館内にあふれる、やさしさとあたたかさ。接客で大切にしてきたもの
ーー女性浴室のサウナ室も、男性サウナ室同様(少し温度は低めですが)、しっかりとした熱さがあって、気持ちよく発汗できます。サウナが好きな人にとっては、「神戸クアハウス」の気持ちよさは本当にクセになるというか。一度、体が知ってしまうと忘れられなくなります。
「そうおっしゃっていただける方が本当に多くて、それはうれしい限りですね。女性のお客様で実は多いのが、『水風呂が苦手だったんだけど、ここの水風呂に入ることができて、サウナが好きになった』という声なんです」
――すごく分かる気がします。さて、水風呂やサウナ室だけでなく、1階の「名水レストラン」のご飯もたまらないのですが……。ちなみに私は「名水御膳」のおかずをまず確認してから、オーダーさせていただくことが多いです(笑)。
「ありがとうございます(笑)。本当に地域の方、地元の方をはじめ、毎日来ていただける方も多いので、唐揚げ、アジフライ、豚の山賊焼き、牛とじ……と主菜を日替わりにしているんですが」
――カレーも牛丼も好きですし、生姜焼き定食も好きです。
「入浴されずに、お食事だけ来られるという方もいらっしゃいますので、いろいろ用意させていただいています。もちろんすべてのメニューをここで調理していますが……一番の人気は『牛鍋』です。
これも、すべてはお水がいいから、お食事も人気なんだと思いますね」
――館内全体の安らげる雰囲気も、もちろん大好きです。
「ずっと申し上げている通り、館内のほとんどが“33年もの”なので。よくお客様からは『実家に帰った感じ』とか『懐かしい雰囲気』なんておっしゃっていただいてはいますが(笑)」
――入退館時のフロントでも、「名水レストラン」でも、館内ですれ違ってもスタッフの方の接客もとてもあたたかくて。
「スタッフの間では、とにかく『笑顔でお迎えする』ということを心がけています。ベテラン……私同様に古いスタッフも多いんですが(笑)、みんな、必ずお客様に一声、おかけしているんです。
『今日は楽しそうですね』『素敵なお召し物ですね』『昨日はお越しにならなかったですけど、何かありましたか? お顔を見られて安心しました』みたいに。
コミュニケーションをとることで、初めてのご来訪でも、グッと気持ちを楽にしていただけるし、皆さんにとって身近な場所、気を許せる場所になりますから」
スタッフとお客さん。関係するすべての人が「神戸クアハウス」をつくりあげた
――はい。そんな大好きな場所が建て直されるとはいえ、長期休館に入り、いったん解体されるというニュースを聞いたときは、正直、少しショックがありました。
「私たちも、本当に残念というか、断腸の思い……苦渋の決断なんです。建物も設備も、不調になったり故障したら、なんとかすぐに補修や修理をして対応してきたのですが……。
目に見える故障ならともかく、どこが原因かさえも分からない不調が出てきてしまったりと、維持すら難しくなってきてしまいました。
ずっと来てくださる方のためにも、すべて造り直すことにさせていただいた次第なんです」
――こういう言い方はアレですが、“満身創痍”と。
「はい。これまで皆さんに支えていただいて……なんとか、ダマシダマシやってきたのですが、それが“限界を超えてしまった”というのが実情なんです」
――多くの銭湯さんなどでも、「30年くらいをメドに、大普請をされる」という話をお聞きします。
「そうなんですよね。当館もその“メド”を越えてしまいましたから。ここ数年は、思いもよらない不調もあって。
突然、水が噴き出してしまって、どこから漏れ出したのか分からない中で『見てくるよ』と、水道屋さんが狭いなかに潜り込んでくださったり……。
数年前には元日にボイラーが動かなくなって、営業休止を覚悟しながら業者さんにダメ元でご連絡したら『正月だから、少し飲んじゃっていて……運転できないからタクシー代だけ出してくれる?』なんて言って駆けつけてくださったり。
そんなやりとりを見ながら『今日は入れるところで(あたたまっていくから)、いいよ』なんておっしゃってくださるお客様もいらして」
33年間の感謝をこめて。「神戸クアハウス」のこれから
――坂本さんをはじめ、お店の皆さん、そして神戸クアハウスを愛する皆さん。いろんな人の思いがあって、このやさしい空間ができ上がっていたんですね。
「今、思い返すと大変なこともたくさんありましたが、そうした皆さんのあたたかい支えがあったことに、本当に感謝しています。
この仕事を続けてきて思うのは、あたたかいお風呂もサウナも、人の心を本当にやわらかくしてくれるなぁ、ということなんです。たとえ言葉にされなくても……来るときにムッツリされていた方も、帰るときには表情が違うんです。皆さんに支えていただきながらも、そうした笑顔になっていただく時間を作れたことは幸せでしたし、本当に一番の励みになりました」
――もちろん、寂しさはあるのですが、改装、改築されての営業再開を心待ちにしています。
「はい。いったん建物をすべて取り壊したりもしますので、数カ月や1年というわけにはいかないのですが……数年後には必ず復活させますので、少しだけお待ちいただけないかと思います。
温泉も水も枯れることはありませんし、サウナ室も今のもの以上にパワーアップさせつつ、より皆さんに楽しんでいただける複合的な施設へと進化して戻ってくる予定です」
――はい。でも……3月末までに、できる限り、またお邪魔したいな、なんて思っておりまして。
「私たちもこれまでの感謝の思いをお伝えできればと、できる限りではあるのですが、さまざまなイベントもご用意させていただいています。あと2カ月あまりではありますが、ぜひお越しいただき、あたたかいサウナ室、温泉、そして『神戸ウォーター/布引の水』をお愉しみいただければと思います。皆さま、本当にありがとうございました」
坂本順子さん(神戸クアハウス 支配人代行)
1991(平成3)年のオープン当初より、33年にわたって、利用客をもてなし、スタッフを見守り続けていらっしゃいます。
なお、冒頭に記した通り、現在発売中の「SAUNA BROS.vol.7」でも、たくさんの写真とともに男性浴室、女性浴室をはじめ、男女各サウナ室、水風呂、休憩エリア、館内の設備など同館の魅力を特集で掲載しています。そちらもぜひご覧ください。
神戸クアハウス
住所:兵庫県神戸市中央区二宮町3-10-15
営業時間:年中無休、24時間営業(※深3:00〜前6:00は清掃のため浴室利用不可)
料金:入湯料 [大人]1,100円 [小人]540円(4歳〜小学生) / 宿泊料 [スタンダードカプセル]4,000円〜 [デラックスカプセル]4,500円〜(ほかTVブース、仮眠室などあり。詳しくはHPをご参照ください)
撮影/長谷繁郎