日本全国、数あるサウナ施設の中でも、この施設ほど、その“進化”や“変貌”のスピードがすさまじい施設はないのでは? と思わせてくれるのが、岩手県一関市の「古戦場」さん。もともと熱いサウナ室と地下水を使った心地よい水風呂には定評があったのですが、2020年以降、それまでになかった外気浴スペースが爆誕するわ、サウナストーブもセルフロウリュ対応のものになりそれまで以上にパワフルなサウナ室になるわ……。あれよあれよという間に、その勢いあふれる“攻めの姿勢”によって、その名は全国区に!
訪れたことがある方はお分かりだと思うのですが、入った瞬間から、建物全体からあふれ出る楽しい雰囲気に、なぜかテンションがあがってしまう施設さんなのです。その「古戦場」さんが、この夏、さらなるアップデートをしようとしていると聞いて……我慢できずに、ちょっと行ってきちゃいました! すべての仕掛人=キーパーソンである“女武将”(「古戦場」だけに、こう呼ばせてもらっています)こと、4代目社長の浅野裕美さんにいろいろとお話をうかがってきました!
――お忙しいところ、本日はすみません。ありがとうございます。
「こちらこそ、ありがとうございます。よろしくお願いします!」
――まずはこの「古戦場」さんの歴史というか成り立ちを、この「古戦場」という名前の由来も含めて教えていただきたいんですが。
「もともとは昭和26年(1951)に、祖父が精肉店を始めたのがそもそもの始まりなんですね。その後、事業を拡大して『古戦場』っていう名前のドライブインを開いたんです。店名は、奥州平泉の古戦場が近くにあることから付けたそうなんですが。その後、昭和61年(1986)に、今のレストラン・宴会場に健康センター……お風呂が付いた店舗を作って、それから今に至るんです」
――宴会場がメインのレストランに健康センターがあるっていうのが……そもそも凄く面白いですよね。
「実は、最初は健康センターのあるレストランを作るつもりはなかったらしいんです。でもあるとき、この近所にある建築関係の会社さんが、北海道の業者さんから健康センターを作ってほしいって発注されて、その鉄骨や建材をすべて準備したのに、その発注元が倒産してしまって、うちの祖父が泣きつかれたらしいんです。『安くするから、この材料を使って、同じものを建ててくれないか』って。それで祖父が『わかった』って、引き受けたらしいんです。温浴事業の経験もないのに(笑)」
――すごい! 豪快な、それでいてとてもいい話ですね(笑)。
「祖父はもともと、面白そうだって思ったらいろいろとやる人なんです。それ以前も、レストランの中に子供が乗れるくらいの新幹線を作って走らせたりしてましたから。私も、それに乗ってましたよ(笑)。まだ東北新幹線ができる前だから、あれが東北初の新幹線になるんですよね(笑)」
――なるほど。それで、その後、代々で受け継がれてきたんですね。
「そうですね。でも、あくまでもレストランと宴会場がメインで……私が2019年の12月に4代目の社長になったんですが、その頃は売上比率はレストラン・宴会場が8割、お風呂は2割、くらいの感じだったんです。あくまでも『お風呂はおまけ』くらいの認識だった。ただ、コロナ禍になったことで……」
――あぁ、飲食関係が「自粛」に。
「そうなんです。岩手でも2020年の3月くらいから雲行きが怪しくなって、5月にはレストランを一時閉店せざるを得なくなって。でも、お風呂のお客さんは変わらず来てくれてたんですよね」
――なるほど。
「どうしてみんな毎日来てくれるんだろうって。常連さんに聞いてみたんですよ。そうしたら『サウナが熱くていいんだよ』『水風呂も地下の井戸水だろ? やわらかくて気持ちいいんだよ』って。でも、私自身、10年以上、浴室ののれんをくぐっていなかったんで、ピンとこなくて。で、入ってみたら、たしかに気持ちいいし、ちょうどAmazonPrimeでドラマの『サ道』をやっていたので見たりして。番組で見た入り方を実践してみたら、さらに気持ち良くて。『これ、いいかもしれない』って」
「もう、それまでは思ってもみなかったんですけどね。サウナもお風呂も、こんなにいいものだったなんて。水だって井戸水を使っているので、タダじゃないですか。水道水のほうが(お金を使ってるから)高いいい水っていう認識だったから(笑)。まぁ、そういう感じで、よし、まずは草むしりから始めよう、と」
――草むしり?
「いま外気浴ができるようにしている中庭は……草むらだったんですよ。もう、ボウボウで、まさに古戦場みたいな状態(笑)。外から浴室が見えないようにフィルムをガラスに貼ったりしていたのも、全部はがそうと。『サ道』を見て、気持ち良さに目覚めたというかハマった次の日から、一人でそこから始めたんです」
――次の日から! それも一人で!! すごい行動力ですね。
「レストランもお休みだし、他にやることもないし。何より、私、せっかちなんです(笑)。座右の銘も『明日やろう、は、バカヤロウ』なんで(笑)。でも、一人でそうこうやってるうちに、お客さんも手伝ってくれるようになって。『あれ、昨日、あそこまでしかやらなかったのに、ここまで進んでる!』って」
――素晴らしい!!
