東京・足立区西新井の街で、今年、一軒の老舗銭湯がリニューアルを果たしました。東武スカイツリー線の西新井駅から歩くこと約7~8分。路地を曲がって見えてきたのは昔ながらの宮造りの瓦屋根。だが、店の正面に立つと黒とオレンジ色を基調に仕上げられた美しく現代的なデザイン。実に洗練されています! 

そう、この「堀田湯」は、昔ながらの“味わい”と最新の設備やニーズが混在したハイブリッドな温浴施設として生まれ変わり、いまや東京はもちろんのこと、その評判を聞きつけたファンが全国からやってくるように。果たしてその実力は……? 暖簾をくぐってみましょう。

(現在発売中の「SAUNA BROS.vol.4」にも、さまざまな写真とともに堀田湯の記事を掲載しています。興味を持たれた方は、そちらもぜひご覧ください)

◆一度は決めた「閉業」から……すべては始まった

堀田湯は昭和17年(1942)の創業で、今年80周年を迎える老舗銭湯。リニューアルのきっかけは、「実は一度、閉業しようという話になった」ことだったそう。

「去年の春に父から『銭湯をやめようと思う』と聞かされたんですよね。『そうか…』と思ったんですが、そのときは正直『まぁ、仕方ないかな』っていう感想でした。設備もかなり古くなっていたし、もちろん時代的にも、皆さんそれぞれ家に風呂がありますからね」

宮造りの屋根同様、格子天井やロッカーなど、“ほっ”とする古き良きものはそのまま生かしてリニューアル

そう語ってくれたのは、改装を決意し、あらためて後を継がれた3代目の堀田和宣さん。西新井で育ち、学生時代に起業。現在も引き続き、株式会社グッドラック・コーポレーションの代表取締役社長も務めていらっしゃいます。

「そんな話をしたあと、ある日『久しぶりに俺も入ってみるか』と思ったんですよね。まぁ『なくなる前に、もう一度』みたいな気持ちでした。でも、そのときに、気持ちが変わったんです。周りを見渡してみると、確かに俺が子供だった頃よりお客さんは減ってたけど……皆さん、いい表情をされてたんです」

――いい表情、ですか?

「そう。安らいだ、どこかやさしい笑顔で……皆さん、いい表情なんですよ。僕はウエディングの仕事をずっとやってきたんですが、いちばん大事に考えてきたのが『皆さんを笑顔にすること』なんです。浴室でそんなことも考えていたら、結婚式で『一生に一度の笑顔』を見るのも楽しいけど、銭湯で『毎日一回の笑顔』を提供するのもいいな、って。こんな顔をしてもらえる風呂屋って、すごくいい仕事なんだよなってあらためて思ったんです」

屋号と語感も一致する「ほっ」の文字が暖簾をはじめさまざまなところに。ハイ、ほっとします

先代に「銭湯を続けよう、俺が継ぐから」と告げたのは、それから間もなくのことだったそうです。

◆残すべきもの、取り入れるもの

「やるからには、よいものを。そしてみんなが楽しめる施設にしていきたい」と考えた堀田さん。武器にしたいと思ったのは「サウナ」。

「僕自身も小さい頃から入っていて、その気持ち良さは体にも染み付いてましたからね。それに、今はブームということもあって、いいものを造れば遠くからでも人が来てくれる。『堀田湯』はもちろんだけど、『西新井』という街じたいも盛り上がるんじゃないか、と」

そうした思いを胸に、友人や知人にも声を掛け、協力を得ながら具体的なリニューアルの内容が見えてきたそう。軸の一つとして据えた「サウナ」については、やはり友人の一人である“ととのえ親方”ことTTNEの松尾大さんに監修を依頼。

「いろんなサウナをプロデュースされてるんですが、いわゆる『銭湯サウナ』のプロデュースはまだやったことがなく、声をかけたら、すぐに“面白そうだな”って店を見に来てくれたんです。それで、一緒に近所の街も歩いたりして」

はからずも、思いは一緒だったそう。歴史のある「残すべきところ」はそのままに、そこに「心地よさ」を大胆に取り入れる。そうして新たな堀田湯のグランドデザインが固まっていったそうです。

◆和の伝統とスタイリッシュさが両立! ハイブリッドな男湯のサ室

「外観も内装も、味わいのある宮造りの建物じたいは、何をもってもそのまま継承したいな、と。そのうえで、その雰囲気にきちんとマッチさせつつ最高の心地よさを提供できる、あのサウナ室のアイデアを出してくれた。いやぁ、最高だな、と。構想を聞いただけでワクワクしました」

それが、この「茶室」を彷彿とさせるサウナ室です。

和の雰囲気をしっかりとまといつつ、スタイリッシュです。銭湯のサウナとしてはもちろんのこと、いわゆるハイクラスな貸切施設でもお目にかかれない独創的なスタイル。「禅」なんていう言葉も、思わず頭の中に浮かんできますね。

