2024年10月19、20日の2日間にわたって大分県豊後大野市で開催されたサウナ好きによるサウナ好きのための野外イベント「サウナ万博2024」。初日は天候不良により1時間ほどの中断もあったが、連日100~130人が詰めかけ、好評のうちに幕を閉じた。
主催したのは、豊後大野市緒方町の宿泊施設「LAMP豊後大野」で支配人を務める高橋ケンさんが立ち上げたアウトドアサウナ協議会「おんせん県いいサウナ研究所」。
“サウナのまち”豊後大野市のアウトドアサウナ推進に向けたキーパーソンであるケンさん(彼を知る人は皆、親しみを込めてこう呼ぶ)に、今年で5回目となった「サ博」の意義、そしてこれからの展望を聞いていこう。
「サウナ万博2024」のリポート記事①はこちら。
出会いとご縁があってこその「サウナ万博」
──間もなく「サウナ万博2024」が閉幕します(取材は2日目)。今回の手応えはいかがですか?
あいにくの天気でしたが、協賛企業の一つである大分市の「ベツダイホーム」さんが会場にイベント2日限定の「OUCHI SAUNA」を建ててくださったり、全国のイベントで引っ張りだこの「madsaunist」さんが東京から来てくださったこともあって、みなさん喜んでいただけたんじゃないでしょうか。ほかにもステージや飲食、物販のブースなど、これまで以上に充実した「サウナ万博」になりました。
──初日は天候が危ぶまれるなど不安もあった中、何とか乗り切って。
運営も成長しましたね。コロナ禍に第1回目が始まって、2回目は大雨で川が増水して開催を延期するなど前途多難な船出ではありましたが、僕を含むスタッフ全員が毎年のように経験値を積んで。今回も雷雨のため一時中断などトラブルもありつつ、何とか対応できるようになりました。そこが、この5年間「サ博」をやってきた成長だと感じます。
──第1回目の「サ博」から今年で5回目。振り返って、今思うことは?
協賛企業さんやゲストサウナさん、出店者のみなさん、さまざまなご縁が重なって今があるんだなと改めて思います。お客さん同士もそうだと思いますが、普通であれば出会わない人たちがこのイベントを通じて繋がって。その輪が広がっていく様子を間近で見ることができたのは貴重な経験になしました。
──ケンさんご自身は2017年8月に「LAMP豊後大野」がオープンし、豊後大野市に移住。以前SAUNA BROS.WEBに掲載されたインタビューによれば、実は第0回の「サ博」もあったそうで。
2019年のゴールデンウィーク明けに、お試しでテントサウナの体験イベントをやって。それがあまりにも気持ちよかったので、「LAMP豊後大野」と同じ清川町にある「カフェパラム」と「里の旅リゾート ロッジきよかわ」の間を流れる奥岳川で「リバーサイドサウナ」というテントサウナのイベントをやって……それが7月のことでした。
──ドラマ「サ道」(テレビ東京)がスタートしたのが2019年7月ですから、ちょうど同じころ。
とはいえ、サウナなんて、一般的には全然盛り上がってなかったですし、そのとき来てくれたのは誰かの知り合いばかり。数は10~15人くらいでした。
──5回目となった今回の参加者の数は?
昨年の4回から少し減って、初日が130人、2日目が100人ほど。サウナブームがピークアウトして落ち着きつつある中、次はどうやるのか? これから1年かけて考えていかなきゃいけない課題ですね。
第1回目は「やるなら今しかない!」と開催
──話を戻しまして、第1回目が開催されたのは2020年の12月とのこと。
コロナ禍が一段落した時期だったこともあって「やるなら今しかない!」と決断しました。もちろん、参加者の足取りが追えるよう、全員に連絡先をお聞きして。豊後大野市に古くから伝わる石風呂(岸穴の中で薬草を蒸し焼きにして入る薬草蒸し風呂の一種)がある緒方町の辻河原公園で、石風呂とテントサウナの体験イベントを実施しました。
──しかし、九州とはいえ、この辺りは山間地なので冷えると思います。12月開催とは、ずいぶん思い切りましたね?
「サウナに入れば温まっているし、水も冷たい方がいいでしょう?」と、そんなイメージで(笑)。そうは言ったものの不安もありましたが、予想を超える50人が来てくださって。「ロッジきよかわ」に場所を移した2回目は大雨で、10月に延期することになって……それでも県内外から150人もの参加者が集まってくださったことが大きな自信になりましたね。そこからは、ずっと10月の第3週に開催しています。
──その2回目の開催を前にした2021年7月には、川野文敏豊後大野市長が「サウナのまち」を宣言(ここに至る過程も、先のケンさんのインタビューを。とりわけ、地方創生に興味のある方は必読です!)。
2019年の「リバーサイドサウナ」が大きなきっかけになったんじゃないかな? そのイベントの後にサウナのまち構想を組み立て、冬の川を試すのにたまたま1月5日に温泉で出会った、静岡在住でトレーラーサウナを持っているTOTONOWと一緒にイチゴイチエというイベントを2020年1月に開催して。3月には、僕が発起人となって「おんせん県いいサウナ研究所」を発足したことで、行政も大きく動き出したように思います。
「おんせん県いいサウナ研究所」はヤンキーの戦略!?
