ご近所にあったり、料金もお手頃だったりと、私たちの暮らしにとても身近な「銭湯サウナ」。その魅力を深堀りしていく特集シリーズ「GO! 1010-37!!」(GO! 銭湯サウナ)。
今回は、東京都北区は十条駅前の商店街を路地裏に1本入ったところにある「十條湯」さんにうかがいます。のれんをくぐると、そこに広がるのはなんともいえない温もりに満ちた空間。けっして新しくはないけれど、清潔さはもちろんのこと、さまざまな工夫に満ちた仕掛けやもてなしで、銭湯の居心地の良さ、気持ちよさをあらためて感じさせてくれる……そんな「街のお風呂やさん」です。
浴室にたどり着く前に味わい、やさしさが次々に!
十條湯さんは昭和23年(1948)の創業。その後、昭和47年(1972)に店舗を建て替え、平成元年(1989)にサウナを設置するとともに喫茶スペースを併設して、現在に至るそうです。
なんともいえない、味わいのある店内。出迎えてくれるスタッフの皆さんやオーナーさんの笑顔もとてもやわらかで、フロントですでに心がほぐれてしまいます。
脱衣所もシンプルだけど、とても機能的。縁台やマッサージチェアなどが整然と点在しているので、衣服の脱ぎ着などの身支度の際も焦ってしまうことや周囲との距離感で窮屈に感じたりすることがありません。
そして2階には、“サウナ利用者専用”の休憩エリアもあります。男湯側は白いプラ製のととのいイスが4脚。女湯側は2台のインフィニティチェアが。
男湯側のイスの数が多いのは、きっと男性のほうがサウナ利用者が多いんでしょうね(女性のほうはスペースがとれる分、くつろげるインフィニティチェアということなんでしょう)。実に合理的に、最善のサービスをそれぞれ提供してくれている。そんな「気概」みたいなものを感じてしまいます。
さて、浴室に入り、カランの前へ進んで行きましょう。
床のタイルが本当にピッカピカです。そして目地も真っ白!! お店の歴史を考えると、信じられないほどキレイでさらに心がゆるんできます。美しい水色に塗られた天井は高く、その開放感も最高ですね。
据え付けのシャワーをひねると、とてもやわらかな肌触りのお湯が勢いよく出てきます。う~ん、キモチイイですねぇ。地下120メートルから汲み上げられている良質な地下水は、まろやかで肌当たりも最高。顔や体、頭を洗いながら、浴槽や水風呂に入った瞬間のことを思うと……もう心が弾んできます。
快適なサウナ室には「日替わり」のお楽しみも
サウナ室は男湯側、女湯側ともにベンチは2段。温度計は95℃前後を指していますが、湿度も十分に感じられて、体全体を包み込むやわらかな熱さは、その温度以上の体感です。上段でも下段でも、座面に腰を下ろすとすぐに気持ちのいい玉汗が浮かんできます。
ほどよいボリュームで室内に流れるのは1990年代~2000年代あたりのJポップが多い気がします。これが、なぜか不思議なくらい落ち着くんですよね。20~30代の利用客も、50~60代、どんな世代も耳になじみのある絶妙なセレクトなんじゃないでしょうか。
実に気持ちいいし、心ゆくまで居られます。むしろ、気付くと「こんなに長い間、入っていたの?」と自分でも驚いてしまうくらい、時間があっという間に過ぎてしまうサウナ室です。
そしてこのサウナ室では、連日、さまざまな「仕掛け」を楽しませてもらえるんです。
たとえば、この取材でお邪魔したのは水曜だったのですが……毎週水曜は「ヴィヒタサウナ」の日です。
扉の内側に吊るされたヴィヒタからの香りが、とても良きです。香りが薄くなってきたら、ヴィヒタの香りを十分に抽出した水をスプレーでかけることもできます。
ほかに、月曜は「ミントサウナ」、火曜と木曜は「森林浴サウナ」と銘打たれた、それぞれ異なる体感や匂いを味わえるサービスが(どんなサービスなのかは後述しますね)。
この、日替わり湯ならぬ「日替わりサウナ」(!?)を打ち出したのは、店長の湊研雄さん。湊さんのお名前はサウナ好きや銭湯好きなら知っている方も多いのではないでしょうか。十條湯さんに来る前は埼玉・川口市の「喜楽湯」さんの運営にも携わるなど、“街の銭湯”に関わられ続けていらっしゃいます。
