薪ストーブは、たしかに時間も人手もかかる。でもそれは決して“手間”ではない
――最もこだわっているものが薪ストーブ。アタギさん、そして、毎日サウナが薪ストーブにこだわる理由を教えてください。
「それもいろいろあるんですが、あえて一言でいうと、やはり電気やガスを用いたサウナストーブが多い中で、薪ストーブや薪サウナ室って『非日常な体験』なんですよね。炎を燃やすって、町では普通は出来ないじゃないですか。それが室内で、サウナで楽しめる。それが何よりの魅力じゃないかと思います」
――はい。
「炎を見つめているときの時間であったり、炎や薪が爆ぜる音、それから香りであったり。石や空気を通して伝わってくる熱のやわらかさも含めて、味覚以外の五感すべてで味わう『非日常』。それを、町の中で、それもこの2号店でいえば、東京都内で体感していただける。この少し贅沢な体験を、僕らとしてはやっぱり大事にしたいし、味わっていただきたいなと」
――今日も、開店前のかなり早い時間から火を入れて、時間をかけてしっかりゆっくり丁寧に温度をあげていられるのが印象的でした。
「もちろん強い火力で一気に温度をあげることもできるんですが……それはしていません。いったん(温度が)上がったあとも、薪を新たにくべたり、ずっと手をかけて炎を調整し続けますし。くべていく薪じたいも、太さも違えば、重さも形も違うから、それこそ瞬間瞬間で炎や揺らめきが、形も大きさも変わってくるんです。
それらがすべて、リラックス効果だったりにつながってくる。
だから薪ストーブを使うことって、簡単でも楽でもないし、厄介といえば厄介ですけど(笑)、でもそれは僕らにとっては決して“手間”ではないんです。むしろ、その“手間”にも思える行為や時間があるからこそ、お客さんにも満足してもらえていると思うんですよ」
ストーブの窓のヒミツ、そして“炎がよく見えますよ席”。満足度は細部に宿る
――ストーブの前に小さなイスを置かれています。先日、サウナ室に入ったとき、たまたま左右のベンチのひな壇が満席で、あのイスに座ったら……めちゃくちゃ炎がよく見えて。思わず見惚れました(笑)。
「ですよね。あのイスはそういう狙いです。“炎がよく見えますよ席”なんですよ(笑)。左右からだと、どうしてもじっくりは見えませんけど、あそこだと炎の形が、それこそ頂点まで全部見えるので。特等席のひとつです」
――ですね。高さのある位置へ行けばアツさを楽しめるし、あのイス席では炎を目で愛でることができる。いろんな楽しみ方ができるサウナ室です。
「サウナストーブは前橋本店でもお世話になったケンズメタルワークさんに引き続き特注でつくっていただきました。おそらく(熱の)出力的には日本でいちばん大きいレベルなんですが、今回、さらに特別にオーダーした部分があって。
あの炎の見える“窓”を……もともと大きかったものをさらに広くしてもらったんです。タテに6センチくらい広げてもらいました。普通のものだと、炎が7分目くらいまでしか見えないんですけど、このストーブではフルで見えるんです」
――そうなんですか! こだわっていますね。そんな、気づくか気づかないか分からないところまで……。そのお話、聞けて良かったです(笑)。
「なんとなくでもいいので……伝わるといいなって思いながらね、やっているんです(笑)。でも、本当にそういう小さなことのひとつひとつが、満足度につながっていくと思うんですよね」