発売中のSAUNA BROS.vol.9で取材させていただいた滋賀県大津市「8Seas Sauna HIRA」へと向かうその足で、同じ大津市にある人気の銭湯「都湯-ZEZE-」ものぞいてきました。
1970年に開業した歴史ある銭湯を先代から引き継いで、2018年11月にリニューアルオープン。以前「サウナを愛でたい」(BS朝日)でも紹介されたので、ご存じの方も多いでしょう。
JR大津駅の観光案内所に置かれた銭湯マップ「OTSU-MAP」によれば、大津市内では現在8軒の銭湯が営業中(かつては50軒も)。そのうち明治に開業した最古参の「小町湯」をはじめ4軒が駅の北口の1㎞四方の範囲に集中。お目当ての「都湯」は、大津の1つ先の駅、膳所(ぜぜ)にあります。
アクセスはJR大阪駅から京都線快速に乗って、大津まで50分ほど。膳所までは乗り換えなしで行けます(京阪膳所駅もすぐそばに)。京都駅からは、JR琵琶湖線でわずか10分。土地勘がないので、もっと時間がかかるのかな~と思っていましたが、大阪・京都を旅行した際も、ふらり足を延ばせる距離だと感じました。
膳所駅北口からは徒歩3分。ときめき坂を錦駅方面に歩いて左側に黄色い壁の美容室が見えたらもうすぐ。その先の昭和レトロな建物が「都湯」です。
看板には「サウナ、電気風呂、ジェット風呂、水風呂」と書かれています。“サウナ”の文字だけ、やけにデカい! 何やら期待が高まるじゃありませんか。
すべてがリアルに(?)エモすぎる銭湯
正面の引き戸を開けると、左手にデコラ化粧板がエモい下駄箱が。いわゆる“エモ~い!”ではなく、190年開業のため、ある一定の年齢の方であれば、本当にエモーショナルな気分になれる駄菓子屋のような懐かしいフロントです。
18番まである下駄箱の鍵は、関西で多く見られる下足札を斜めに指し込むタイプ(関東は縦型が多い)。そういえば、「都湯」の外観も関東に多い宮づくりではなく、京都の長屋風でした。
入口の右手、番台に書かれた料金表を見ると、入浴料は大人(中学生以上)490円、中人150円、小人(乳幼児)100円。サウナは入浴料+110円、タオル貸し出しは60円、バスタオルは120円とリーズナブル(PayPay払いも可能)。計600円でサウナまで入れるなんて、何ともうれしい限り。片道の電車賃を含めて1500円でお釣りがきます。大津の銭湯は、どこもこの値段なんだそうです。
その番台の周りには、「都湯」オリジナルグッズが壁までズラリ。定番の銭湯タオルはもちろん、MOKUタオルにサウナハット、Tシャツにパーカー、靴下まで何でも揃っているから、もしもの場合(どんな場合?)でも着替えには困りません。
しかも、すべてデザインがいい! 中には、大谷翔平選手らが所属するドジャースをリスペクトしたベースボールTも。背中の選手名は“MIZUBRO”、背番号の“18”は水風呂の温度でしょうか。おしゃれな上に洒落もきいています。
ちなみに、猫のキャラクターが描かれた小物類は「都湯」の看板猫として人気だったトタンくんがモデル(残念ながら2024年5月に急逝)。「みゃ~こ湯のトタンくん」(ミシマ社)という漫画にもなったほど有名で、これらグッズはすべて公式HP内のオンインショップでも購入できます(https://miyakoyu.jp)。
たくさんグッズがあるから迷うにゃ~なんて言ってるうちに、オープンの時間が迫ってきたので暖簾をくぐって脱衣所に向かいます。脱衣所、浴場、サウナとも左右が反転しているだけで、男女ともほぼ同じ間取りと広さです(これも関西ならでは)。
古いけれど清掃の行き届いた室内に感激
来年2025年には開業から55年を迎えるということで、コンパクトな脱衣所のそこかしこに歴史を感じます。最近はあまり見かけない床に敷かれた籐むしろも、親戚の家にあったような……と、昔の思い出がよみがえってきました。
ロッカーは20人分。下駄箱が男女で18人分だから計算が合わないんですが、いくつかは鍵がかかっていることから、常連さん用なんだろうな~と理解。地元に根差した銭湯では、よくあるサービスですね。
化粧台横の小窓からはサウナ室内がチラリ。見たところ、3~4名ほど入れる大きさ。アツアツなのが、ガラス越しにも伝わります。
ガラガラとサッシ戸を開けた浴場は、天井が青々と塗られ、男湯と女湯の境には、瀬田の唐橋や比良山系など近江八景が描かれています。タイル絵であるところも、また関西銭湯の文化です。
黄色いケロリン桶も、関東よりも小ぶり(関東は直径22.5㎝に対して関西は21㎝)。関西では湯船から湯を汲んで体にかける“かけ湯”が一般的であったため関東のものでは重く、規格変更がされたそう。大きいと湯を使いすぎるから……という説もありますが(笑)。
浴場全体は、さほど広くはないものの、カランは12人ぶんと十分な数。脱衣所もそうでしたが、鏡から何から掃除が行き届いています。シャンプーとトリートメントが置かれているところも、旅行者にはありがたいですね~。
風呂のお湯はボイラーを使用せず、建築廃材などを燃やす昔ながらの薪沸かし方式のため、やさしいトロみがあります。30分~1時間ごとに薪をくべるので43℃前後で安定。湯船は、肩までゆったりと浸かることのできる深さです。
通常の湯船のほかに、表の看板にも書かれていたジェット風呂、電気風呂もありました。電気風呂は、医療機器メーカーの歴史をもつ水野通信工業製で。押す・揉む・叩く」ピリピリしすぎない3段階の低周波数はビギナーでも挑戦しやすい、ほどよい刺激感で、クセになる人も多いといいます。
激アツサウナと水風呂の相性がサイコー!