外観もとてもクール。いったん浴室から外に出ると広がっている露天のスペースにこのサウナ室はあるのですが(画像の右側が浴室からの通路、中央の木の奥に見えるのがサウナ室の入口です)、日本の町家のようでもあり、広く取られた前面窓には格子が美しくしつらえられていて、それがまた実にいい感じなのです。

扉を閉じて中に入ると……これが、十分に熱く湿度もしっかりとある、実に快適な空間。奥を見やると、ストーブはフィンランド・HARVIA社製の実にパワフルなモデルがどーんと鎮座。そしてその上にはあまり見たことのないものが。

これはガラスのケトル? いや、この部屋の雰囲気からいくと“急須”という表現のほうがしっくりくるでしょうか。こんなの見たことありません。いいですねぇ……。

「ケトルでも急須でも、好きなようにとらえてください(笑)。湿度を保つためのオートロウリュの仕掛けも何か面白いものにしたいと思ってこのかたちにしたんです。視覚的なものだけじゃなく、中に“薬草”を浸した水を入れておけば、ロウリュの蒸気とともに香りなども拡散されていきますから」

1時間に2回。30分おき(=毎時00分と30分)にこの管から水が補給され、あふれた水が石の上に勢いよく零れ落ちる仕組み。香ばしい蒸気は一気に室内に広がり、体感温度もこれまた一気に高めてくれます。

このオートロウリュに加え、合間の15分と45分には店長やスタッフがやってきて、追加の“薬草アロマ水”でのロウリュもしてくれます。なんというか、その心配りもいいなぁ、と。オートメーションだけでなく、実際に室内に来て、その場の湿度を感じながら、“適量”を追加してくれるわけですから。

「いろいろとスタッフたちが試行錯誤しながら、少しでも快適なものを提供できれば、と工夫してくれています。まぁ、少し下町的な、やや豪快なかたちのロウリュですけどね。ネットなんかの書き込みでも“雑”って言われてたりも(笑)。『今日も“雑ロウリュ”が最高でした、あざす!』みたいに(笑)。まぁ、西新井っぽいな、と(笑)」

◆都内最深の水風呂に快適な外気浴エリアも

サウナ室を出ると、すぐ目の前に深さ160センチの都内では最深の水風呂が。やわらかでまろやかな水質の地下水が、チラーで約17℃に管理されて、なみなみとたたえられています。

全身のどこも曲げることなく水に包まれることの心地よさ。混んでいないときは周囲に十分配慮しつつ体を伸ばして浮かんでみたり……これもまた気持ちいいです! ちなみに、サウナ室からも格子越しにこの水風呂は見えます。自分の中での「よし、ここだ」というタイミングまでこの地下水を眺めながら座っている時間を想像してみてください。ほら、体験してみたくなりますよね。

リニューアル前から人気だった岩風呂を囲むかたちで広がる露天スペースには休憩用のイスも十分にスタンバイ。夜はご覧の通りの風景ですし、昼間なら木の枝、葉越しに空が広がっています。熱い→クールダウンのあと、ここに腰を下ろして静かに目を瞑れば……はい。控えめに言って最高です!

小さな商店街に面した街の中にあるので、人々のざわめきや雑踏の音、晩御飯どきなどには美味しそうな匂いなども漂ってきます。それもまた、なんかいいんですよね。

もう一つの水風呂もサイコーです

ジャーン。実は浴室に入ってすぐのところに、地下水を使った水風呂がもうひとつあります。こちらはかけ流しでチラーを通していないので、温度はぬるめ。夏には20℃台なのですが、とてもまろやかで優しい温度。個人的には、外の深い水風呂のあとにこの浴槽に入る「冷冷交代浴」が大好きです!

◆快適さを追求したフルリノベーション。こだわって残したのは?

銭湯ですから浴室も洗い場も超充実。というか、ここにも心配りやさまざまなアイデア、銭湯を訪れる人や地元へのメッセージが随所にあふれています。

浴槽の種類も電気風呂にジェットバス、熱湯とラインナップは十分。洗い場の通路も広めにとられていて、またどこを見ても実に清潔で、快適なことこの上なし。

浴室全体は、明るいというよりは少し光量が抑えられている気がします。これもプライベートを大切に尊重した気遣いなんじゃないかな、と。銭湯に初めて来たとか、あまり人に見られたくない……なんていう方にはありがたい配慮ですよね。

その分、各カランに備え付けられたライトが逆に明るめなのが、すごく使い勝手がいいんですよね。男性なら髭を剃るとき、女性も洗顔をされるときに、顔のすみずみまでが鏡ごしにはっきり分かるのもとても嬉しいです。

大き目のシャワーヘッドは水圧もちょうどよく、すっきりさっぱりしたあとにふと鏡を見ると、下の方に昔の銭湯(今も京都などではよく見かけますよね)を思い起こさせる「鏡広告」が。大企業のものもありますが、近くのお店のものも。「この街を、温める。」というコンセプトをここでも感じられて、ほっこり。

壁のペンキ絵も圧巻です。男湯は葛飾北斎の「櫻花に富士」、女湯は歌川広重の「千住大橋」。ともに改装前から堀田湯に集う人たちを迎え続けてきたもので、隅々まで新しく改修した浴室の中で、「これは本当に残したかった」(堀田さん)そうです。広々とした湯船に浸かりながら見上げると、心が安らいでいくのが自分でもわかります。

こちらが女性浴室のペンキ絵です!

