ご近所にあったり、料金もお手頃だったりと、私たちの暮らしにとても身近な「銭湯サウナ」。その魅力を深掘りしていく特集シリーズ「GO!_1010-37(GO! 銭湯サウナ)」は、雑誌として発売している「SAUNA BROS.」と、当サイト「SAUNA BROS.WEB」の両方で横断的に掲載しています。
今回も、東京にある3軒の施設を訪ねました。いずれもそれぞれリニューアルオープンしたばかりで、なおかつ、サウナ好きから注目と支持を集めている銭湯サウナです。現在発売中の「SAUNA BROS.vol.6」でもたくさんの写真とともに掲載していますので、この記事をご覧になり興味を持たれた方がいたら、ぜひそちらもチェックしてみてください!
“気持ち良い”の“その先”……人々が出会い、集い合う場。街の「ハブ」に!!
~狛江市「狛江湯」~
小田急線の狛江駅から徒歩わずか2〜3分。それまで中野区・東中野で銭湯を営んでいた初代が、昭和29年(1954)にこの地に移ってきたそうです。建てられた当初は、屋根は宮造り。狛江市内では最初の、いや、成城学園前駅(世田谷区)から登戸駅間(神奈川県川崎市多摩区)という沿線の広いエリアでも唯一の銭湯だったとか。
当時はまだまだ今ほど家風呂が普及していなかった時代。東京の銭湯組合では開発が進み、人口も増えてきたこのエリアで銭湯を営んでくれる人を探していたそうです。街の人たちにとっても、きっと本当にうれしかったんじゃないでしょうか。
その後、平成4年(1992)に、設備の老朽化に伴いビル型の銭湯に大改装。銭湯は約30年ごとに配管などの設備を一新されることが多いのですが、ちょうどそんな“中普請(なかぶしん)”のタイミングにあたったこともあって、今年、大きなリニューアルを敢行されました。
衝撃のサウナ室&水風呂&ととのいスペースが爆誕!
「今回のリニューアルにあたっては、もちろん設備を直した上で、お客さんにとって、より気持ち良くしたいということを大前提として考えました。だからサウナ室や水風呂、それと浴室内で休憩できるスペースをアップデートしたり、炭酸泉の浴槽を新たに造ったりということは、まずやりたいと思っていたんです」
そうお話ししてくれたのは3代目のご店主、西川隆一さん。
その言葉通り、まずはサウナ室がドドーンと改装というか大きく“拡張”されました。以前はL字型で2段の座面、5〜6人も入ればいっぱいだったサウナ室が、圧巻の広さに生まれ変わりました。男湯女湯ともに3段の広々としたベンチ(※女湯はややコンパクトですが)。そして20分おきにたっぷりの水が降り注ぐ、SAWOの大きなストーブが鎮座しています。
名水の地として知られ、リニューアル以前もそのまろやかな水質が人気だった水風呂も、さらにパワーアップ。以前は地下水をかけ流しで使用していたのを、チラーにより水温を約14〜15℃前後に設定。柔らかさに清冽さがさらに加わり、サイコーの水風呂に!
休憩用のイスが並んだ“ととのいスペース”もご覧の通り!(※写真は男湯のもの)。注目ポイントは、座るとどこかから吹いてくるやさしい風の存在です。
「おや?」と思って視線をあげると、なんとイスの数と同じだけ、天井に送風ダクトが!!
絶妙な「壁」が設けられていて、浴室の洗い場などと空間や視界が区切られているのも、かなりありがたい心配りです。
西川さん自身もサウナがもともと大好きだったそう。うんうん。伝わってきます。
「設計をお願いした長坂常さんも近くに住んでいらっしゃって、しょっちゅうウチにも来ていただいているんですね。やっぱり、かなりのサウナ好きなんですよ(笑)」(西川さん。以下同)
ご存じの人も多いかと思いますが、長坂さんは錦糸町の「黄金湯」のリニューアルも手がけた建築デザイナー。この狛江湯のスタイリッシュなコンクリート打ちっぱなしとグリーンがかった水色のタイルというシンプルな内装、独特な世界観にも、なんだか心が落ち着いてきます。
「フロントから脱衣場、そして浴室へと進んでいくうちにグリーンの割合が増えていくんですよね。とても気持ちのいい空間にしていただけました」
人々が集いあったり、出会える場所に、この銭湯がなれたら
さて、今回のリニューアルにあたって、西川さんと長坂さんには、もうひとつ実現してみたいことがあったそうです。
「この狛江市って、日本で2番目に小さな市なんですよ。街全体もどこかこじんまりとしていて。いい街なんだけど、人と人が集いあえるような“ちょうどいい場所”が実はなかなかないんです。
今回、狛江湯をリニューアルする際に、ウチがそういう場所になれたら、っていう話は長坂さんともずっとさせていただきました」
サウナやお風呂から出て、豊かな気分のまま、すぐに美味しいビールやドリンクが飲めたら。そこで出会った人々と楽しい心持ちで会話ができたら。そんなアイデアが、すぐに浮かんだのだとか。
「以前はほかの店があった場所をブチ抜いて、広いカウンターを設けてビアサーバーを置いたり、ほかのドリンクや軽食も提供できるようにして。前は入口も敷地の少し奥まったところにあったんですが、誰でも入りやすいように、道に面して大きく広く取ってもらいました。
そのせいか、サウナ後のお客さんはもちろんですし、『入浴はしないけど、一杯飲ませてもらってもいい?』なんていう方もちょこちょこいらっしゃるんです。もちろん大歓迎。皆さんの笑顔に、僕もニコニコです(笑)」
昼間には、近所の小学生が集まってカードゲームをやっていたりもするそう。
「ここがこの街の人々の憩いの場になったり、近くの街から訪ねてきた人とも交流できるような場所になったり……なんていうか、街の“ハブ”になったらいいな、って思っているんです」
敷地内にはキッチンカーなども入れそうな広いオープンスペースも確保されています。現在は簡易的なテーブルなどを置いて、このエリアも開放。多くのサウナ好きが、ここで西川さんや狛江湯のスタッフ、そしてお客さん同士でビアグラスを片手に会話を楽しむ姿が、もう日常に。「いずれはいろんなイベントなどもやれたら、めちゃめちゃいいなって思ってるんですよ」と西川さん。
“気持ち良い”の、“その先”までも――。銭湯サウナには、まだまだ多くの可能性がありそうです!
【狛江湯】
住所:東京都狛江市東和泉1-12-6 営業時間:後1:00~11:00 毎週火曜=休 料金:入浴料=520円(大人)+サウナ料金=680円