リサーチをはじめて2日目。運命の出合いが
―― そうして、一からのサウナ作りがスタートするというわけですね。まずは場所探しからになるかと思うのですが、富士五湖にしぼって探されたのでしょうか。
「リサーチ1日目は、廃墟になってしまった旅館などを中心に探していました。そしてなんとリサーチ2日目に、この場所に出合ったんです。ここは『the 508』というキャンプサイトの一角で、もともとはグランピング施設があったのですが、それをいったん取り壊す計画をしていて、ちょうど空くタイミングでした。『the 508』のオーナーと須山さんが知り合いで、すぐにコンタクトを取ることができて。オーナーさんに僕たちの思いを伝えたら、『ちょうどサウナを作りたいと思っていた』と、二つ返事でその場でサウナにすることが決まりました。それが、2年半前のことでした」
―― いろいろな縁を引き寄せて、トントン拍子に決まったんですね。すごいです。「CYCL」は作るべくして作られた、という感じですね。
「ここまではスムーズだったのですが、ここからがいばらの道でした(笑)。なんせ、完成までに2年半の月日がかかったわけですから。各段階で許認可を取るのに、苦労の連続。そもそもこの場所は国立公園内で、環境省による自然公園法に基づく厳しい環境基準が設けられています。例えば、施設の大きさ・高さ・色などが自然環境に馴染む前提でないといけない。何度も建築デザインを構築し直しました。スターウォーズに出てきそうな多角形のデザインを考えたこともありましたが、認められなくて。またリセットして、振り出しに戻る……その繰り返しでしたね」
試行錯誤の末、辿り着く。自然に溶け込むサウナ
―― 何度も試行錯誤を繰り返し、いまの形になったのですね。
「はい。やっとです。『CYCL』の建築デザインは、冠雪した富士山を建築の中心に見立てた独創的な建築設計となっています。ここ山中湖では日常的に富士山を目にすることから、地元の人が富士山にかかる笠雲の形状を見て天気を予測してきたという文化もあったようです。そういったこともあり、富士山にかかる笠雲に注目。建物の中心となる構造物を、浮遊する『笠雲』のようなデザインにしました。絶対に賞をとる、という気概で作った、自信作です」
――2階の展望ラウンジは、圧巻ですよね。初見の際は、思わず歓声が上がりました。
「環境省の管理下にある土地ということもあり、あまりサイズが大きすぎる建物は建てられなかったので、コンパクトにしつつもスケールが大きい眺望を確保するのには苦労しました。サウナスペースである1階は窓がなく、ギュッとしたスペースにはなってしまっていますが、2階は全面360度ガラス張りにすることで、コンパクトさを感じさせないような設計に工夫をしました」
――なるほど、コンパクトにしなくてはいけないという規制があったんですね。確かに、1階のサウナスペースは、サウナを広く取りつつも、かなり導線がコンパクトになっているなと感じました。全ての段取りがクイックで、心地よかったですけれど。
「サウナでは、五感が研ぎ澄まされます。だからこそ、アイコンである展望スペースの建築デザインだけにとどまらず、細かい部分にいたるまで五感に気持ちよく働きかけるような設計にしました」
フィンランドのサウナに魅せられたオーナー・西口さんが、東京から好アクセスの大自然の中に作った「CYCL」。「CYCL」=循環というその名の通り、人と人との循環の化学反応が巻き起こったからこそ完成にいたった、努力の結晶がここにあります。今回の記事では立ち上げの部分にフォーカスして紹介しましたが、完成した「CYCL」では、実際にどんなサウナ体験ができるのか。気になるサウナスペースへのこだわりについてなど、次の記事でたっぷりとご紹介します。
CYCL
■住所:山梨県南都留郡山中湖村平野479-107
■営業時間:日〜木曜=前10:00〜後7:00 金・土曜=前10:00〜後9:30/定休=水曜
※夏季など営業時間が変更になる場合あり
■料金:2.5時間=3,960円(※以降は30分延長ごとに+770円)※料金にはタオルセットと展望ラウンジ内でのフリードリンク・スイーツが含まれます
※その他の情報は公式Instagram(@cycl_sauna)と公式HPをご確認ください
撮影/岡本武志
取材・文/松崎愛香