日本古来のサウナが教えてくれるもの/山口・阿弥陀寺 石風呂②

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薪や薬草の収集から運営まで。保存会のお2人にもうかがいます

さて。続いて、林さんのお話にも出てきた「阿弥陀寺石風呂保存会」のお2人にもお話をうかがいましょう。山縣稔さん(写真左/86歳)と清水博美さん(同右/76歳)のお2方です。

――今回、初めて体験させていただきましたが、この石風呂の気持ちよさには……正直、びっくりしました。

「そりゃぁ良かったよ(笑)。東京から来てくれたんやもん。そう言ってもらえて、わしらも嬉しいよ」(山縣さん)

――保存会のメンバーは、現在、お2人(のみ)ということですが。

「そうやね。平成11年だったかな、保存会になったのは。それまでは有志で(運営を)やっていたけど、人数が少しずつ減っていっちゃって。『保存会にした方がいいだろう』ということになってね。それでも今はわしらしかおらんくなった。昔は20人くらいおったけど……みんな年寄りだからね。順番にいなくなる(笑)」(山縣さん)

「とうとう2人になってしまったね(笑)」(清水さん)

「わしらがまだ若くて元気だってことかな」(山縣さん)

――本当にありがたいことですし、頭が下がるというか……。石風呂を焚くだけでなく、薪や石菖もお2人で集められていると聞きました。

「石菖はわしが集めとる。境内やら裏の小川やらで摘んできとるのよ。薪はこちらさん(=清水さん)が、集めてくれとる。そっちは大変だわ」(山縣さん)

「分担してるんだね。作業を。今はこの2人で分けてやってます。薪は私が担当していますね。この阿弥陀寺さんの山の中なんかで集めてきて、石風呂の中で組み上げて焚くまでなんかを」(清水さん)

――なるほど。それで、薪が燃えたあとの燃えがらや炭を掻き出すのは山縣さんで、石菖を敷いたりゴザを敷くのはお2人でやられる、みたいな感じでしょうか。

「そうそう。あとはいつも来てくれとる常連のような人も手伝うてくれたりね」(山縣さん)

――どの作業が一番大変ですか?

「どの作業が大変かってことはあんまりないけど、まぁ薪の“準備”は大変だな」(山縣さん)

「そうねぇ……今は月に1回、毎月の第1日曜だけだけど、以前は月に3回焚きよったからね(毎月最初の金、土、日の3日間)。薪を集めるのと準備するのはちょっと大変だったかなぁ」(清水さん)

「その頃はまだ人数がおったからね。今じゃあ2人きりだから……もう当番制もよう組めんくなったね(笑)」(山縣さん)

4時間以上も激しく炎を燃やし続けるには、こんな「技」が

――前日までの準備から、当日、実際に焚き上げるまでの過程をあらためて教えていただいてもいいですか?

「まずは薪を集めたり、石菖を集めたり。それはさっき言うたように分担してやっとるんだわ。清水さんは薪を集めてきて、乾かす作業もやっとるね」(山縣さん)

「そうですね。でも、完全にカラカラに乾かすってことはしませんね。4時間くらい燃やして石風呂を熱くするんだけど、乾いた薪だけだとすぐに燃え終わっちゃう。まだ乾ききってない生木くらいのものが、長い時間、燃え続けてくれるんよね」(清水さん)

――なるほど。この建屋の前に並べられているような材が、薪になるわけですね。

「そうそう。この辺のはまだ乾ききっていないからね。このくらいのを使いますね。それで、石風呂を焚くだいたい3週間前くらいに具体的な準備を始めるんです」(清水さん)

――そうなんですね。それはどういう作業に?

「前回の片付けから始めますね。いま敷いている、あのゴザを全部取り出して、くくり直すんよ。それで、石菖を全部きれいに取り除くんだね」(山縣さん)

「石風呂の中をキレイにしたら、そこから次の回の準備をします。まずは火つけに使う小さいスギなんかの葉をたくさん敷いて」

着火用の小さな葉、枯れ柴なども集められています

「その上にやっぱりスギやマツなんかの針葉樹の小さい枝を重ねていきます。針葉樹は燃えやすいから、これも火つけ用だね。

で、そのあと、さっき言ったようなまだ乾ききっていない薪も含めて、広葉樹の大きな木を『井』型に組み上げるんです。下の葉っぱや乾いた小さい木材から順々に燃えていくんだけど、この半乾きの広葉樹の大きな薪にいったん火がつくと……これが長い時間燃えてくれるんだ。そうすると石風呂を熱く焚くことができるんですわ」(清水さん)

――なるほど。かなりの高さまで組み上げるんですか?

「そうね。だいたい150センチ以上くらいまでは組み上げるね」(清水さん)

広葉樹の間伐材はかなりのサイズ。
これも大量に用意されるそう

――3週間前に薪を組み上げ始めるのは、何か理由があるんですか?

「乾ききっとらん薪も必要なんだけど、雨なんかで濡れすぎてしまうと、それも良くないんです。だから早めに石風呂の中に入れて組んでしまうんよ。もし、その直前に降った雨なんかで吸ってしまった水分があっても、その3週間くらいの間、石風呂内に置いておけば、水分が調整というか……ほどよく抜けるんですよ」(清水さん)

「タマゴは……なにか思い出にしてくれたらいいなと思って用意しとる」

――当日は、朝何時くらいから火をつけて石風呂全体をあたため始めるんですか?

「いつも、だいたい6時過ぎから7時前くらいに火をつけます」(清水さん)

――そして、お客さんを迎え入れる11時直前に炎を消す。

「煙を全部出しながら、燃えがらをぜんぶ掻き出して囲炉裏にくべるんだ。そのあと囲炉裏端で(皆さんに)あたたまってもらえるようにね。季節によってはその熱で餅や芋を焼いたりもするね」(山縣さん)

――その後はお2人で石菖を敷いて、水をかけたり。さらにゴザをきれいに敷き詰め、扉を取り付けて……「準備完了」となるわけですね。

「そうそう」「はい、そうですね」(お2人)

――先ほど囲炉裏でお餅やお芋を焼くこともあるとおっしゃいましたが、石風呂の中でも「ゆで卵」というか「焼き卵」もつくられますよね。あれも、すごく美味しかったです。

「そうだな。あれはまだ石風呂がいちばん熱いうちに、だいたい40〜50分くらい吊るしておくと、白身も黄身も固くなるんよ」(山縣さん)

――卵は山縣さんたちが家から持ってきてくださるそうですね。

「そうそう。まぁ、石風呂に入ると腹がへるし、あとは、初めて来てくれた人には記念や思い出にもなるやろうって思ってね、持ってきとるんよ」(山縣さん)

――うわぁ〜。それを聞いて、あの味がさらに記憶に刻み付けられました。

「他にも、いつも入りに来る人が菓子なんかを自分の家から持ち寄ったりもしますね。みんな、自分も食べながら来た人にも勧めていくんだ。“ふるまい”みたいにね」(清水さん)

――なるほど……。ご住職もおっしゃっていましたが、やはり、この石風呂はまさに地域のコミュニティーでもあることを、あらためて痛感しました。

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