浴室内の紹介の最後に、もうひとつだけ。

実は堀田湯には、ほかの施設ではあまり見かけない接客があります。人気のサウナ施設では、悲しいかな「入場制限」が付き物だったりしますが、先日、堀田湯さんではフロント前などでサウナ希望客(すみません、筆者です!)を待たせずに、まずは浴室に案内してくれました。

先に体を洗い、湯舟につかっていると「お待たせしました、〇〇番のお客様(←筆者です)、サウナへどうぞ」と、声掛けに来てくれるのです。ほどよく体も温まってきた頃合いにサウナに入れる……これは新しいな! と。ちょっとうれしかったので、その件もここでリポートさせてもらいますね!

◆女性用サウナ室では、あのウォーリュが楽しめる

実は、ここまでで記してきた“茶室のようなサウナ室”は男性浴室のもの。スペースの都合やサウナ利用客数のバランスなどにより女性浴室のサウナは構造や広さがちょっと異なっているので、ここからはそちらもご紹介しましょう。

女性のサウナ室も、浴室を一歩外に出たところにあります。

扉を開くと、2段の座面、そして最奥部に設置された遠赤外線のヒーターが目に入ります。座ってみると……ほどよい熱さと湿度が体を包んでくれます。

ん? 目の前の壁に、大きな木の板が。実はこれ、高級ウイスキーの樽などに使われるミズナラという木材の一枚板。樽に使われるのは、とても良い香りを放つからでもあるのですが(ウイスキーへの香りづけ用ですね)、その名の通り、ミズナラは水分を多く含む広葉樹のため、水に強いという性質も持っているそうです。

なんと、この壁にバシャッと水をかけることができます!

ほのかにたちのぼる香り。いいですねぇ…。湿度がしっかり感じられるのも、この効果もあるのでしょう。これ、北海道の名施設「北海道ホテル」のサウナ室などでも有名な、壁(ウォール)にロウリュする“ウォーリュ”というやつですね。

スペースが男性サウナ室に比べてどうしても小さくなってしまった女性用のサウナ室ですが、こんな仕掛けが用意されています。女性愛好家の皆さん、ぜひ試してみてください! 東京で「ウォーリュ」ができるのは、ここだけですよ!!

女性側にもサウナ室を出てすぐのところに男性用と同じく2種の温度の水風呂が。深さは90センチと、こちらも全身ゆったりクールダウンできます。そして、外から見えないようしっかり壁に覆われながらも天井部分が吹き抜けで、外気が入るようになっているととのいスペースも。なお、この露天部分には、男湯にはない薬湯(ミルク風呂)もあります!

◆次はどんなサービス、進化が…? 堀田湯から目が離せません

改装後のオープンから評判を呼び、多くの愛好家たちが日々訪れている堀田湯ですが、その後も利用客の様子を見て、アップデートは続いています。もちろん大規模なリニューアルだったため、そのアップデートは設備の改装といったハード面ではなく、主に店頭での接客などのソフト面なのですが。先ほど触れたフロントでの入場制限ではなく、浴室を楽しみながらのサウナ待ちの試みなどですね。

また、この8月には「おやこ銭湯」という企画も実施。土曜日などに、産後ドゥーラの資格を持つスタッフが待機し、0歳6カ月~3歳までのお子さんを預かったり、着替えを手伝うなどのママさん・パパさんがゆっくりと入浴やサウナを楽しめる時間を提供しています。これからも折に触れて開催していく予定だとか。

古き良きものはしっかりと残し、継承しつつ、快適さを追求した独創的な仕掛け。そしてさらに、そうしたハードに頼らず、“人力”での進化も続ける。これからも堀田湯からは目が離せなさそうです。

「この街を、温める。」のコンセプトとともに、さらなる進化を見せてくれそうです

ちなみに……東武スカイツリー線の路線図を見ると、3駅先に草加駅、逆方向をたどれば、東京メトロの半蔵門線・錦糸町駅にも直通しています。全国のサウナ愛好家に知られる名施設とのアクセスも良好なので、(西新井をはじめ東京の人々はもちろんですが)休日に東京に来る機会のある全国のサウナ好きの皆さん、もし機会があればぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?

【堀田湯】
住所:東京都足立区関原3-20-14
営業時間:平日=後2:00~深0:00/土日祝=前8:00~深0:00
定休日:毎月第2木曜
料金:大人入浴料500円+サウナ料金(男性400円、女性300円)

撮影=岡本武志