「The Sauna」で「僕はサウナが好きだ」と確信した
―― どんなサウナへ行かれましたか?
「興味を持ったサウナがフィンランドサウナだったので、野田クラクションベベーさんにコンタクトをとり、まず野尻湖にある『The Sauna』を訪れました。すごくいいサウナ体験でした。サウナに対してニュートラルな感覚しかもっていなかったですが、いわゆる『ととのう』ということをはじめて体験できました。野田さんには『CYCL』の立ち上げに際してもいろいろ相談に乗ってもらいました」
―― すごい。もう既に「サウナを作る」という発想にシフトしていたんですね。
「そうですね。『The Sauna』でのサウナ体験で、『あ、僕、サウナが好きだ』と確信しました。それからは、どんな場所に作るか、どんなサウナを作るか……。そんなことをぐるぐると考える日々でした。そして一番重要なのが、『誰とサウナを作るか』ということでした。僕1人の力ではもちろんできないし、作るといってもどこかの内装屋さんに急にオーダーしてできるものでもない。それまでは飲食業界のノウハウしかなかったので、きちんと構想を練る必要がありました」
―― ちなみに、「The Sauna」以外にもいろいろなサウナ施設へ行かれましたか? 例えば、銭湯サウナとか。
「もちろん、いろいろ行きました。僕は大阪の人間なのですが、東京出張の際は必ず『黄金湯』へ行きますね。大阪には、まだそこまでモダンに改装された銭湯サウナがないんですよね。最近は、『サウナ東京』へ行ってみたいです。どこかおすすめのサウナがあれば、教えてもらいたいです」
サウナを作りたい。問題は「誰と組むか」
―― (サウナ談義に散々花が咲いた後……)すみません! 本題に戻ります(笑)。確かに、「誰とやるか」はサウナを作るにあたり重要ですよね。どんなふうに、西口さんは人脈探しをしたのですか?
「先述したように僕はキャンプが好きで、その繋がりで知り合いだった横浜のキャンプをコンセプトとしたカフェ『TARP to TARP』のオーナーの須山友之氏に、『一緒にやらないか』と、まずはアプローチしました。彼とはそれまでもビジネスでもご一緒したことがあり、インフルエンス力もあるので、適任だと思いました。と同時に、クリエイティブディレクターである川浪寛朗氏にもアプローチ。彼もキャンプ好きで、彼のデザインするミニマルなキャンプグッズに、僕は惚れ込んでいたんですよね。須山さんと川浪さんも既に一緒にビジネスをしている仲間ということもあり、一緒に組みたいと思いました。普遍的なデザインを世の中に提案できる彼と組んだら、継続的な施設ができるんじゃないかと思って」
―― ということは、西口さん、須山さん、川浪さんの3名で「CYCL」はスタートしたのですね。
「僕だけでなく、彼らもサウナでリフレッシュして救われた経験をもっていたようで、僕の提案に二つ返事でのってくれました。後日その頃の話をすると、サウナへの恩返しじゃないですけど、サウナで人を救えたら、という思いがあったと聞きました。それぞれにサウナへの思いがあって、僕が声をかけたときには、みんな準備ができていたという状況で。すぐに、サウナを作ろう!となったんです」
人が人を呼び、「CYCL」の輪が広がった
―― 「CYCL」といえば、まずこの素敵な建築が目をひきます。建築家である百枝優さんにオファーされた経緯などをお聞かせください。
「百枝さんは、川浪さんの学生時代のルームメイトだった方。お二人はお互いが認め合うデザイナーであり、建築士です。お互いリスペクトし合っているという関係性だったので、頼むなら彼しかいないという感じでした。百枝さんにオファーしたら、すぐに引き受けていただけて」
―― 百枝さんの実績を拝見すると、礼拝堂や葬祭場などのパブリックな施設、店舗や宿泊施設などの商業空間が多いようですね。サウナを作るのは「CYCL」がはじめてだったのですか?
「僕らは全員、サウナ施設を作るのがはじめてでした。でも、互いの実績を集結したら絶対いいものができる。そんな確信があったんです」
―― 場所は富士山の湖畔というのも、はじめからの構想だったのですか?
「最初から構想にありました。僕が最初に『CYCL』プロジェクトをはじめたときに作ったA4の超簡素なコンセプトシートにも、富士五湖を場所の第1候補として記載しています」
―― 湖は日本にたくさんありますが、なぜ富士五湖だったのですか?
「東京から2時間圏内であるアクセスに、ビジネスとしての可能性を感じました。あとはやっぱり、大きい湖畔が目の前にある立地である必要がありました」
―― 『マグ万平ののちほどサウナで』で見た「カウピンオヤサウナ」に惚れたのがきっかけですもんね。目の前に大きい湖畔が広がるというのは、外せない条件だったのですね。
「ただ、現状では水風呂代わりに山中湖に“ドボン”が、できないんですよね。法的な整備がまだなされていなくて……。“ドボン”ができるのが理想なのですが、なかなか厳しい部分もあり、まだそこまではいたっていなくて。条例が緩和され、いろいろな問題がクリアできれば『山中湖に“ドボン”』も、夢ではないかも。ただ、温度的にはとくに夏場はそこまで下がらないかもしれないですが……。このあたりは、これからの課題ですね」
―― ちなみに『CYCL』という名前にはどんな意味が込められているのでしょう。
「『CYCL=cycle』。さまざまな『循環』の意味が込められています。サウナで蒸されてから水風呂でクールダウンし、外気浴で休む……。これも、私たちサウナ好きが好む循環のひとつです。そして『CYCL』は、人と人の繋がり=輪により生まれたものでもあります。そういった意味も込められています」