──翌2022年には、その「おんせん県いいサウナ研究所」と大野郡森林組合が連携協定して、未利用材や端材を無償でサウナの薪として提供してもらうことになり、3月には「いいサウナ研究所」と市内飲食店が連携した「サウナ飯」プロジェクトがスタートします。
2年までで、まだ移住して4年ほど。ものすごいスピードでアウトドアサウナに振り切っちゃいましたね(笑)。
──豊後大野市も2021年度からサウナに対する予算を編成し、「サウナのまちにやってきてキャンペーン」を展開。「アウトドアサウナ施設等整備事業補助金」を施行。同市出身の漫画家・若杉公徳先生の「デトロイト・メタル・シティ」とのコラボレーションしたPR動画とサウナの入り方指南書を無料配布するなど、その後もすさまじいスピードで、官民一体となったアウトドアサウナを観光の目玉にする取り組みが続いています。
川野市長をはじめ、市の商工観光課の担当者さんや、森林組合や料飲店、旅館・ホテル、さまざま事業者さんらと相談し、時には議論しましたが、それにしても行政を巻き込んでいながらのこのスピード感は、ほかに例がないと思います。
──そのケンさんの“巻き込み力”といいますか、行動力・推進力はどこから?
ヤンキーの戦略ですね。僕、茨城県の出身なんで(笑)。前にも言ったかもしれませんが、全国には名だたる人気サウナ施設が山ほどあって、そことどうやって戦うかなーって考えたときに、まず数をそろえなきゃ、と思ったんですよ。九州だけでも熊本、佐賀、長崎、鹿児島、福岡……サウナも水もいい県がたくさんあって。それら強敵に勝つためには急ぎ仲間を集めるしかないと。あと市長が変わったら180°、方針が変わることなんてざらにあると思うんで(笑)、“急がなきゃ~”っていう多少の焦りもありました(笑)。
──それでまず「LAMP豊後大野」と「ロッジきよかわ」、「カフェパラム」が手を結んで。「稲積水中鍾乳洞」(三重町)や「犬飼リバーパーク」(犬飼町)、「REBUILD SAUNA=LAMP豊後大野」(緒方町)、「Tuuli Tuuli=カフェパラム」(清川町)といった豊後大野市の施設と一緒になって「いいサウナ研究所」を発足したわけですね。
「サウナのまち」として全部の施設を回れたら、めちゃいいな~と思ったんです。それぞれのアウトドアサウナ施設の違いは、温泉に例えるなら泉質の違いみたいなもので。一つの地域でいろいろな温泉・泉質が楽しめて、飲食店にもサウナ飯などで協力してもらって、サウナ土産も出したら経済は回る。サービスやそのバリエーションなんかも増やしていけば、来訪者の満足度も高まって、集客増へと向かう。何度も来てもらって、滞在時間も長くしてもらいたい。その中でお金をどう地元に落としてもらうかという発想でした。で、最終的にはそれが豊後大野の教育と福祉が充実することに繋がって、子どもから高齢者の方まで幸福度の高いまちになればいいな~と。
大変ではあるし、課題もまだまだたくさん
──5回目となった今回は「大塚製薬」やスタッフTシャツも手掛けたアパレルブランド「MOBSTYLES」をはじめ、協賛企業も増えました。
「サウナ万博」は市の補助金を入れていないんですよ。だから、協賛していただく企業さんの存在は本当にありがたいです。「後援」という形で行政の名前は入れさせていただいてますけど、全部自前でやってますから。シャトルバスなんかも超~高いです!(笑)。昨年の第4回あたりから規模が大きくなったので、駐車場も別に借りなきゃなんないし、大変ちゃ大変ですよね……(しみじみと)。これまで4回やってきた中のご縁や繋がりで何とかやっていますけど。
──飲食、物販コーナーの出店も、ケンさんを中心とした人との繋がりによるものですか?
