SAUNA BROS.vol.7の「京都銭湯サウナ特集」から、今回は「山城温泉」をクローズアップしてご紹介いたします。気さくな店主さんとのインタビューは、こぼれ話満載でした! 本誌では掲載しきれなかった魅力を2回に分けてご紹介いたします。
北野天満宮から500メートル、話題の銭湯「山城温泉」
「山城温泉」さんは、テレビ番組に取り上げられたこともあります。その番組は、視聴者の悩みや解決して欲しいことに対して、番組のタレントが出張して解決するというものなのですが、その時の悩みが、「冷たすぎる水風呂があって、その水風呂に1分間肩まで浸かりたい」というものでした。「どこのサウナ施設のことかな」と見ていると、なんと京都の銭湯「山城温泉」さんでした。テレビ番組に相談する程に「山城温泉」さんの水風呂は冷たいんです。
「山城温泉」さんがあるのは、京都府上京区。500m程北上すると、全国の天満宮・天神社の総本社である北野天満宮があり、多くの観光客が押し寄せる賑やかな観光名所ですが、「山城温泉」さんのあるエリアは、住宅と商店などが混在する閑静な場所。
「山城温泉」さんは、昭和24年頃に創業した老舗の銭湯で、現在は2代目店主の林大輔さんが経営をされています。林さんは22歳の時に脱サラし「山城温泉」を引き継ぎました。当時、後継者がおらず閉業寸前に陥っていた「山城温泉」のことを林さんのお父様が耳にし「お前、山城温泉やってみぃひんか?」と息子の林さんに声をかけたことが、すべての始まりでした。
林さんが引き継いでから24年が経ちましたが、外観や内装は大きく変わっていません。しかし、サウナ好きを集める現在のサウナ室や冷たすぎる水風呂は、林さんが時間をかけて今の形へと変えていきました。林さんが継ぐまでのストーリー、それは次回ご紹介したいと思います。
高温度、高湿度に汗が止まらない
まずは「山城温泉」さんの雰囲気をご紹介します。
長方形の敷地の真ん中を男女の仕切りが通っています。そのため男女の広さは同じです。
「山城温泉」さんは、内湯と水風呂、そしてサウナ室がそれぞれ完全に分けられています。内湯を抜けると、露天エリアに水風呂が、突き当たりの1番奥にサウナ室があります。
本誌でも紹介しましたが、「山城温泉」さんのサウナ室に入ると、かなりの熱と高めの湿度を感じます。設定温度は110度、温度計では115度近くを指していて、本来であればかなり熱い……はずなんですが、高い湿度のため肌に潤いがあり、ヒリつく感じはまったくしません。身体の周りに湿度の層をまとっている感じと言いましょうか。その層のお陰で全然肌への負担が少ない。でも数分で滝のように汗が出てきます。
たくさんの炭が熱せられると、遠赤外線を大量に発します。遠赤外線は吸収した物体を加熱する性質があり、身体が吸収すると、発汗や血液、体液の循環を活発にします。また浸透力が強く、身体の内部にまで加温してくれる。このため身体の芯から温められているわけです。この遠赤効果も手伝って、汗がたくさん出てくるわけですね。
足元を見ると丸太が置いてあります。丸太の上に足を乗せるとちょうど土踏まずにハマる感じが気持ち良いんですよ。丸太を置いていことが、「山城温泉」さんのサウナ室の肝であり、上述の湿度の高いサウナ室に繋がっています。
「汗が落ちたりして、床って汚れるじゃないですか。ほかのところではすのこを敷いて、汗でべちゃべちゃにならないようにしているところもありますけど、うちでは床の汗や水を流す目的で、定期的に床や丸太をお湯で流すんです。すのこを敷けばいいじゃないかって思うかもしれませんが、すのこって毎回もち上げて洗うのって大変なんですよ(笑)。それやったら始めから(すのこが)ない方がいいんです! お湯で流すだけなら営業時間中でもキレイに出来ますしね。そのお湯が、湿度を生んでいます」
今では常連さんたちも、桶を使って足元をお湯で流すようになり、キレイな空間作りの一端を担っています!
