日本古来のサウナが教えてくれるもの/山口・阿弥陀寺 石風呂②

目次

「実は……石風呂を焚くのを本気でやめたくなったときもあった」

――現在使われているこの石風呂は、昭和56年(1981年)にあらためて造り直されたものだそうですね。

「そうそう。(それまで使っていた)前のものが古くなったし、小さかったっていうのもあって、こちらさん(※清水さん)のお父さんたちが造ってくれよったんだ」(山縣さん)

きれいにファイルされた記録写真を見ると(モノクロ!)
石風呂の「つくり」もよく分かります

「わしはその頃は(運営には)やっとらんで、入りに来る側やった(笑)。そのうち『手伝ってくれ』って言われて、わしもやりよるようになったんよ」(山縣さん)

――現在からみると、それももう40年以上前のことになりますね。すごく強固に造られているのがわかります。

「石をギッチリ積み上げて、鉄でも補強しとるからね。それで最後に、山の赤土にワラを混ぜたもので上から塗り固めてるんです」(清水さん)

「でも、この熱さじゃけぇ……さすがに時折、屋根や壁に“穴”が空いてしまうんよ。その度に(穴などは)塞いだり、数年に1度は土を塗り直したりしとるな」(山縣さん)

――今もそうやって細かなメンテナンスもされているんですね。

「そうそう。(土を)塗るのは5〜6年前にもやったかな?」(山縣さん)

「そうやね」(清水さん)

――清水さんは、その頃(=昭和56年あたり)からお父さまたちと一緒に運営も手伝われていたんですか?

「私も、そのときはほとんど(ノータッチ)。親父が平成12年(2000年)に亡くなってからだね。本格的に手伝うようになったんは」(清水さん)

――なるほど。そうやって代々、受け継がれてきたんですね。

「そうそう。これ(石風呂)はやっぱり……わしらにとっては残さにゃならんもんだからね。でも、2回くらいはあったかな、休んだことが」(山縣さん)

――ピンチみたいなことがあったんですか?

「うん。まずはこちらさん(=清水さん)のお父さんが亡くなったときに、数カ月休んだりして。あとは……あの時は本気で辞めようかと思いよったねぇ」(山縣さん)

――その「あの時」というのは?

「平成21年(2009年)に豪雨があって、川があふれて山からも土が流れてきたんです。で、ここも土砂に埋まってしまったんですよ。とくに、こっちの(休憩用の囲炉裏などのある)部屋には泥が背の高さくらいまで入ってしまった」(清水さん)

「ここは重機なんかは入れられんからね。斜面やし、すぐ湯屋なんかの建物も(近接して)あるしで。だから壁の一部を破ったり、窓を外しながら、ぜんぶ手作業で土砂を出して、一輪台車に積んで運び出して……をひたすら繰り返してよ」(山縣さん)

――うお〜。大変だったんですね。それでも、結局は……やめなかった。

「そうね。やめんかった。やめられんかったな(笑)」(山縣さん)

「必死で修繕して、また再開ば、しよりましたね(笑)」(清水さん)

「一期一会の気持ちで……何年かに一度でもいい。思い出してくれたら嬉しい」

――「保存会」としても、また個人としても……これまで石風呂を受け継いできた中で、嬉しい瞬間みたいなものは?

「やっぱりね……来てくれる人がいるというんが、いちばん嬉しいわね。あんたらも東京(から)だよねぇ? そんなに遠くから来てくれる人がおるというのがね。ここの地元の人もいつも来てくれるし。広島とか福岡とか、もうちょっと遠くからも毎回のように来てくれる人もいる。あのお賽銭箱のところのノートに書いていってくれるんだ」(山縣さん)

――励みになりますよね。「気持ちよかった」とか、皆さんおっしゃるのでは?