「ちょっと嬉しかったですよね。ちょうど、その草むらみたいなところで、常連さんが隠れてタバコを吸ったりもしていたんで、それもやめさせよう、と。『何やってんですか! ダメですよ』って、女なのに男湯にずかずか入って行って注意しまくったりして。かなり抵抗されましたけど。『じゃあもう来ねえよ!』なんて言われたりして。まぁ、今でも来てくれてますけどね、その方たち(笑)」
――浴室の大改革ですね。
「お金もないし、とにかく今自分たちでやれることでやっていくしかないし。新しいお客さんに来てもらうには、いかに常連さんとはいえ、長年の悪い習慣を変えないと、って。それなら今しかないと思いました」
――サウナストーブも、セルフロウリュができるものに。
「それも、ドラマで見たことをいろいろな施設を訪ねて試してみて、ああ、コレは気持ち良いなって思って。父に『ロウリュ……水かけをしたいんだけど』って聞いてみたんです。そうしたら『壊れるぞ』って言われて。すぐにストーブを扱ってるメトスさんにも電話してみたら『そういうストーブをお買い上げいただければ。100万円くらいです』って。『そんなお金はないんですが、やってみたいんです』って言ったら、『本当にうまく行くかは分からないけど、ストーブの上にレンガとかで空間を作って、熱を逃がしながら鉄板を入れてみたら……』みたいに言ってくれたんですよ。よし、それをやってみます!って」
――言ってみるもんですね……。
「メトスさんには『おススメはしませんし保証もしません』って言われましたけどね(笑)。でも、知り合いの鉄の加工業者さんやいろんな人にエンピツ書きのラフな絵で説明して、試行錯誤しながら、なんとか形になったんです」
――すごい情熱。勇ましい!
「ほんと、自分でも凄いなって時々思いますけどね(笑)。まぁ、でも、そうやっていろいろやってるうちに、お客さんの方から『気持ちいいよ』『良くなったよ』なんて店のスタッフに言ってくれるようになって、そうするとスタッフもサウナについて、より気持ち良くするにはどうしたらいいかって勉強したりするじゃないですか」
――いいスパイラルが生まれて。熱波のサービスなどもスタッフさんでやられていますよね。
「そうなんです。その“熱”を、レストランや館内のほかの場所にも持ち込もうといろいろな標語や掲示物を作ったり、新しいサウナ向けのメニューも作ったり。グッズも、サウナハットを特許を取得したものを開発したりね。そうやっていろんなことをやってるうちに今に至ります(笑)。おかげさまで、今では土日も含めれば以前の数倍のお客さんがサウナ目当てに、それも遠方からも来てくれるようにもなりました」
――4代目の熱意と、それに応えてくれるお客さん。すごくハッピーな関係ですよね。
「でも、逆に、お客さんがサウナ待ちをする、みたいなことにもなってしまって。女湯はそれほどでもないんですが、男湯のほうが。これはどうにかしたいな、と思って男湯に新たにもう一つサウナ室を作ることにしたんです」
――それが、この夏の新たな挑戦ですね。
「はい。それも、常連さんが昔うちでやっていた『漢方風呂』が良かった、ってよく言ってくれるんで、皆さんへの恩返しの気持ちも込めてそれをサウナで復活させられないかなって思って。で、ドライタイプの漢方サウナを作ることにしました。以前から自分で草むしりしたり、サウナ室の壁やベンチは大工をやっている伯父に直してもらったりと、出来る限り自分たちでやったほうが自分たちの思うものが作れるので、今回も伯父と私たちで、せっせと毎日の営業終了後に作業しています。本当は7月の上中旬くらいまでにはオープンしたいなと思ってたんですが、ちょっと遅れてしまっていて。でも、7月25日の週には、なんとかお披露目したいなって思ってます」
――めちゃくちゃ楽しみです。
「漢方とか薬草って……『しきじ』さんもそうですけど、香りを嗅いだだけで幸せな気持ちになるじゃないですか。体にいいものが入ってくるような、もう健康になった、みたいな(笑)。アレを味わってもらえたらって思ってるんですよね。そのまわりにも、いろいろ『桶シャワー』とか、新しいものを設置するつもりなので、それも楽しみにしてもらえたらって思います」
――4代目のモチベーションの源をあらためて聞いてもいいですか?
「う~ん。あらためて聞かれると……何なんでしょう(笑)? でも、何かを改善したり変えたことでお客さんがニコニコして喜んでくれるのはやっぱり一番励みになるし、そうするとスタッフもハッピーになれるし。何より、私が、せっかちだから『これがいい』って思いついたらすぐにやっちゃうんですよね(笑)。だからこれからも……明日も明後日も、浴室ののれんじゃないけど『出陣じゃー!』って。やりたい放題にやってますけど、これからも、たぶんやりたい放題でやっていくと思います(笑)」
いやぁ、楽しみしかありません。これからも「古戦場」さんを追いかけ続けたいです!!
【古戦場】
住所:岩手県一関市赤荻堺78-2
営業時間:前10:00~後9:30 年中無休
料金:中学生以上=700円(※後5:00以降は600円)、小学生=400円
※入浴&食事のセットなど、さまざまなプランあり
撮影/岡本武志