「人との関わり」に惚れて旅館を継ぐことに
―― そもそも多賀扇は、山口さんのお祖父さまがオーナーをしていた旅館だったんですよね？
「もともとは違うオーナーの持ち物だったのですが、競売にかかったときに僕の祖父が競り上げて購入しました。それが20年前。建物自体は30年ぐらい経っていたかと思います」
―― それで山口さんがおじいさまから実家の旅館を継ぐことになったというわけですか？
「細かいことを言えば、僕は、直接継ぐ家系ではなかったんです。だから旅館を継ぐなんてことは当初は考えておらず、割と自由に過ごしていました。大学で東京に出て、東京薬科大学の薬学部を卒業。山梨には帰らず、そのまま東京で研究者をやっていました。そのときに英語が全然できなかったので、オーストラリアへ海外留学をしに行ったのですが、そこで人との関わることに喜びを覚えて。研究者は結構クローズドな世界なので、このまま研究者を続けていくのは、僕のやりたいこととはちょっと違うかな……という思いが芽生えはじめました。そんなときに、『そうだ、祖父が山梨で旅館をやっているじゃないか。僕も旅館を継ぎたい』という思いがじわじわと湧き始めて。そこから、ホテル業の修行をするために、グランド ハイアット 東京で3年間働きました」
山中湖旅館「多賀扇」を全面リニューアル
――なるほど、それで多賀扇を継ぐことになったんですね。多賀扇は、サウナ好きの間ではちょっとした有名スポットになっていて、それを目指してくるお客さんも多かったとか。
「サウナをブラッシュアップさせよう！ と決めてからは、いろいろと工夫しました。僕自身が熱波師として、アウフグースをやったことも。サウナのセッティングなど細かい部分も僕がまかされていて、サウナの温度も110℃ぐらいの熱めに設定したりなど、目線でサ1人のサウナ好きの目線を持って、どんどん変えていきました。富士山のふもとなので、水風呂は富士山の源泉を引いていたし、外気浴では、山中湖畔の景色や夜には満点の星空も楽しめる。サウナを運営するには、恵まれた環境にありましたね」
――山口さんも、サウナがお好きなんですね。
「そもそもは『サウナがあったら入る』という感じで、そこまでハマってはいなかったんですよね。そんなときに多賀扇に入りました。多賀扇はそこまで新しくなくそれなりに歴史がある旅館だったので、若旦那として継いだときに、正直なんかパッとしないな……と思っていて。コロナ禍で大浴場のサウナをずっと閉じていたんですけど、そのときに『サウナが流行っているし、この機会に新しくしよう』と思い立ったんです。サウナストーブを新調したりなどいろいろやっているうちに、『サウナイキタイ』などのクチコミでどんどん広まって。そうしていくうちに、僕もおもしろくなってきちゃったんですよね。もともと研究畑にいたというものあり、どんどんブラッシュアップして、トライアンドエラーするのが楽しくて。サウナのセッティングもいろいろと試したり……とするうちに、いつの間にかサウナが大好きになって、のめり込んでいきました」
――サウナ好きの間で、多賀扇は人気があった施設かと思いますが、あえて今回「しずく」としてリニューアルオープンしたのには、どんな思いがあったのでしょうか。
「サウナ好きの人って、みんなすごく語りたがるじゃないですか。『どこのサウナが好き』とか『あのサウナのここが良かった』とか。みんなサウナが大好きがゆえだと思うのですが、僕は多賀扇の運営で忙しく、なかなかいろいろなサウナへ行くことができないままでいたので、それがどこか心苦しくて。多賀扇をリニューアルすることをきっかけに、準備期間にサウナを極めるサウナ修行旅に出ようと決めたんです。最高のサウナ宿にするためには、僕自身がサウナに誰よりも詳しい『日本一のサウナオーナー』にならなきゃなと。それで、フィンランドへのサウナ修行旅をすることを決めました。そこからは、1年越しの長期スパンでリニューアルの準備をはじめました」
――フィンランド旅の様子、ぜひお伺いしたいです！
記事の後編では、山口さんのフィンランドを巡るサウナ修行旅の様子や、彼自身が考えるサウナへのリスペクト、それがどう今回全面リニューアルしたしずくに生かされているかについてご紹介します。まさに人に歴史あり、サウナに歴史あり！
富士山の見える全室個室サウナ付旅館 しずく
■住所：山梨県南都留郡山中湖村山中172
■受付時間：チェックイン＝後3：00〜9：00、チェックアウト＝前11：00［大浴場］後3：00〜9：00（最終受付は8：00）
■料金：［各部屋の個室サウナ］＝空き状況や部屋のタイプで料金が異なるので、公式HPをご確認ください。［大浴場］入浴料＝1,500円
※その他の情報は公式Instagram（@shizukusauna）、と公式HPをご確認ください
