日本サウナ学会の代表に聞く、サウナの効果と「ととのう」とは?

長年サウナに通っている愛好者でも「ととのう」とはどのような状態を指すのか説明するのは、意外と難しいものですよね。ところが、実際にサウナを研究し、科学的根拠をもって「ととのい」の正体を説明できる人がいるのです! サウナに関する様々なデータを測り、海外の論文にまですべて目を通してサウナを研究している日本サウナ学会の代表理事であり医師・医学博士である加藤容崇先生に、その健康効果や「ととのう」の仕組み、またサウナで注意すべき点を教えてもらいました。

※本稿は発売中のムック「ドラマ『湯遊ワンダーランド』公式サウナガイド きつことととのう初めてのサウナ」のコンテンツを抜粋、再構成したものです。

目次

がんを研究する医師が、サウナにはまったわけ

ぼくはがんの遺伝子研究(がんゲノム医療)と、がんの早期発見技術開発を専門としています。がん医療は、日進月歩で進化しています。最近では、患者さん一人ひとりの遺伝子の変化に基づいて、診断や治療が行われるようになってきました。薬も格段に進化しています。その分、ものすごく細分化されるようになりました。

新しい薬を作るには、高額の研究開発費が必要になります。そういった新薬をすべて保険適用すれば、患者さんにはプラスになる一方で、医療保険そのものが破綻してしまう……。そんなジレンマを抱くようになり、病気を未然に防ぐ大切さを痛感。予防医療に本気で取り組み始めました。

サウナの研究を始めたのは、2018年の秋です。あるラジオ番組をきっかけに、ディープなサウナーのみなさんとサウナへ行くことになりました。それまで、特にサウナに興味があったわけではありません。彼らの言う「ととのう」にも半信半疑でした。

ところが、彼らのレクチャーに従ってサウナに入ると、明らかに違うんですね。「脳科学的に何かが起こっている」と直感しました。

それからは、自分の体を使ったり、被験者を集めたりして、医学的なデータを測りまくりました。水風呂のありなしでどう違うか、外気浴のありなしではどうか、サウナ室のかわりにお風呂ではどうか、など。海外の論文もすべて目を通して研究した結果、日本人においても、サウナは非常に健康効果がある可能性が高いことが分かったのです。

「ととのう」とは、体が「バグる」状態

サウナーがよく言う「ととのう」は、簡単に言うと「いつもと違う状態」です。人間の体にとって、熱いサウナ室内に入ることは「ストレス」です。水風呂も同じで、冷たい水は人間にとって「危機的な状況」です。サウナにしても水風呂にしても、それ自体で「ととのう」わけではなく、ストレスがかかった状況から解放されて初めて、「ととのう」感覚が得られます。

では、解放されてリラックスした状態=「ととのう」かというと、そうではないんですね。「ととのう」というときに、体の中で何が起きているか。キーワードは「自律神経」と「アドレナリン」です。

自律神経は、興奮したり緊張したりするときに働く「交感神経」と、リラックスしたときに働く「副交感神経」に分かれています。サウナ室に入って「熱い!」と感じたり、水風呂に入って「冷たい!」と感じたりすると、体が興奮して、交感神経が優位になります。そうすると、体内でアドレナリンが分泌されます。アドレナリンは戦うためのホルモンなので、心拍数が増えて、脳の血管が収縮します。

そのあと、外気浴(休憩)を行うと、体は「危機を脱した!」と感じて、一気に副交感神経が優位な状態に傾きます。心拍数が減り、脳の血管が拡張。休息モードに切り替わります。通常、副交感神経が優位になると、リラックスして眠くなります。ところが、「ととのった」状態では、眠くありません。むしろ覚醒しています。なぜか。

神経の反応は速いので、自律神経の切り替わりはすばやく行われます。一方、ホルモンなどの伝達物質はいきなりはなくなりません。肝臓で代謝されるなどして、徐々に効果を失っていきます。この「スピード」の差が鍵です。

水風呂から出て休憩をする最初のおよそ2分間、自律神経は一足先に切り替わり、副交感神経が優位になっているのに、血中にはまだ興奮物質であるアドレナリンが残っているという、矛盾した状態が作り出されます。ある意味、体が「バグる」のです。体は究極にリラックスしているのに、意識はすっきりと晴れている。この感覚が「ととのう」の正体です。

幸福感に包まれる、五感が研ぎ澄まされる、アイデアがひらめきやすくなるという人もいます。サウナ浴で一番気持ち良く感じるのがこの休憩で、サウナ室も水風呂も、そのためにあると言っても過言ではありません。「ビックリマンチョコ」みたいなものですね。ビックリマンチョコって、もちろんチョコが本体なのですが、シールが欲しくて買うじゃないですか。それと似ています。

