<特集>【GO! 1010-37!! 銭湯サウナの魅力にハマる。第9回】東京・北区「十條湯」(#2) ああ、いいなぁ。街の銭湯が提供してくれる「最高」のものとは! 店長・湊研雄さんインタビュー

ご近所にあったり、料金もお手頃だったりと、私たちの暮らしにとても身近な「銭湯サウナ」。その魅力を深堀りしていく特集シリーズ「GO! 1010-37!!」(GO! 銭湯サウナ)。

今回は、東京都北区の人気銭湯「十條湯」さん特集2回目。前回記事(←未読の方は、是非あわせてお読みください!)でもご登場いただいた、店長の湊研雄さんにさらに詳しくお話を伺っていきます。

十條湯さんのこの居心地の良さ。けっして新しくはないけれど、清潔さはもちろんのこと、なんともいえない雰囲気やこのあたたかな空間はどのようにつくられているのか。その秘訣や理由が、改めて分かったような気がします。いやぁ、やっぱりいいなぁ。「街のお風呂やさん」の魅力が伝われば幸いです!

目次

やさしくて、あたたかい…銭湯の原体験

湊さんの銭湯への思い……めっちゃ熱いです

前回の記事でも少しだけ触れましたが、湊さんは生粋の銭湯好き。十條湯さんの前にもいくつかの銭湯にお勤めになったり、運営してこられましたが……。そもそも銭湯がお好きな理由を伺ってみましょう。

「高校を卒業して大学進学で上京したんですけど、その時に風呂なしの物件に住んだんです。その辺りには銭湯がたくさんあって、風呂付きの部屋の家賃相場が、「毎日の銭湯代と僕が見つけた部屋の家賃を足した金額」とちょうど同じくらいで。だったら毎日大きいお風呂に入りたいなって思ったんですよね。まぁ、もとから広くてキモチイイお風呂が好きだったんですが(笑)。

そして、一番好きな銭湯を中心にいろんな銭湯へどんどん行くようになって。行動範囲も広がって、そのうち都内だけじゃなく全国のいろいろな場所まで行くようにもなりました。

言葉で言うと難しいんですが、気持ちよさとか安らぎみたいなのもそうだけど、“あたたかみを感じる雰囲気”がすごく魅力的に思えるんですよね。上京してすぐの頃、まだぜんぜん知り合いがいない中で、毎日のように行っていた銭湯のおかみさんが『おやすみ』って言ってくれたこととか、めちゃくちゃ覚えてます。誰ともしゃべらない一日だったのが、そこへ行くと話を聞いてくれる人、声をかけてくれる人がいる。“やさしい居場所”というか。『あぁ、いいなぁ』って」

ただ、さまざまな銭湯へ行く中で、次々と閉業していく銭湯があることも目の当たりに。

「ご店主たちが『時代の流れだから仕方がない』っておっしゃって廃業されていくのを本当に寂しいなって思っていて。銭湯という空間が一つなくなるということは、そのお店にお風呂道具を持って向かう人たちの姿もなくなるってことなんですよね。ちょっと大げさかもしれないけど、そういう大好きな“街の風景”みたいなものも変わってしまうのはイヤだなって思って。

銭湯を残したいっていう気持ち、自分でも何とかしたいという思いもあって、銭湯でバイトというか働き始めたんですよね」

当たり前のことを当たり前にやる大切さ

最初に勤めたのは、東京・東上野の「寿湯」。ご存じの方も多いと思いますが、人気も伝統も、都内でも屈指の銭湯さんです。

「日常の業務は一通りのことをやらせてもらって。でも何よりも、ご店主の……今は近くの鶯谷で『ひだまりの泉 萩の湯』をやってらっしゃる長沼雄三さんやスタッフの方からいろんなことを学びました(※現在「寿湯」は、長沼さんの弟の亮三さんが経営されています)。

毎日、当たり前のことを当たり前にやることの大切さとか、お客さんとのコミュニケーションの取り方や距離感とか。

そういう細かなことの積み重ねもあると思うんですけど、繁盛している店にはお客さんはめちゃくちゃ来るんだということも痛感しました(笑)。本当にいろいろと吸収させてもらいましたね。いま思えば、もっとたくさん勉強できたかなとも思っているんですけど」