例えば、西大分のコーヒー豆販売専門店「3CEDERS COFFEE」さんは、「LAMP豊後大野」でどのコーヒーを出すか、飲み歩きをしていたときにオーナーと知り合って。出店されたどのお店にも、ひとつひとつ出会いのストーリーがあります。そこから「サ博」で出店者同士が繋がって。お互いがそれぞれ主催するイベントに声をかけたり、コラボしたり。僕らとは違う動きが生まれるのは、豊後大野、大分を盛り上げる上でもいいことだなと思います。
──SAUNA BROS.の隣のブースだった福岡発のサウナブランド「ととのっとーと。」さんも、スタッフの中にテレビ局の局員さんがいらっしゃって。SAUNA BROS.も、主にテレビ情報誌を作っている会社が出している雑誌ですから、お互いに知っている局員の名前が出てくるなど驚きがありました。
サウナ業界って副業でやられている方も多いので、そういう出会いがままあって。サウナ以外の本業のところでも繋がる人が多いようです。サウナが異業種交流や商談の場に使われるというのもわかりますよね。
──冒頭では「次はどうやるのか? これから1年かけて考える」と。コロナ禍以降、音楽フェスをはじめ、コンサートもチケット代が上がっていますが、代金に関してはどのように考えていますか?
難しいところですね……今の料金でも高いからと、地元(豊後大野市)の方がほとんどいらっしゃらないので。大分市内でも400円で温泉もサウナも入れますから、「そこ(サ博)に何の価値があるのか?」と言われちゃうんですよね。
──1日中、しかも20種類ものサウナに入れて7,000円は、むしろ安いくらいだと思いますが……。
こうやってお金を払うイベントが、豊後大野市にはほとんどないということもあると思います。習慣がないといいますか。
──地方にスポーツチームができたときも、その価格の壁にぶつかると言います。プラス、前売りでチケットを買うという経験がほどんどないとも聞きます。
僕も外の人間なんで憶測ですが、行けば買える、並べば入れるというところが多いからだと思うんですよね。だから先々の予定を立てるということもあまりない。都会で暮らしていると予約して動くことが普通になってしまっているけど、そういう地元の人たちの習慣や生活環境なども考えていかなきゃなと思います。
世代を引き継ぐヒントは地元の“祭”にあった
──では最後に、少し気が早いですが、第6回目の「サウナ万博」、そして「サ博」の今後の展望を聞かせてください。
その年の開催だけ考えてやってきたので先のことは考えられませんが、次の世代の若者に引き継いでいくことが大事だと考えています。結局、この豊後大野市で芽生え始めたサウナの文化というものが続いていくには、それしかない。じゃないと“じゃあ、僕がやってきたことは何だったんだろう?”ということになるから。正解はわからないですし、ゴールは僕にも見えないです。でも、次の世代にバトンを渡していかないと、途切れちゃう。
──若い世代に引き継ぐための方策はあるのですか?
具体策は模索しているところなんですけど、ヒントは“祭”にあるんじゃないかと思っています。「LAMP豊後大野」がある緒方町には「緒方三社 川越祭」という800年くらい続くお祭りがあって、もともとその地区の家の長男しかお神輿を担げなかったんですよ。
──都会で暮らす人には想像できないかもしれませんが、長男は家に残るとか、地方ではよく聞く話です。
ずっと続いてきた毎年の行事だから誰も不思議に思わないわけです。子どものころから「いつかお前も担ぐんだ」と言われ続け、次にまた自分の子どもにもバトンタッチして。でも今は少子化で担い手が少ないから、地区の若手が中心になって担ぐんですよ。11月の冷たい川をふんどしで渡って(笑)。そういう文化の継承って難しいんだなと思うんですけど、ここにヒントがあるのは間違いないなと思っています。
──少子化の上、長男さえも都会に出て行く昨今、どう繋いでいくか?
そうなんですよね。僕らがやっている観光施設もイベントも、どう繋いでいくのか……外から来た人間が繋いでいくというのもあるんですけど、それもなかなか難しくて。なにせ正解がないから、僕らの世代がやり続けながら見つけていくしかないですね。
──担い手の候補は現れていますか?
「ロッジきよかわ」のオーナー江副(雄貴)くんもまだ30代で、滋賀県からの移住者ですし。ほかにも地元で家業を継いだ20代の若手が「サウナを作りたい」と言ってくれていて。ほかにも動いている人もいるようなので、そういう人たちが増えてってくれたらいいなと。今度は彼らが誰かと繋がって、豊後大野、大分を盛り上げていく……「サ博」が特別なイベントではなく、地元のお祭りのような、ずっとそこにある存在になっていくことを願っています。
高橋ケン
1982年生まれ。茨城県出身。ウェブ制作会社「LIG」の編集者だったが、同社が展開する宿泊事業の中で大分県豊後大野市の「祖母山麓尾平青少年旅行村」(現在のLAMP豊後大野)の指定管理者となり、それが縁で支配人に。2017年に豊後大野市に移住。アウトドアサウナ協議会「おんせん県いいサウナ研究所」の発起人。
撮影/山口京和
取材・文/橋本達典