最近では「進撃の巨人」の原作者・諫山創先生のふるさとであるため“聖地巡礼”で賑わい、かつては天領として栄えた大分県日田市。そんな街に、ここ数年、全国からサウナ好きも訪れていると聞いて、発売中の「SAUNA BROS.Vol.10」の取材に出かけた。
“梅の郷”で過ごす初夏の休日 絶景の天然温泉で心のぜいたくを
目的は、日田の奥座敷・大山町の山あいに佇む「奥日田温泉 うめひびき」。大山は昭和の時代から梅の郷として知られ、館内でも梅をあしらったインテリアや食事などでおもてなしをしてくれる、大山の魅力を五感で味わえる“梅づくし”の隠れ家的温泉旅館だ。

宿の周辺には梅園が。その約6000本。5月の終わりから6月初旬の2週間程度で収穫するというから驚き。寒暖差が大きい山間地でも栽培できることから50年ほど前に多くの農家が梅栽培に転身。この行政主導の取り組みによって大山町は梅の郷となった。


同宿は2017年11月のグランドオープン以来、全国の温泉ファンより親しまれ、ミシュランガイドで最高位を獲得したほか(熊本・大分特別版)、あまたの賞を受賞。昨年7月に宿泊者限定の「サウナラウンジ紅鶴(べにづる)」(※貸し切り)も新設され、サウナ好きも注目するところとなった。
福岡空港から車で1時間ほど。日田ICを降りて、国道212号を南下すること約30分。到着すると、「うめひびき」の名のとおり、広大な梅園の先に建物が見えてくる。眼前に迫る雄大な響渓谷にも圧倒される。

シックで落ち着いた「うめひびき」の外観。岡部泉さんのデザインだ。列車で訪れる場合は、JR博多駅から特急ゆふいんの森で日田駅下車。送迎あり(※要予約)、タクシーで4,000円ほど。JR大分駅からも特急ゆふいんの森で。大分コースであれば、湯布院や別府など他の温泉地も楽しめる。




客室をはじめ、ロビー、廊下など館内のいたるところ“梅”の模様があしらわれ、落ち着いた雰囲気。日田杉の家具や組子などの木工細工を眺めているだけで時間を忘れる。
最高のおもてなしとやさしい時間 大人の隠れ家と呼ぶにふさわしい宿
さっそく「紅鶴」へと向かう。タイプの異なる3種類の部屋にはプライベートサウナと水風呂に加え、ラウンジスペースや外気浴用の屋外テラスも完備。それぞれ「蝶の羽重(ちょうのはがさね)」、「楊貴妃(ようきひ)」、「舞扇(まいおうぎ)」と名付けられた室名は、すべて梅の品種名から取られた。
中温~高温まで温度調整が自在のサウナでアロマ水のロウリュを楽しんだ後は、水郷日田の地下水かけ流しの水風呂でクールダウン。外気浴では響渓谷を望みつつ、鳥のさえずりに耳を傾け、新緑の香りに癒されながら五感で癒しを感じられる。


各部屋にはサウナ室をはじめ、深めの水風呂、シャワー、ラウンジスペース、テラスが。サウナ室はコントローラーで室内の温度設定ができるほか、セルフロウリュウも可能。Bluetooth接続によって好きな音楽が聴ける。

水風呂は水郷日田の清らかな地下水で水温は18~19℃。ロウリュ用に耶馬渓(やばけい)の森のヒノキや大分のかぼすなどから抽出した芳香蒸留水が用意されている。

各部屋に2種類のアロマ水を用意。1本はヒノキをベースにクロモジやスギをブレンドした「雫(しずく)」。森の癒しをじっくり味わえる香りになっている。もう1本は「滸(ほとり)」。大分県特産のカボスをキーポイントにした、みずみずしさを感じられる爽やかな香りで、朝ウナをイメージしている。
利用可能時間は15:00~23:00、6:00~9:00。翌朝に利用すれば、立ち込める朝靄(あさもや)が窓の外に。ぐるっと180°見渡せる、水墨画のような景色は圧巻だ。

「ところで靄と霧の違いって何なんでしょうね?」。カメラマン氏の問いかけにスマホで調べてみると、靄も霧も空中に浮かぶ細かな水滴で、見渡せる距離が1㎞以上10㎞未満であれば靄、それ以下であれば霧と呼ぶのだそう。こうした普段は気にも留めない素朴な疑問に思いを巡らせる気持ちの余裕を「心のぜいたく」と言うのだろうか? このゆったりとした時間を求めて連日、大勢の宿泊者が訪れるというのもうなずける。

テレビやサウンドバーを完備するラウンジは畳敷き。響渓谷を横目にゴロリと寝転がれば、いつしか日ごろの喧騒を忘れ夢心地になっているはずだ。

ドライヤーはReFa(リファ)、化粧水や乳液などは雪肌精と、アメニティも充実。冷蔵庫にはミネラルウォーターやデトックスウォーター(日田天然水)、アイスクリームなどがズラリ。ほか日田産のナッツ・ドライフルーツといった軽食も。サウナハット、サウナポンチョも用意されている。

