すべては「布引の水」、そしてある“思い”から始まった!
――2つの温泉ももちろん気持ちいいのですが、私たちはサウナや水風呂も本当に大好きで。そのお話も聞きたいのですが。あのまろやかで清冽な名水「神戸ウォーター=布引の水」も同じ頃に掘り当てられたんですか?
「水はまた別の、もっと前のタイミングです。やはり社長が、近くで別のビルを運営していたんですが、そこのテナントで飲食業をやっていた人から『水道代が高い』と相談されたそうで、『じゃあ井戸を掘ってみようか』と。そうしたら……」
――出たんですね。この美味しくて気持ちいい名水が。
「そうなんです。そんなことがあった後に、先ほど申し上げた知り合いの地質学者さんから『もっと掘ったら温泉も出るかもしれない』と言われたそうなので……結局は、この水を掘り当てたことが、神戸クアハウスが出来たきっかけなんですよね。
いま思い返すと、いろいろ、おとぎ話みたいにドラマチックなことばかりですが、やはり創業社長の『世の中の、他者の役に立ちたい』という思いが、すべての始まりだったんですよね」
――サウナ室や水風呂も、オープン当時から?
「はい、そうです。男湯のサウナ室は、その後に現在の寝転んで入れるエリアも増築したんですが、それ以外はすべて創業当時からいまの形です」
――あのガラス張りのサウナ室からの眺めがまた、本当に最高なんですよね。あの気持ち良さそうな水風呂を見ながら蒸される時間。たまらないです。
「そう言われる方は、本当にたくさんいらっしゃいますね。『絶景だ』とまでおっしゃっていただけて(笑)」
今も忘れられない阪神淡路大震災。あの経験は、私たちの原点。
――先ほど、オープン時に宣伝などが一切出来なかったとおっしゃいましたが。
「はい。ただ、『お風呂がいいぞ』『水がやわらかくて気持ちいいぞ』なんて口コミなどで評判を広めていただいて、お客さまがどんどん増えて。リピーターというか、常連さんというか……皆さん、毎日のように来て下さるようになりました」
――そんな中で、1995(平成7)年の1月17日に阪神淡路大震災が。
「そうですね。30余年の歴史の中で、あの震災はやはり一番大きな出来事だったと思いますし、忘れられない記憶です。
館内のすべてのものが、もうぐちゃぐちゃになりましたし、タンクも屋上から墜落したり、ボイラーや配管などにも損傷が……。ただ、建物じたいと泉源や水源の井戸はなんとか無事だったんです」
――もともと立体駐車場だったから、躯体も……。
「頑丈だったのかもしれませんね。また、このあたりが強固な地盤だったこともあって被害が最小限だったようなんです。この建物のすぐそばに加納町という交差点があるんですが、そこから西側のエリアは、ほとんどの建物がもっと大きな被害を受けていました。三宮の『神戸サウナ』(※現在の「神戸サウナ&スパ」)さんも、取り壊さざるを得ないほどの被害に遭われましたし」
――そうなんですね。
「なんとか水もお風呂も使えそうだということで、大急ぎで水質、泉質の検査をしまして。10日後には水汲み場を復旧させて市民の皆さんに開放し、1カ月後の2月中旬にはお風呂だけ再開して、皆さんに無料でご入浴いただきました。
このあたり一帯では電気とガスは比較的、早い時期に復旧しましたが、水道(が復旧するのに)は、かなり時間がかかりましたから。真冬の寒い季節でもあったので、なんとか地域の皆さんに温泉に入ってもらいたい。あたたまってもらいたい。お水も使っていただきたい、とスタッフ一同、その一心でした」
――水汲み場の飲料水もそうですが、お風呂は皆さん、ありがたかったのではないでしょうか。
「(一帯の)水道が復旧するまでの2週間近くの間だったんですが、2万人以上の方に入浴していただけました。被災後初の入浴だった方もいらっしゃって。お風呂から出られて1階まで降りてこられた時のホッとされたような表情や笑顔、『ありがとう』『本当に気持ちよかった』といった言葉は今も忘れられません。
それ以降、今に至るまでの、神戸クアハウスの原点だと思えるくらい、心に残っています。
その後あらためて徹底的に点検して修繕をし直しまして。その年の夏に、料金を半額ほどの500円にして、お風呂だけ再オープンすることができました。サウナなどはもうちょっと時間がかかってしまったんですが」
――地域とともに、市民とともに。出来ることから。
「そうですね。何次かに分けて補修や改装をしました。もちろん神戸市や関係する役所の方々のお力もお借りしながらですが、出来ることでお役に立ちたい、と。震災直後の無料でのご入浴の時は、この建物でお医者さんに、地域の皆さんの健康チェックなどもしていただきましたね」
実は、カプセルホテルを始めたきっかけも……!
――その後、サウナも含めて、震災以前の形に復旧されたのは……?
「その年の暮れだったと記憶しています。いろいろな損傷を修繕するのにほぼ1年かかりました。その一方で、街全体の復興のために、全国から建設関係の方をはじめ多くの人たちが神戸に来てくださったんですが……」
――はい。
「その方たちが泊まるところがなかったんです。ホテルや旅館なども被災されたところもあって、神戸全体の宿泊機能がぜんぜん追いつかない。足りないと……。それを聞いた社長が『だったら、カプセルホテルをココ(神戸クアハウス)に作って泊まっていただこう』と。
その改装なども含めて、その年の暮れに、全館の営業を再出発しました。それまでは朝から夜の12時までの営業だったんですが、そこから24時間営業になったんです」
――そうなんですか! カプセルホテルを併設した背景にはそういう事情があったんですね。神戸クアハウスじたいも被災されたのに。いま、胸の奥と目頭がちょっとアツくなりました。神戸クアハウスの、やさしさ、あたたかさの秘密に、また少し近づいた、触れた気がします。
坂本順子さん(神戸クアハウス 支配人代行)
1991(平成3)年のオープン当初より、経理や事務などを担当されてきた坂本さん。「数年後に社長から『支配人の業務をやってくれへんか』と言われてしまって(笑)」。以降、30年以上にわたって、利用客をもてなし、スタッフを見守り続けていらっしゃいます。
近日に更新する2回目のインタビュー記事=<後編>でも、サウナ室や水風呂のアップデートの歴史などを中心に、さらに神戸クアハウスの魅力を深掘りしていきたいと思います。
なお、冒頭に記した通り、現在発売中の「SAUNA BROS.vol.7」でも、たくさんの写真とともに同館の魅力を特集で掲載しています。そちらもぜひご覧ください。
神戸クアハウス
住所:兵庫県神戸市中央区二宮町3-10-15
営業時間:年中無休、24時間営業(※深3:00〜前6:00は清掃のため浴室利用不可)
料金:入湯料 [大人]1,100円 [小人]540円(4歳〜小学生) / 宿泊料 [スタンダードカプセル]4,000円〜 [デラックスカプセル]4,500円〜(ほかTVブース、仮眠室などあり。詳しくはHPをご参照ください)
撮影/長谷繁郎