すごく冷たいシングル水風呂
そして「山城温泉」さんを語る上で欠かせない水風呂ですが、すごく冷たいんです。それもそのはず、水温はシングル(温度が1桁のこと)。京都の銭湯で1年を通してシングルの水風呂を保っているのは「山城温泉」さんの他に聞いたことがありません。
「水風呂の温度は、僕がちょこっとずつ温度下げていった記憶がありますね(笑)。理由ですか? だって回転率が良いじゃないですか(笑)」
と、まぁ豪快に笑いながら話す林さん。林さんが引き継ぐ以前からチラー機を入れ、ほかのところよりは低い設定温度だったようですが、そこから少しずつ、林さんがお客さんの反応を見ながら、温度を下げていったようです。
林さんの提供する供給と、お客さんの需要がうまくマッチしていったんですね。
「近所の銭湯さんが、おんなじ様に水風呂冷たくしはった時があったんですけど、常連さんから大クレームがあったらしいんですよ。『なんでこんなに冷たくするんや!』『俺たち入れへんやんけ!』って。それで元に戻しはったみたいです」
お話を伺い、常連さんを多数抱える老舗の銭湯がシングルの水風呂を持つということは、本当に難しいことなんだなと実感しました。そうですよね、常連さんの多くは長く通った高齢の方が多いでしょうし、身体がびっくりするような冷たい温度は普通は敬遠しそうなもの。「山城温泉」さんでシングルの水風呂が作りだせたのは、先代がチラー機を入れて、昔から他の銭湯よりも冷たい水風呂を作っていたという背景が大きいのかもしれません。元々、冷たい水風呂に耐性のある常連客だったからこそ、徐々に温度が下がっていっても受け入れられる特性(シングル好きという)だったんでしょう。
その冷たい水風呂に入ると、サウナ室で火照った身体がすぐに冷たくなります! 「あ〜気持ち良い〜」とか言ってる間、いや……言い終える前に、身体が冷たいことを思い出したように凍えだし、四肢がジンジンとしてくる。時折、「お、あの人めっちゃ長く入ってるな」という強者を見かけますが、やはり冷たいのは皆同じようで、水風呂から出てくる時は、誰もが急ぎ足です(笑)。仕方ないことで、実は人間の身体は17度以下の温度刺激に対して「冷痛覚」として痛みを感じてしまうものなんです。なので、冒頭で番組に悩み相談された方のように、長く入れないのが当たり前。それがシングル水風呂なんです。ですが、その痛みもまたシングルの醍醐味! 瞬間的に冷やすことで得られる快感が待っています。
シングル後の外気浴の特別感
シングルの水風呂に入ったあとの外気浴は本当に気持ちいい(筆者も大好きです)。キリッとした爽快感はもちろんなんですが、ジワジワ〜とじっくり身体に血が巡る感じ。意識がぼんやりする感覚……たまりません。実際、この気持ち良さは血流に関係があるようです。前述の通り、シングルの水風呂には長く入ることができません。なのですぐに水風呂から上がることになる。すると冷えているのは身体の表面だけで、身体の芯はまだ温かいという状態に。この「身体の表面だけ冷たい状態」というのが、血流量の増大に繋がり、シングル後特有の気持ちよさを生んでいるようです。
目を瞑って休憩しジワジワ〜と血が巡る感じは、間違いのない気持ちよさ。シングルに入ったことのない方は、一度入ってその感覚を味わってみるのもいいかもしれません。無理は禁物ですが虜になるかもしれません。
次回はシングル水風呂の秘密や「山城温泉」さんが目指す「日本一キレイな銭湯」についてご紹介したいと思います。
現在発売中のSAUNA BROS. vol.7では、さらに多彩な写真とともに「山城温泉」の魅力を特集しています。是非そちらも併せてご覧ください!
山城温泉
■住所:京都府京都市上京区仁和寺街道御前西入下横町218
■営業:平日=後3:00〜前1:00(日曜=前8:00〜前1:00)
■定休:木曜
■料金:490円(サウナ込み)
「SAUNA BROS.vol.7」
■発売日:2023年12月13日(水) ※一部、発売日が異なる地域がございます
■定価:1,137円
SAUNA BROS.STORE(https://saunabros.stores.jp)でも販売中! 全国の書店、ネット書店(honto:https://honto.jp/netstore/pd-book_32948979.html)などでも購入できます。
撮影/長谷繁郎
取材・文/鈴木健介