建築家が手掛ける、進化系サウナ「CYCL」。細部のこだわりとは

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「黙浴」ではなく、「会話を楽しむサウナ」

ーー「CYCL」のコンセプトとして、「社交場としてのサウナ」ということがあるとお伺いしました。それも西口さんがフィンランドの『Kaupinojan Sauna(カウピンオヤサウナ)』でインスパイヤされた、大きな要素の一つなんですよね。

「そうですね。セルフロウリュできるサウナストーブを囲みながら、和気あいあいとおしゃべりしながらサウナを楽しんでもらいたい。この構図は、初めの段階から決めていました」

――入ってみると、確かに真ん中にストーブを囲んで会話はできるのですが。広いためパーソナルスペースはちゃんと保たれる上で会話ができる、という絶妙な距離感がとても心地よかったです!

「2階の展望ラウンジの中心にある構造体の下のマグマ溜まりがサウナスペースになっているので、サウナ室も絶妙な多角形となっていて。単純な四角で囲まれているスペースではないので、がっつり対面になるというよりは、角度が少しずつずれていき、それがいいパーソナルスペースを生み出しているのかと思います。やっぱり他人同士がいきなり近い距離で話すのは、日本人的にはやや抵抗がある。それもふまえてここはあえて、こういった設計にしました」

――サウナ室のほの暗さも、すごくよかったです。これってサウナにおいて本当に重要な要素のような気がしていて。同じ景色でも、同じ香りでも、照明の明るさ加減で、サウナにおける体感の違いって少なからずありますよね。

「そうですね。『CYCL』は男女混浴施設なので、知らない人同士が水着で隣り合わせになることにも、それなりに抵抗もありますよね。だからこそ、サウナ室内のほの暗さもちゃんと計算されており、顔やボディラインがほぼ見えないように考えています。男女が一緒にサウナに入れるのは、例えば山中湖にカップルで訪れたときに一緒に入れるという利点もあるかなという意味で採用しています」

――サウナ室が広いのも、とてもいいです。

「更衣室をはじめとし、シャワールームから水風呂への導線はすごくコンパクトにしているのですが、そのぶんサウナ室を広く作りました。本当は、炭酸泉をおきたかったですが、サウナ室の広さを優先したため残念ながら叶わず……」

――サウナでいろいろな場所に座ってみるのが好きなのですが、座る場所で体感温度が違う気がして、それもすごく楽しかったです。

「吸気口と排気口の位置で空気の流れができており、それによる温度差も計算しています。一番温度が熱いのが、入って右奥の2段目。そこに吸気口があるので一番空気が回りやすくて体感が熱くなるかと思います。また、天井の形状が不規則であるため、座る場所によって体感温度が変化する。自分のお気に入りの場所を見つけてみてください」

――しかも、ゆったり座れるのが最高です!

「格段の奥行きをしっかりともたせ、ある程度の座面の幅を確保するということは、川浪さんがこだわった部分でもあります。広いため3段の設計もできたのですが、ゆったり座ることができるために、2段の設計にしています」

――いろいろなところに、細かいこだわりがあるのですね。よくある注意事項の貼り紙も一つもないし、細かいこだわりをふんだんに享受しながら、心地いいサウナ体験ができそうです。

「もうとことん、フィンランドの文化に近づけてしまおうということで『会話を楽しんでください』と宣言しています。ここについてはいろいろなご意見を頂戴しますが、日本人だからこそ節度をもってサウナを楽しめるはず。お客様同士に自然発生的に交流が生まれるのも、なんだかいいですよね。サウナ好きの交流の場として、ここでの出会いがあったり。そういうことが起これば、うれしいなと思います」

――そしてなんといっても、サウナ室の香りや温度設定が、絶妙でした。 

「高すぎず低すぎない、85〜90度の間に設定しています。それでも割と体感は熱く感じていただけるのは、サウナ室を構成しているヒバの木が呼吸しているからだと思います。木が水を含むので、多湿な状態を保つんです。完成して引き渡されたときは全然木が水を含んでおらず湿度が低めでカラカラだったんですけど、人が利用するたびにヒバが呼吸して、どんどん育っている感じがしますね。そのために、自然なヒバの心地いい香りがするのだと思います。吸気口と排気口を対角線上に設けることで外の空気がたくさん入り循環しているので、長く入っていても苦しくなりづらく、通常のセッティングのサウナよりもじっくりと入っていられるという人が多いようです。芯まで体がじんわりと温められるからこそ、水風呂をさらに気持ちよく感じられるのだと思います」

水風呂で、富士山の恵みを全身に感じる

――水風呂は、チラーをいれてないんですよね。でもちゃんとしっかり冷たくて、とても気持ちよかったです。

「富士山の天然水で、やわらかいと評判です。大体12、13℃に保たれています。普通その温度だとヒリヒリとした痛さを感じるのかと思いますが、天然水だからそれはない。痛さを感じずに、ちゃんとひんやり、冷たいです」

――あと、水風呂が男女別で別れているのも配慮を感じました。

「1階のスペースはかなりコンパクトなので、当初は水風呂も男女混浴の設計にしていたのですが……。妻にヒアリングしたら『知らないおじさんと一緒に水風呂とか入りたくない』と言われてしまって(笑)。妻はサウナーではないのですが、だからこそ、こういった意見は大切だと思って。採用にいたったというわけです」

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