第72代横綱・稀勢の里として人気を博した二所ノ関親方が率いる相撲部屋。そんな二所ノ関部屋の名古屋宿舎には、各界初とされるサウナがあります。前編では親方のまな弟子で初場所での活躍が期待される幕内・大の里関と十両・白熊関に話を聞きました。後編ではサウナ室のほか、力士がしっかり稽古に励める環境をととのえ、土俵での活躍を支える宿舎の設備などをご紹介します。そこには力士が生活をする”相撲部屋”ならではの構造がありました!
各界初!? 二所ノ関部屋の名古屋宿舎にあるサウナ
現役時代からよくサウナを利用していたという元横綱・稀勢の里、二所ノ関親方。親方が率いる二所ノ関部屋の名古屋場所宿舎が愛知県安城市にあり、この宿舎にサウナが完備されています。宿舎開きは2023年6月。親方がスペシャルアドバイザーを務めるハウスメーカー・アイ工務店の複合型住宅展示場の中にあり、サウナ室の設置をはじめ、宿舎のさまざまな部分に親方のこだわりが反映されているのだとか。
親方とアイ工務店との信頼関係は、親方が現役力士だった頃から。福岡にある九州場所の宿舎もアイ工務店が手掛けています。九州場所宿舎ができたのは2021年10月で、名古屋宿舎の2年近く前。当時、親方はまだ二所ノ関を襲名する前の荒磯親方で弟子は4人でした。それが名古屋場所宿舎の完成時は弟子15人の大所帯に! それで、この名古屋場所宿舎は広さが九州場所宿舎の1.5倍になり、延床面積は約530㎡あるそうです。
他の部屋の力士も羨ましがる、サウナ付きの大浴場
前編で話を聞いた大の里関、白熊関もお気に入りの宿舎にあるサウナ。二所ノ関親方の強いこだわりが反映され、各界で初めて合宿所に設置されたといわれています。親方はサウナ好きで、この名古屋場所宿舎の宿舎開きの時にも「体の中から汗をかきたいと思い、私もよくサウナを利用していた。水風呂で筋肉と頭をしっかり休ませることもできる」と、現役時代に自分が入りたくなっていたタイミング、自身が感じるサウナの魅力をつまびらかにしつつ、「水風呂をつけてもらって感謝しています」と話していたとのこと。
さて、そのサウナ室。「家庭用サウナでは力士が入れなかったので、METOSさんに頼んで特注にしました」と、この宿舎の設計・施工を手掛けたアイ工務店の斎藤隆輔取締役に聞きました。ビルトインタイプで浴場の奥にあり、温浴槽と水風呂の間にあるドアの大きさからして違います。中の広さは3.8畳、ベンチは2段。力士2人がゆとりをもって入れる広さ、並んで座ってもビクともしない強度を実現しているそうです。座らせてもらうと、たわむことが一切なくて、カチッとした座り心地。これなら体重150kgを超える力士が2人入って、ベンチを昇り降りしても、腰を浮かせて座り位置を変えてどすっと腰を下ろしても、まったく問題ないでしょう。聞けばサウナ室に限らず、建物自体に強度を高める秘密があるのだとか。
サウナストーブには茶色のサウナストーンがぎっしり山盛りになっています。ストーブはロウリュに最適なMETOSの業務用電気式サウナヒーター「ZIEL」が使用されています。ちなみに「ZIEL」とはフィンランド語で「魂」の意味。製品名はサウナのロウリュによる蒸気に魂が宿ることに由来するといわれています。
水風呂は大きな力士が肩までしっかり浸かれる広さと深さ。なお、温浴槽も2人が並んで入ってもゆとりがあります。洗い場は4つ並んであるほか、水風呂の横にもあり、サウナ室を出て、シャワーを浴びて、水風呂に入るのもスムーズです。偉丈夫な力士が浸かれば、オーバーフローも豪快。ぜいたくこの上ない気分になれるでしょう。
名古屋場所が開催されるのは7月で、まさに夏真っ盛り! 出稽古にやってきた他の部屋の力士も含め、たくさんの力士が浴場を利用します。そのためサウナ室は一日中ストーブの電源が入っている状態。水風呂には、水を入れて凍らせたペットボトルを放り込んで冷たさをキープしているそうです。稽古でたっぷり汗をかいた後に汚れをさっぱりと洗い流して、しっかり温められたサウナ室の熱気で蒸され、そして氷で冷やしているのと同じ水温の水風呂へ……。芯から癒され、生き返ったような気分になれるのではないでしょうか。
