBAKKA」)の“こだわり”、そして利用客への“思い”に迫ります。快適さの秘密が垣間見えてくるインタビュー。なんとも言えない心地よさ、あたたかさには、確かな理由がありました。
はじまりは……温浴施設がなくなってしまった黒部に“癒しの場所を”という思い
――薪ストーブのサウナは、やはり格別の気持ちよさがあります。個室や貸切のサウナ小屋で薪ストーブが体験できる施設は各地で増えてきましたが、入館料だけで誰でも利用できる大浴場エリアに薪ストーブのサウナ室が(それも2種類も!)ある施設は全国でも希少です。この「FUROBAKKA」は、どのような経緯・コンセプトでつくられたんですか?
「そもそもの始まりは、今からだいぶ遡ります。2015〜2016年くらいに、このエリア一帯に『道の駅』をつくるという計画が持ち上がり、その過程で“温浴施設なども造れないか”というリクエストが上がったそうなんです。
黒部市には、銭湯やスーパー銭湯といった公衆浴場がかつてはあったんですが、その頃には一軒もなくなってしまっていたんですね。そのため、近くの方々は隣の魚津市や滑川市までわざわざ出かけていたそうです。
実は私たちの会社では同じ富山の高岡市で『陽だまりの湯』という温浴施設を運営しているんですが、そうした実績のある企業に黒部市からプロポーザル(事業企画募集の依頼)がありまして。
弊社ではもともと“地域を元気にする”ことや“街にあったら喜ばれること”とを事業の理念としていることもあり、そうした企業目標とも合致していたので、手を挙げさせていただき、現在に至ります」
――隣接している「道の駅KOKOくろべ」と連動した、いわば地域のため、街の人々のための事業の一環として、ということですね。
「はい。地域の皆さんが欲しているもの、日常の癒しになるような施設に関われるのであれば、それは私たちとしてもとても本望ですから。
ただ、当初提案して承認された計画では、実は現在のようなサウナに力を入れた施設ではなく、いわゆるごくごく普通のスーパー銭湯のような温浴施設だったんです」
コロナ禍、ウッドショック……建設直前のアクシデントで現在のコンセプトが決まった!?
――「サウナに力を入れた」というか……「かなりサウナに振り切った施設」という表現が、こちらにはふさわしい気もします。サウナ好きにとってはありがたいのですが(笑)。その方向性の変更にはどういう経緯があったんですか?
「計画が承認されたのは2019年だったんですが、ご存じのようにその年の年末から新型コロナウイルスの(世界的な)流行が始まってしまいましたよね。翌年には日本でも緊急事態宣言が発令され、それと関係してのウッドショック(建設資材不足)にも見舞われてしまって。
準備に取り掛かってはいたんですが、そうした背景もあって、大幅な見直しを余儀なくされたんです」
――資材不足もありましたし、当時は「温浴施設の運営」について、さまざまな施設さんが苦慮されていましたよね。
「おっしゃる通りです。物理的に、必要なさまざまな材料が揃わない上に、『不要不急の外出は〜』など、社会全体が自粛モード。先行きの見通しが、当時はまったく立ちませんでした。
私たちとは別の、飲食事業を予定していた業者の中には撤退された企業もあったし……ちょっと八方塞がりのような状態になってしまったんですね。
とはいえ、手をこまねいてばかりもいられない。地域の皆さんが心安らげる場所は、そういう不安な状況下では、ある意味、それまで以上に必要なわけですし。
『何をすれば、地域の皆さんが安心して来てくださる温浴施設になるか』と、可能性を一生懸命に考えました」
――はい。
「そんな中で、多数の人と接触することに不安があるのなら、従来のパブリック(大型の温浴施設の大浴場のような)な浴室がメーンの施設ではなく、家族単位、グループ単位で利用するようなプライベート感のある施設はどうか? というアイデアが出ました。
(当時は)入浴中の会話なども大浴場では難しかったですが、プライベートが保たれた空間なら、ある程度は許容されます。少しはリラックスできるのでは? と。
あるいは、(大浴場のある)従来のスタイルと、プライベートスタイルのハイブリッドのような形はどうか、というような……」
――なるほど。すごく大きな浴室をドカーンと建てるのではなく、大浴場は“必要十分なサイズ”にして、むしろ“個のスペースをたくさん作る”というような。 「そうですね。そういった発想をベースに、だんだんとブラッシュアップしていったんです。『プライベート感のあるサウナなら、若い世代も来やすいのではないか』。そして、『そうであるならば、かなり力を入れて……サウナを中心にした施設にしてみては?』といったように」
最高の「サウナ」を味わってもらうために……薪ストーブ導入を決断!
――よく「ピンチをチャンスにする」と言われますがまさにそれを地で行くような発想の転換ですね。
「もちろん、“ブーム”と言われるほど、サウナがあらためて注目され始めていたことにも勇気をもらいましたね。そうして現在の形……安心して使える個室・貸切のサウナ棟をたくさん造り、また、お湯の浴槽もある大浴場にもサウナ室を設けて。それらすべてを『最高の癒し』を感じてもらえるものにしよう、という」
――そういったスタイルなら成立する、と。「最高の癒し」という着想で、薪ストーブの導入なども?
「はい。私自身も学生の頃からサウナは好きで。もともと関西の出身なので、大阪の『大東洋』さんとか、『ニュージャパン』(ニュージャパン 梅田店)さん、『アムザ』さんをはじめ、いろいろなサウナ施設にお邪魔していたんです。
そうした施設さんで“蒸気を浴びる”ことの気持ちよさをものすごく感じていましたし、それこそ長野の『The SAUNA』さんなど、薪サウナ特有のやわらかな熱の魅力にも惹きつけられていたので」
――「やるなら、コレだ!」と、振り切られたんですね。
「はい。いったん認可していただいた計画を変更するのは、それはそれで大変でしたが……。でも、黒部市の方も保健所や消防といった関係する行政機関の皆さんも、ご説明したら理解してくださいました。
ただ、『我々も応援しますが、この計画で実際に運営していくのは大変では? 大丈夫ですか!?』なんて、冗談半分で心配されたりはしましたが。まぁ、実際に大変な面はたくさんあったんですが(笑)」
――そのあたりのご苦労や、それでも薪ストーブにこだわられている理由について、さらに詳しくお聞きしたいと思います。
(次ページへ続く)