「お風呂屋さん……銭湯が大好きなんですよね(笑)。ここで働くことになる前から、十條湯も本当にいい銭湯だなと思っていて、一人の客としてちょくちょく来ていたんです。
今から2~3年前ですかね。十條湯のオーナーさんご夫妻が体調を崩されてお店を閉めるかもしれない、と聞いて、『居候でいいんで』とお願いして十條湯を手伝い始めて。その後、2020年に店長として正式に切り盛りさせてもらうことになったんです。
そのとき、もっと十條湯を盛り上げるために順番にやっていきたいなと思ったことが3つあったんです。その1つめがサウナに力を入れて、皆さんに来ていただくことだったんですね」
とはいえ、大きな資金はなく、「アイデアの勝負というか、なんとか工夫してやれることしか出来なかった」(湊さん。以下同)そう。それでも、まずはサウナ利用料を値下げしたうえで(400円→200円に。※現在は300円)、上述したようなヒーターの上に鍋を設置したり、「ヴィヒタサウナ」を実行したり。サウナ室のポテンシャル、心地良さは格段にレベルアップし、サウナ好きの間で大きな反響が。
「バズリましたよね。口コミというか、SNSなんかでも話題になって、少しずつサウナを目当てのお客さんが増えてくれました」
以前のサウナ室は湿度があまりなく、いわゆる「カラカラ系」だったそうですが、鍋を設置したことで温度と湿度のセッティングが良くなり、利用客が増え、扉の開閉の頻度も増したことでさらに心地よいバランスが実現。まさに「好循環」が生まれてきたそう。
その後、ヒーター前に置いた蒸発皿に、利用客が好みでミントオイルを垂らして爽快な蒸気を発生させることができる「ミントサウナ」(※本当に不思議な新感覚なので、ぜひ皆さんも体感してみてください)や、かつて稼働していた「森林浴発生装置」からの良い香りの空気でサウナ室内を満たす「森林浴サウナ」(※さりげないけど、とても芳醇な香り。蒸されながら安らげます)を次々にスタート。
「もちろん売り上げは大事ですけど、とにかく、来てもらえた方に気持ちよくなってもらおうと。そして『また来よう』って思ってもらいたいなって。今も常にいろいろ頑張って考えてます」
やれることを全部やる! やりようで何とかなる!!
サウナ室で心地よく発汗後の水風呂もまた最高です。やはり先述したように、もともと水質が抜群の地下水なのですが、湊さんはここでも一工夫を。
「気持ちいい地下水を使っているんですが、循環して濾過はしていたんですけど、チラーはないのでどうしても水温が上がってしまうんです。それを防ぐために、かけ流しのオーバーフロー(あふれさせる)にしました」
こんこんと湧くフレッシュな水が常時入れ替わるため、水温が上がらないほか(約18℃~20℃くらい)、もちろん清冽さもアップ。動きがあってまろやかな、いつまでも入っていられる水風呂が現出しました。
「本当に“できることの範囲”内なんですけど、やりようで何とかなるんじゃないかと信じてます。っていうか、それしかできないんですけどね(笑)」
水風呂のすぐ横の白いととのいイスで目を閉じるも良し。体を拭いて、脱衣場2階の休憩スペースに上がるも良し。もちろんやはり気持ち良い「あつ湯」や「ぬる湯」に浸かるも良し。
そうした瞬間に、手描きのポスターがつい目に入り、併設された喫茶「深海」にいつも行きたくなってしまうのです。フロントで見た、あの居心地の良さそうな空間に。
「そうなんですよ、あの喫茶スペースも十條湯の魅力の一つというか、大きな特長だと思うんですよね。あそこまで本格的な喫茶室がある銭湯って、なかなかないじゃないですか。サウナ室のサービスアップとともに、ぜひやりたいと思ったのが、喫茶スペースの拡充なんですよね」
十條湯、そして湊さんの「3つのチャレンジ」の2つめは、喫茶「深海」のアップデートだったそうです。そして3つめは……。
次回の更新記事では、その経緯とともに、湊さんの「銭湯への思い」についてなどもおうかがいしたいと思います。
【十條湯】
■住所:東京都北区十条仲原1ー14ー2
■営業時間:月~木曜、土曜=後3:00~11:00 日曜=前8:00~後0:00、後3:00~11:00 毎週金曜=休
■料金:入浴料=500円(大人)+サウナ料金=300円 ※小タオル付き
撮影/長谷繁郎