その後「寿湯」で学んだことを生かし、銭湯の“運営”にも携わるように。埼玉県・川口の「喜楽湯」を切り盛りすることになったそう。

「『寿湯』で働いているときに、さまざまな銭湯のご店主さんと知り合いになれて。そんな中で『喜楽湯』を運営する人を探してるって聞いて、“やります!”って。『寿湯』での経験を体現するというか、ゼロから銭湯の経営をつくっていけるチャンスだなと。

でも、はじめはキツかったですね。1年目なんて、僕らの給料、厳しかったですから(笑)。ただ、充実はしていました。朝風呂を始めたり、それまでの営業スタイルを替えてみたり。ほかにもいろいろ……日々の小さなことからチャレンジしていくうちにお客さんが伸びていく実感を“直撃”で味わうことができました。ものすごく手ざわりのある仕事というか経験をさせてもらいましたね」

志願して手伝っていた十條湯が危機に

「喜楽湯」が人気銭湯になり、いよいよ「十條湯」で働くことになったそうですが、その“移籍(!?)”の理由は前回記事でも記したとおり。「十條湯」の社長とおかみさんが体調を崩されているのを知ったことがきっかけ。

「実は当時、『喜楽湯』はもう自分がいなくても仲間というか一緒にやっていた人たちで十分にやっていけるなと思って離れることにしていたんです。自分的には、ほかにもいろいろ苦労されている銭湯をなんとか継続させられるような活動をしたいという思いもあったんで。

その頃、『十條湯』によく来店していたんです。本当にいい銭湯で大好きだったので。それが、社長もおかみさんも、利用客のためにすごくがんばっていらっしゃるのにピンチだと……。居候でいいから働かせてくれ(笑)って。

(十條湯のような)こういうタイプの銭湯には、奥というか裏に4畳くらいの天井に頭が着く感じの部屋があるんですけど、そこに住まわせてもらってお手伝いを始めたんです。

最初は、けっして能動的にいろいろやるって感じではなかったんですけど、その後、コロナ禍で大打撃をくらってしまったんですね。社長もおかみさんも残したいって思ってるのに『本当に閉めざるを得ないかも』っていう話になってしまって、『いや、ちょっと待ってください』と、もっと入り込ませてもらって、経営改善というか、店長としていろいろやらせてもらうことにしたんです」

「サウナ」「喫茶」と「人」で、くつろいでもらう

かつての十條湯のサウナは今では想像できないほどカラカラだったそうです

十條湯では「3つ、やってみようと思った」という湊さん。その1つ目は、前回記事にも記した“サウナに力を入れる”こと。遠赤外線ヒーターのカラカラめだったサウナ室に湿度を増しセッティングを改善したほか、「ヴィヒタサウナ」「ミントサウナ」「森林浴サウナ」といった曜日替わりのイベントを次々に実施。現在でこそ、それらのいくつかはさまざまな施設でも見ることができますが、先駆けだった十條湯は、サウナ好きの中でどんどん認知度を上げていきます。

水質抜群の水風呂も、より快適にするため「かけ流し」に!

「2つ目は喫茶スペースをさらに生かすことです。浴後にちょっと休める場所がある銭湯ってほかにもありますが、十條湯の喫茶スペースほど本格的なものって、他にないんですよね。

この、ホッとできるスペースをもっとくつろげる場にしたら、お客さんにも喜んでもらえるし、銭湯に今まで来ていなかった層を呼び込めるんじゃないかと思って。なのでデザインもこだわったし、メニューもいろいろ考えました」

壁紙やカーテンなどもこだわりまくり。イスなどのファニチャーもすべて味わいのあるもので統一

クラウドファンディングを実施したところ多くの方の支援が集まったほか、内装やロゴなども湊さんの思いに共感したデザイナーが心を込めてデザイン。喫茶スペースが、現在の喫茶「深海」にアップデートされました。

湯冷めしないよう(?)、ブランケットやモコモコのスリッパも。あたたかいです
デザイナーさんもこだわりまくったフォントがまた最高です

そして3つ目は「人的(ひとてき)なこと」だったそうです。

「『深海』のスタッフもそうですし、すべての携わる人がめちゃめちゃ大事だと思うので。僕は喫茶については素人なので、本当に銭湯で喫茶をやりたいと思ってくれている、信頼できる子に声をかけました。もちろんお風呂のスタッフもそう。働いてくれる人みんなから“あたたかさ”みたいなのがお客さんに伝わるような場でありたいなって」