大きくて強い。力士とイメージが重なる空間
おそらく角界初のサウナ付き稽古拠点である二所ノ関部屋の名古屋宿舎。力士の成長と活躍を支える空間として、浴場に限らず、設備が充実していて、至るところに工夫が見られます。
土俵は2面。室内と屋内に1面ずつあり、国技館と同じ土が使われているそうです。力士が食事するちゃんこ部屋としても使われる40畳のリビングには最新型の大きなモニターが設置され、稽古や取組の映像などを確認できるようになっています。キッチンの冷蔵庫や炊飯器もかなりの大きさ! 玄関、廊下、階段も広く、力士がすれ違える幅がありますし、ドアももちろん特注サイズ。見上げてみると、天井も高くて驚きました。平均的な住宅の天井の高さ2.4mに対して、20cm高い、2.6mもあります。
そして何より、建物自体のつくりが頑丈なのです。アイ工務店の斎藤取締役に「ちょっと飛び跳ねてみてください」と促されて、その場でジャンプを繰り返してみると……何と、床がたわむ感じがまったくしないのです。着地した場所のすぐ近くに満タンの水が入ったバケツがあっても、中の水がこぼれることはないのでは……そう思えるほど。
「すべての部屋をピアノ室と同じようにしています」と斎藤取締役。
これ、どういうことかというと、重いピアノが置いてあるピアノ室の床には、建築用語で「根太(ねだ)」(床下に敷かれる板)と呼ばれる構造材が普通の部屋よりも多く入っているのだそう。この宿舎もそれと同じように、一般的な住宅では90㎝間隔で入れてある根太を45cm間隔で並べているのだとか。加えて、柱の太さも通常9cm角のところを12cm角に。通常の住宅でも強度はまったく問題ないにもかかわらず、それより倍以上の木材が使われているというから念入り。これだけ工夫して強度を高めている建物に設置されているサウナ室だけに、力士2人が入り、300kg以上の荷重がかかってもビクともしないのもうなずける話です。斎藤取締役は「ここは何人もの力士が寝起きして稽古を重ねる宿舎というだけでなく、幅広い用途で、店舗として使うことなども想定した実験的な試みをしている建物でもあるわけです」と明かしてくれました。確かに言われてみれば、ちゃんこ部屋として使われている40畳のリビングなど、木造ながらも柱を立てずに広々としたスペースを確保しているのも驚き。大きくて強いのです。なんだか屈強な力士とイメージが重なります。
安城市と結ぶ「がっぷりよつ協定」の拠点にも
この二所ノ関部屋の名古屋場所宿舎は、安城市と結ばれた地域活性化に関する包括連携協定、通称「がっぷりよつ協定」の拠点にもなっていて、相撲を通じた地域貢献を行う施設としても活用されています。取材に訪れた日も、土俵で地域の子どもたちの稽古が行われていたほか、住宅展示場の来場者に部屋自慢の塩ちゃんこがふるまわれ、初場所を西前頭十五枚目として迎える新入幕の大の里関、西十両六枚目の白熊関をはじめ、力士のみなさんが記念撮影に応じている姿も見られました。
親方と一緒にサウナに入ることもあるという白熊関に、この名古屋場所宿舎の使い心地を聞いたところ、満面の笑みを浮かべて「むちゃくちゃ気に入ってますね」と話してくれました。そして、これからの自身の目標として「まずは十両で優勝して幕内に入り、定着すること。それから先は親方、大の里関、部屋のみんなと一緒に、アイ工務店のCMに出られるようになったら良いなぁと思っています」と。
充実した設備が整った宿舎で稽古に励み、サウナで英気を養う二所ノ関部屋の力士。親近感がわかない理由がありません、活躍を期待して応援します! 観戦場所はもちろん、相撲中継を放映しているサウナ室でキマリです。
二所ノ関部屋
1935年、第32代横綱・玉錦によって起こされた相撲部屋で「昭和の大横綱」と呼ばれた第48代横綱・大鵬も所属した。第45代横綱・若乃花、第59代横綱・隆の里、そして第72代横綱・稀勢の里を輩出した名門です。角界にある5つの一門のうち、二所ノ関一門には最も多い15部屋が所属し、その総帥が元横綱・稀勢の里の二所ノ関親方です。
公式サイトはこちら(https://nishonosekibeya.com/)から
撮影/長谷繁郎
取材・文/吉牟田祐司