なにより、スマホも何も持たず、究極にリラックスした状態で過ごす時間って、ほかにないと思うんですね。

サウナは運動と同じ「健康インフラ」

長期的にサウナ浴を続けたときに得られる健康効果としては、①血圧を下げる、②認知症のリスクを下げる、③うつなどの精神疾患のリスクを下げる、この3つが知られています。 

血圧が下がると、心筋梗塞のリスクが減少します。サウナ浴の頻度が高い人ほど、心臓や血管の病気にかかりにくいことが、医学的な調査で報告されています。また、サウナが睡眠の質を高めることも分かっています。自分自身が被験者となって、睡眠の状態を計測したところ、サウナに入った日は、入らなかった日に比べて、寝入りばなの「深い睡眠」が平均して1.5倍に延長しました。

サウナに入ると寝つきが良くなるのは、体温の分布によるものと思われます。サウナのあとは、深部体温が高く、表面が低くなっています。体は深部体温を下げようとして、表面から熱を放出します。そうして、深部体温がグーッと下がったときに、眠りのスイッチが入るんです。ベッドに入る時間から逆算して、2時間前ぐらいにサウナに入ると、熟睡効果が高まります。

認知症リスクの減少も、睡眠によるものが大きいと考えています。脳は大事な臓器なので、外から悪いものが入ってこないように、頑丈な壁で守られています。「進撃の巨人」の『ウォール・マリア』みたいなイメージですね。ただ、そうすると、巨人は確かに入ってこないのですが、内部の社会も崩壊していくじゃないですか。内と外を完全に遮断してしまうと、内部に老廃物が溜まっていって、健康に保てない。認知症もそれと似ています。

では、脳内に溜まった老廃物をいつ捨てるかというと、深い睡眠のときなんです。つまり、サウナで深い睡眠が長くなると、脳の老廃物を洗い流しやすくなり、認知症のリスクが減少します。

そのほかにも、サウナには、冷え性や肩こり・腰痛の改善、風邪をひきにくくなるなどの効果があります。予防医療の観点から見て、サウナはとても優れているのです。

そういう機能を持った装置は、日本ではほかにありません。サウナは娯楽でもあり生活のインフラの一部であるという最高の二刀流です。毎日サウナを楽しみながらついでに健康にも繋がる、社会的な「健康インフラ」になり得る、そんな素敵なサウナ習慣がもっと多くの人に広まれば良いですね。

サウナ浴で注意すべきこと

サウナには、気をつけなければいけない点もいくつかあります。例えば、ヒートショックです。水風呂に入ると血圧が乱高下しますから、ヒートショックのリスクはあります。初心者の場合は、自律神経のオン・オフに体が慣れていませんから、いきなり水風呂には入らず、まずはぬるめの水シャワーで徐々に体を慣らす方が良いです。

一方で、サウナ室内にいるときは、むしろ少し血圧が下がりますから、心臓や血管に対するリスクは比較的少ない。ただし、当然ですが、熱中症のリスクはあります。水分をしっかり取り、無理をしないことが鉄則です。

サウナ室の中は、階段状になっていることが多いですが、上にいくほど温度が高くなります。サウナの基本的な入り方は、「サウナ室→水風呂→外気浴」を1セットとして、それを3回繰り返します。このときに、1セットめからいきなり上段に座るのではなく、下段から始めて、徐々に体を慣らしていきます。

サウナ室を出る目安ですが、汗の量はあてになりません。なぜかというと、汗の30〜50%は「結露」だからです。体調は日々異なるので、時間を固定することもおすすめしません。 

医学的な指標としておすすめしたいのは「心拍数」です。あらかじめ、軽い運動をしたときの心拍数(脈拍)を測っておき、サウナ室内でその心拍数になったら出るようにしましょう。その前に熱くなったら無理せず出ることも大事です。

だんだん慣れていくと、自分なりの「いつもの入り方」が見つかってきます。そうすると、今日は水風呂をちょっと長くしてみようとか、水風呂を短くして休憩を長めにとろう、という具合に調整できるようになっていきます。それもサウナの楽しみ方のひとつかなと思います。

加藤容崇(かとう・やすたか)
北斗病院医師・医学博士、日本サウナ学会(https://www.ja-sauna.jp/)代表理事。専門は癌の遺伝子検査・研究。人間が健康で幸せに生きるためには、健康習慣による「予防」が最高の手段だということに気づき、サウナをはじめとする世界中の健康習慣を、最新の科学で解析することを第2の専門としている。著書に『医者が教える 究極にととのうサウナ大全』など。

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撮影/對馬杏衣 取材・文/長谷川千雅

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