もう、それらの「チャレンジ」の結果は……ここで記すまでもないですよね。サウナ室同様、浴室もリニューアルされた「深海」も連日多くの人で賑わっています。

喫茶を切り盛りする、れいなさんとともにメニューも開発。味はもちろん、映えまくりの深海ゼリー
クリームソーダもメロン色のものに加えブルーやピンクも。コーヒーやホットスナックも大人気

「実は想像と少し違っていて(笑)。さっきも言いましたけど『深海』は、若い女性とか、これまでシブめの銭湯にはあまり来なかった層を中心に人を呼べたらいいなって思ってたんです。

それがフタを開けてみたら、本当にいろんな年代の様々な方が来てくださって。小さい子からご年配の方、スーツを着た40~50代くらいの男性が一人でプリンを食べていかれたり。『こうなったら理想的だよね』って言いながらも無理だと思っていたことが実現しちゃったんですよね(笑)。

日常の場として十條湯と深海を楽しんでくれている方もいれば、ちょっとした非日常として訪れて時間を過ごしてくれている人もいる。まだまだ途上ではあるんですけど、こうやって“誰にでも愛される”ことができているのは、ちょっとスゴいんじゃないかなって(笑)」

「街のお風呂やさん」として提供したいもの

よく言われることですが、ほとんどの家庭にお風呂がある現在、銭湯はかつてのような「ライフインフラ」ではなくなっています。今回の記事でも何度も書いてきましたが、廃業されるお店もたくさんあります。

「僕も『銭湯を残したい』と思ってはいますけど難しいのは確かなんです。特に東京では。土地や不動産の額も高いですし、相続するということになったら大変なことです。

それに加えて、コロナ禍でのダメージや、さらにはガス代や電気料金などエネルギー代の高騰も去年とくらべてエグいことになっているので、本気で大変なのは分かるんですよね。『銭湯を残したい』なんていうのは、ひょっとすると僕のエゴなんですよ。

でも、僕が銭湯を好きになった理由の一つ一つ……お風呂ってキモチイイよね、気持ちも安らぐよね、みたいなことだったり、何より自分が住んでいる街に心があたたまる、『あっ、いいなぁ』って場所があることって、なんかいいじゃないですか」

銭湯が提供してくれるものの素晴らしさというか、かけがえのなさを改めて感じた十條湯さん、そして湊さんへの取材。この日は残念ながらすぐに帰社したのですが、おそらくまたすぐに利用客としてうかがうと思います。

最後に、取材チームを送り出してくれた湊さんの一言を記したいと思います。

「『SAUNA BROS.』さんの取材で言っていいかどうかは分からないですけど、実は僕、はじめはサウナは特に好きじゃなかったんです。シンプルにお風呂が好きだったんで、浴室では湯船にばっかり入っていたから(笑)。それと、これもシンプルにサウナの入り方が分かってなかったから。

でも、サウナを好きになってからは、銭湯のときと同じように全国のサウナを巡るくらい好きになったんですよ。街の施設はもちろん、『The Sauna』(長野)や『Sea Sauna Shack』(千葉)みたいな山や森や海辺の……大自然の中の施設まで。そうしたところでは感動しまくってますし、めっちゃ気持ちよくなってるんですね。

ただ、十條湯では、そういった感動や体験というよりは、『あぁ、いいなぁ』というくらいのものをひたすらに提供していきたいと思ってます。すごい感動はサウナ屋さんにお任せしますよ(笑)。街の銭湯としては、まずは浴後の安らぎも含めてサウナや温浴、お風呂屋さんを好きになったり、あたたかさを知るきっかけ的な存在になれれば、それでいいなと。

そして十條湯だけでなく、そうした『街のおふろ屋さん』を、これからも残していくためにやっぱり出来る限りのことをしていきたいと思ってるんですよね。エゴかも知れませんけど(笑)」


【十條湯】
■住所:東京都北区十条仲原1-14-2 
■営業時間:月~木曜、土曜=後3:00~11:00 /日曜=前8:00~後0:00、後3:00~11:00/定休日=金曜 
■料金:入浴料=500円(大人)+サウナ料金=300円 ※小タオル付き

撮影/長谷繁郎

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