「そうだね。俺たちも聞くからね。『どうだった? いがった(良かった)かい?』って。そうすると『いがった〜』って言ってくれるじゃない。それがやっぱり一番(嬉しい)だね」(山縣さん)

――私たちも体験させていただいて、本当に……なんていうか“感謝”みたいな言葉が頭に浮かびました。

「うん。そういうこと言ってもらえると本当に嬉しいよね。こっちとしては。遠くから、そう何回も来てもらえる人たちばかりじゃないけど、何年かに一度でもいいから『あぁ〜、山口の防府に行って、石風呂に入ったなぁ』って思い出してもらえたりしたらね」(清水さん)

――いやぁ、ちょっと忘れられない体験でした。気持ちよさもそうですし、お2方やご住職、一緒に入ってお話しした地元の方々のあたたかみなども。

「そうかい。そりゃぁ、いがった。嬉しいねぇ。ほら、卵まだあるから、もっと食べんさい(笑)」(山縣さん)

「もう、そこの外の壁にも書いてるけど、本当に『一期一会』の気持ちでやってますからね。何度も来てほしいとは言いませんけど、もし来てくださったんなら、本当に身も心も気持ちよくなってくれたらって思ってます」(清水さん)

――この先もお元気で、ぜひこの石風呂をずっと伝え続けていただけたらと思いますし、次の世代の方にも「保存会」を継いでいっていただけたらと願ってしまいます。

「あんたも一緒にやらんか(笑)? まぁ、先のことはわからないけど、わしらは体が動く限りは続けていきますよ。わしらも最近は自分たちはあまり入らんけど、やっぱり気持ちがいいから。少しでも多くの人に味わってほしいからね」(山縣さん)

「私もちょっと神経痛持ちなんだけど、腰なんかね床にあてて体を横にしてるとね……ほんとにラクになるよ」(清水さん)

「最近は毎回、だいたい25〜30人くらい来てくれるんだけど、昔はもっとたくさん(参加者が)いたからね。肘やら膝やらが当たっちゃって、大変やったけど……いまは、少し余裕があるっちゃけん。代わるがわる入ってもらって、体を伸ばしてもらえるから」(山縣さん)

「そうだね。毎回だいたい25〜26人くらいが、皆さんてんでんバラバラに好きな時間に来るから。ごくたまに40人くらいになる時もあるけどね。だいたい地元の人は午後過ぎに来るから、午前中のいちばんアツい時間なんかは、逆におすすめですね。

月に1度ですけど、ぜひ、石風呂を体験しに来てください」(清水さん)

最後にこんなやさしい笑顔をもらったら……
再訪間違いなしですわ

野趣に満ちあふれつつ、(関わられている方々の人柄も含め)繊細なあたたかさと温もりにも包まれることができる“日本の古式「スモークサウナ」”。
石から伝わる“余熱”ならではのやわらかな肌あたり。石菖と蒸気の気持ちよさ。そしてはるか昔……重源上人の思いを受けて以来、その火を絶やさず伝え続けてきてくださったこの地の人々の営みなどにも思いをはせると、なんともいえない壮大な心持ちになります。
そして、いにしえの文化に触れることができ、どこかアカデミックな気分というか……知的好奇心も大いにくすぐられ、あらゆる意味で満たされてしまいました。

先人の知恵を、営みを。そしてぬくもりを「生きたカタチ」で伝え続けてもらえることの素晴らしさ。享受できる喜び。

保存会のお2人は、「一度でもきてくれたら嬉しい」なんておっしゃっていましたが、こうも言っていました。「来てくれる人がいるなら、残して行きたい」と……。

出来ることならまた再訪したい! 無理やり用事をつくってでも第一日曜に山口に行きたい!! 

いま原稿を書きながら、そう思っている自分がいます!!! 



東大寺別院阿弥陀寺 石風呂
■住所:山口県防府市牟礼上坂本1869
■営業時間:<毎月第1日曜日>前11:00〜後6:00
■料金:「薪代」として300円をお賽銭箱へ

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