【サウナラウンジ紅鶴】
全部で3室の特別なラウンジが用意されている。

蝶の羽重(ちょうのはがさね)
定員/6名 総面積/48.0m2 サウナ/5.2m2 ラウンジ/27.4m2 テラス/15.4m2 料金/2名まで33,000円(税込)1名追加+5,500円




楊貴妃(ようきひ)
定員/4名 総面積/41.6m2 サウナ/3.9m2 ラウンジ/19.6m2 テラス/18.1m2 料金/2名まで27,500円(税込)1名追加+5,500円

舞扇(まいおうぎ)
定員/4名 総面積/37.6m2 サウナ/4.3m2 ラウンジ/20.0m2 テラス/13.3m2 料金/2名まで27,500円(税込)1名追加+5,500円

時間ごとに移り行く景色を眺めつつ 極上の“ととのい”に身をゆだねる
日帰りでも利用可能な温泉大浴場「緑宝(りょくほう)」と「青軸(あおじく)」のサウナも忘れてはならない(※男女入れ替え制)。ともに「紅鶴」と同様、絶景が自慢の広々とした内湯や露天風呂をはじめ、高温サウナや水風呂、ぬる湯を備え、「緑宝」には岩盤浴、「青軸」には活盤浴も。

サウナ室はともにL字型で座面は2段。定員は15名ほどで、ゆとりのある空間。温度は90℃。大人の股下ほどの深さのある水風呂は18~19℃。36℃のぬる湯があるから、水風呂が苦手な人にはありがたい。ぬる湯に浸かってほどよく身体を温めた後、高温サウナで蒸され、水風呂へ――という入り方も一考だ。

内湯、露天風呂の温度は41℃。取材時は天井まで届く開放的な窓から望む響渓谷の新緑が美しかった。春~夏は新緑、秋は紅葉が楽しめる。また3~4月には、宿周辺に梅の花も咲き誇るそう。
響渓谷を抜けて降りてくる風が心地いい屋外の外気浴スペースはもちろん、寒い冬場にはありがたい内気浴スペースもある。屋外では、露天風呂横のテーブル席で時間の経過とともに移り行く景色を眺めならがらの1セットもおすすめ。露天の寝湯(緑宝)に浸かりながら、まったりと過ごす時間も実によかった。

外気浴・内気浴スペースは「緑宝」、「青軸」とも広く、イスの数も申し分なし。順番待ちをすることなくひたることができる。

続いて、チェア型の座面から響渓谷を望みつつ、座りながら身体を温めることができる「緑宝」の岩盤浴。さらには室温42~43℃、湿度25%と熱すぎないため、リラックスして過ごせる「青軸」の活盤浴も体験。セラミックボールが敷き詰められた活盤浴のブースで横になっていると、気づけば玉のような汗がタラリと流れてくる。


ちなみにセラミックボールとは、数千万年前の海洋植物などが堆積してできたミネラル豊富な鉱石を砕き、土のボール状にしたもの。これを床下の温熱パイプでじっくりと温めることによって遠赤外線が放出され、マイナスイオンが発生。30~40分ほど過ごすことで全身から汗がふき出し、老廃物の排出を促すそうだ。


ちょっとした体育館のような広さを誇る活盤浴のブースは1人ずつに仕切られているため、他の利用客に気兼ねせず、ゆっくりと汗を流せる。日頃の喧騒を忘れて瞑想するにはぴったりだ。
脱衣所も広く、ロッカーは「緑宝」、「青軸」とも39名ぶん。化粧台は5名ぶん(緑宝)・4名ぶん(青軸)と、すべてにおいて余裕がある設計。隣で着替える人に気を遣ったりすることもなく、ストレスフリーで過ごせる。


それぞれ化粧水や乳液などのアメニティも自由に使え、全身用マッサージチェアもあり。温泉、サウナ、岩盤浴・活盤浴の後はマッサージ。心身ともに疲れを癒そう。
なお日帰りの利用料金は、大人1200円、小学生600円、活盤浴・岩盤浴は追加料金500円。東京都内の銭湯+サウナの料金が大人1000円~ほどだから破格と言えるだろう。
小さなお子さんからお年寄りまで 気兼ねなく過ごせる空間が心地いい
温泉やサウナで一汗かいたら、個室の食事処「白加賀(しらかが)」で夕食を(宿泊者のみ)。“サ飯”と呼ぶには豪華すぎる、九州産の食材にこだわった逸品料理の数々がさらなる心のぜいたくを満たしてくれる。




食前酒は「うめひびき」の敷地内に併設する梅酒工場「梅酒蔵 おおやま」で造られた2種類の梅酒を飲み比べ。1年ものはあっさりと飲みやすく、3年ものはさらなる梅の風味を感じられた。
アルコールが苦手な宿泊客には完熟梅ジュースなどを提供。小学生の場合は大人と同じ料理または「子供会席」を、幼児には「お子さまランチ」も用意され、アレルギー食材や妊娠中による食材の変更も受け付けるなど(※前日17時まで)細かな気配りもありがたい。

