サウナ後、浴後の「最高の一杯」のために、直営ブルワリーもオープン!

前のページまででも記したように、何ごとも本気で取り組み、こだわってしまうのが黄金湯流。その一環(!?)として、’23年秋には、店頭で提供するクラフトビールを“自前で醸造するためのブルワリー「BATHE YOTSUME BREWERY」もオープン。

「5年前に黄金湯をリニューアルしたときに、フロントにビアバーを設けて、オリジナルのビールをつくってもらって提供し始めたんですけど、『いつかはこのビールも自分たちの手でつくれたらいいね』と、オーナー(=朋子さんの夫で、黄金湯オーナーの新保卓也さん)とも話していたんです。湯上がり、サウナ上がりの一杯に、本当に納得のできるこだわったものを出したいな、って。その夢がかないました」(朋子さん)
その言葉どおり、サウナ後、浴後に飲みやすく、また「ロウリュコーヒー」同様に“銭湯サウナ”としてのこだわりも詰まったフレーバーのクラフトビールが、ここで醸造されています。苦味があまりない“ヴァイツェン”という種類のクラフトビール「FOREST」は、アルコール度数が3.7%という軽やかさと醸造過程で投入された白樺のヴィヒタの香りが愉しいですし、アルコール度数がそれぞれ5%の「SUNRISE」(ペールエール)、7%の「SHOWER」(IPA)なども、しっかりとした味わいながらどこか爽やかでスッキリした飲み口。どれも1杯だけでも満足できるけれど、つい「おかわり」なんて言いそうになってしまいます。

もちろん黄金湯のフロントや2階の「キッチン」でも飲めますが、この醸造所内にも客席があり、ここで味わうことも可能です。実際に夕方を過ぎると、やはり近所の方やこのエリアで働く方々が次々に集まってきてはグラスを傾けています。

タップの数もご覧の通り。本当にさまざまなフレーバーのクラフトビールと、ちょっとしたおつまみがオーダーできます。

たとえば、この黒いビールは“ミルクスタウト”という種類に分類できるでしょうか。その名も「コーヒー牛乳スタウト」という1杯です。銭湯で長く愛されてきた「瓶のコーヒー牛乳」からインスパイアされて開発したとか。後味にコーヒーの香りがほのかに感じられ、苦すぎず甘すぎない絶妙なのどごしは……ちょっとした新感覚!

屋号の1つめのワード“BATHE”(べイズ)とは、英語で「浴びる」という意味だそう。なるほど。お風呂を浴びて、サウナで蒸気を浴びたあとに、ビールまで「浴びちゃってほしい」。あるいはお風呂やサウナを浴びていなくても、美味しいビールで多幸感を浴びちゃってほしい……。
とにかく“浴びさせたい”!という(!?)、“お風呂屋さん魂”みたいなものを感じますね(笑)。
街のために、人々のために。姉妹銭湯サウナで、あえて異なる気持ちよさを伝え続ける
さて。屋号の2つめのワード“YOTSUME”というのは、この黄金湯とブルワリーのすぐ横を走る幹線道路「四ツ目通り」(※通称。正式名称は都道465号線)から。
地図で見ると、黄金湯とBATHE YOTSUME BREWERYは、このような位置関係(赤枠で示してます)。2軒は、465号線=四ツ目通り沿いを歩いてほんの4〜5分ほどの距離にあります。

その間にある、やはり四ツ目通り沿いの緑枠で囲った2軒も(ご存じの人も多いでしょうが)、実は黄金湯の姉妹店です。それぞれ歴史と個性のある、ともにサウナも併設した銭湯。
まず「押上温泉 大黒湯」(以下、大黒湯)は、オールナイト営業が最大の特徴(午後3時の開店から、翌朝10時まで営業)。眠らない街……都内有数の繁華街である錦糸町エリアにおいて、多様な職種のサウナ好きが恩恵を受けています。

サウナ室上部の壁に蛍光灯タイプの遠赤外線ヒーターがぐるりと設置されたビジュアルも、初めて見た人にとってはインパクトが大きいかもしれません。視覚のみならず、肩や背中に当たる遠赤外線の熱がじわじわと体の芯まで届いてくる感覚も、ぜひじっくりと味わってほしいものです。また、とてもやわらかな地下水を使った掛け流しの水風呂や、広い露天風呂側の浴室にある強力なスチームサウナも人気です(浴室は男女日替わり)。
そして昭和27年(1952)開業という「さくら湯」も、下町の小さな商店街の中にある、どこか落ち着く店構えが銭湯好きの心をくすぐります。この味わい深さと、目の前にそびえ立つ東京スカイツリーの近未来感とのギャップ、コントラストも……なんかいいんですよね。

ルックスだけではなく、浴室の気持ちよさもやっぱり最高です。小さいけれどストロングな熱を味わえる遠赤外線ガスヒーターのサウナ室では、ヒーター上のアロマ水入りのやかんが生み出す湿度の効果もあって、あっという間に全身がアチアチになります。マイルドな水をたたえた水風呂の涼感や、シルキー風呂も心地良いし、店頭の“顔はめのれん”(写真下)や、“小さな図書館”もある湯上りの待合室といった、あたたかみを感じるさまざまな趣向にも思わずほっこり。まさに人情味に満ちた、下町の“昔ながらの銭湯サウナ”の良さを、ここで体感することができます。

「ゆ」をめくって顔ハメしてください!
大黒湯は、もともと新保さんご夫妻が営んでいた銭湯ですが、さくら湯は前オーナーが体調を崩されたことをきっかけに、黄金湯&大黒湯のスタッフが「ヘルプ」に向かうようになり、その後、正式に経営を引き継ぐかたちになりました。
黄金湯、大黒湯、さくら湯……徒歩5分圏内にあって、それぞれ異なる気持ち良さ、居心地の良さを味わえる銭湯サウナ3軒。その日の気分で通い分ける地元の人たちもいれば、遠方や海外から黄金湯を訪れたあと、この2軒やBATHE YOTSUME BREWERYを周遊したり、合間や帰り際に近くの飲食店でゆったり過ごす愛好家もいるそうです。
街にとって、人々にとっての大切な場所である「銭湯」の良さをこれからも伝えていきたい。そんな思いを、黄金湯のみならず、四ツ目通り沿いで手がけるお店すべてから感じることができるのです。

新保さんご夫妻の銭湯への思いの象徴のようです