――というわけで、汗を流して、体も温まったところでいよいよサウナへ。
サウナ室の前にはビート板が並び、ドアにはサウナハットなどをかけておくフックも付いているなど、小さな町の小さな銭湯でありながら手抜かりはありません。
ドアを開けると、カラッとした心地よい熱気が体を包み込みます。温度計は100~105℃。HPには「120℃の高温ドライサウナ」とありましたが、14時の開店前の取材だったため、まだ温まりきっていなかったのでしょう。
とはいえ、それでも熱い! 石壁の蓄熱性も相まって、めちゃくちゃ熱い!! なのに、湿度加減が絶妙で、明るすぎず暗すぎずの照明、主張しすぎないボリュームで流れてくるBGM、ほのかに香る週替わりのアロマが五感を刺激。長く入っていられる上に、あっという間に時間が過ぎます。
また地下60mより組み上げた鮮度抜群の地下水をぜいたくに掛け流した水風呂は、しっとりと肌に吸い付くような水質で、18℃(やはり!)という温度も含めて、サウナとの相性が抜群! 1名しか入れないので、誰か並んだ場合はすぐに出なきゃいけないのがもったいないくらいの心地よさ。これがジャバジャバと陶器でできたライオンの水吐き(吐水口)からかけ流しにされるぜいたくさ。
「番頭自らが研究に研究を重ねて生み出した“水風呂にちょうどいい”温度設定が自慢。まさに水風呂好きによる水風呂のためのサウナ」(HP)という言葉に偽りなし。看板の文字がデカいのも納得のサウナ、そして水風呂でした。
こじんまりとした銭湯のため、外気浴スペースはありませんが、浴場内にある2脚のイスでまったりとしながらととのう……。何度も言いますが、これで入浴料+110円だなんて、近所の人がうらやましすぎます!
入浴後は、下駄箱の後ろ側にある冷蔵庫&冷凍庫でドリンクやアイスを。ひやしあめやみかん水といった今や銭湯でしか見かけなくなった昭和の瓶ジュースで(この日は激レアな瓶ポカリもありました!)乾いた喉と体を潤して、取材終了。表に暖簾がかかるころには、早くも3~4名ほどの常連さんが並んでおられました。
自分の“経県値”的には泊まったこともなければ降りたこともない、新幹線で通りすぎたことしかない滋賀県大津市でしたが、こんなに気軽に行けるのであれば、もっと早く来ればよかったな~と激しく後悔。
ここ数年、本屋大賞受賞作「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)をはじめ、書籍やアニメの舞台として聖地巡礼で賑わう大津。旅行の際は銭湯およびサウナ巡りもプランに加えてみてはいかがでしょう?
次回は、先代が亡くなり休業していたところに名乗りを上げ、2018年11月に「都湯」の営業を再開させた若き2代目番頭、原俊樹さんのインタビューをお送りします!
都湯-ZEZE-
■住所/滋賀県大津市馬場3-12-21
■営業時間/[平日]後3:00~深0:00[土・祝]後2:00~深0:00[日]前8:00~深0:00
定休=木曜
※年末年始特別営業:12月29日(日)~1月5日(日)は前8:00~深0:00
■料金/大人490円、サウナ+110円
撮影/山口京和
取材・文/橋本達典