ほかにも大人のためのバーラウンジ「藤五郎(とうごろう)」やシガールーム、お子さま連れの宿泊客にはうれしいキッズルーム、タイプの違う枕が選べるピローギャラリーなど、老若男女を問わず、心地よく過ごせるサービスが溢れていた。

いわゆる“お籠りタイプ”の宿であることから、温泉・サウナの後は「梅酒蔵」を訪ねたり、地元・日田杉を使ったインテリアが美しい館内を散策したり。夜は先の宿泊者専用ラウンジで音楽や読書を楽しみながら、梅酒を中心とした創作カクテルに舌鼓を打つ。それぞれのぜいたくな時間を過ごしたい。
また、各客室は内風呂やシャワー室付きのほか、露天風呂付きもあり。檜の浴槽、岩造りの浴槽、石作りの浴槽と3つのタイプが揃う宿泊者限定の貸し切り温泉を利用すれば、訪れるたびに違った宿の表情が味わえる点も「うめひびき」の魅力。
その魅力の陰には、館内が広いため道に迷っていると、すぐさま駆け寄って案内してくれたり、料理の際は丁寧に説明してくれたり。地元・日田について何でも教えてくれるスタッフのおもてなしがあったことも付け加えておきたい。
【貸切温泉】
料金/1回(60分)2,200円(税込)要予約。
本館には人気の「七折」(約50.0㎡、シャワー室あり)をはじめ、内風呂・露天風呂が付いた客室も。赤い太鼓橋を渡った別邸「鶯宿」には内風呂(ジャグジーバス)・露天風呂付きの3タイプの部屋があり(約50.0~80.0㎡、)、ほか本館には一棟賀貸しで内風呂(ジャグジー)・露天風呂付き、二間続きの離れ「竜峡」(約105㎡)もある。




本館の「七折」とともに人気の「織姫」(約45.0m2、内風呂あり)。布団を敷くことで各室最大6名(七折)・3名(織姫)が宿泊可能。本館、別邸、離れとも小耶馬溪とも呼ばれる渓谷ビューが目の前に。
そして、翌朝も朝から温泉とサウナへ。おこげまで楽しめる釜炊きの白米とみそ汁、焼き魚など塩味の効いた朝食が火照った身体に染みわたる。シンプルかつ工夫が凝らされた、素材を活かした料理の数々は、某グルメドラマの主人公が言う「こういうのでいいんだよ」の代表。釜炊きの白米は、専用の醤油をかけて卵かけご飯に。ここに、自家製の梅干しをトッピングするのがおすすめだそうだ(梅の郷だから当たり前なのだが、この梅干しが旨すぎる)。
食後には、大山で採れたハーブを使った季節のハーブティーやコーヒーを、文字どおり朝靄が煙る「あさもやテラス」でいただく。チェックアウトは、遅めの11時。最後までゆとりある、ぜいたくな時間を過ごすことができた「奥日田温泉 うめひびき」だった。
梅の郷で響渓谷の絶景を目の前に、ここでしか味わえない極上のくつろぎ、癒しのひととき――。帰り際、全国の温泉旅館・サウナ室を巡ってきたカメラマン氏が「自分史上、総合力でナンバーワンの宿でした」と言うのも納得の1泊2日の取材旅行。
来る夏休み。「おんせん県」大分で、湯布院や別府だけではない日田の奥座敷を、もう一度目指してみようかな。

「梅酒蔵 おおやま」では梅酒を試飲、梅酒・梅シロップ作りの体験もすることができる、まさに“梅づくし”の宿だった。

梅酒・梅シロップづくり
梅酒の原材料には、自社梅園のほか、地元大山町の農家が一粒一粒、丁寧に育てあげた大山産の梅のみを使用。工場内の瓶詰め室などの見学も可能だ。



貴重な原画や、諫山先生の幼少期から青春期の作品、大迫力のオブジェなどを展示する「進撃の巨人 in HITA ミュージアム」やエレン・ミカサ・アルミンの少年期の銅像が設置された「大山ダム」も日田の見どころ。そそり立つダムは、作中の壁を思わせる迫力!

奥日田温泉 うめひびき
■住所:大分県日田市大山町西大山 4587 番地
■電話:0973-52-3700(受付時間10:00~12:00/13:00~17:00) ※電話受付定休日=毎水曜
■営業時間:チェックイン15:00 チェックアウト:11:00 日帰り入浴11:00~14:30(最終受付14:00)
■サウナラウンジ紅鶴 利用可能時間15:00~23:00&翌6:00~9:00/蝶の羽重33,000円、楊貴妃27,500円、舞扇27,500円 ※サウナラウンジは宿泊者のみ予約可能 ※23:00~6:00は安全のためサウナの利用不可
▶詳細・予約はこちら:https://www.umehibiki.jp/
撮影/佐藤佑一
取材・文/橋本達典
「SAUNA BROS.vol.10」
●好評発売中
●定価:1,251円(本体:1,137円)
●発行:東京二ュ―ス通信社
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