SAUNA BROS.vol7の「京都銭湯サウナ特集」で紹介している「白山湯 高辻店」をクローズアップ。本誌では紹介しきれなかった魅力や裏話を2回に分けて紹介します。
今回は「なんか気持ちいい」と感じるワケを探ります。というのも、取材を通して感じたのは、今日の「白山湯 高辻店」の人気を作っているのは横山重典社長の魅力とサウナ愛ということでした。そんな横山社長と横山社長が作る「白山湯 高辻店」の工夫や魅力をぜひ知ってほしいのです。
「白山湯 高辻店」は京都サウナの中でも、人気の施設として名前が知られています。それは京都府内だけに限った話ではなく、全国からサウナ好きが集まってくる知名度と人気を誇る施設。
昔は「水風呂」よりも「熱いサウナ室」で有名だった白山湯
サウナ込みで490円で入れるという安さが敷居を低くしてくれていることもありますが、その人気の理由は、なんと言っても横山社長のサウナ好きによるところが大きいかもしれません。「白山湯 高辻店」が今の外観にリニューアルしたのは28年前のこと。その当時から既に今のサウナ室と設定温度で、110度設定の高温サウナは、横山社長の好みによるものなのですが、京都の町銭湯でこれほどの高温サウナは、銭湯の多かった当時としても例外だったようです。
熱いお湯に我慢して入るということが「粋な江戸っ子」として好まれてきた東京と違い、京都ではお湯が熱すぎるということはなく、サウナ室も高温設定は需要が少なく(最近は変わってきてます)、平均的に80〜90度でした。そんな中、「白山湯 高辻店」は110度の強気の温度設定……。ちなみに筆者はいつもサウナストーブの真横に座るのですが、その席の体感温度は120度ぐらいあります(多分実際にあります)。毎回驚くほどに「あまみ」が上半身全体に出現し、少し恥ずかしい気持ちになることも……。
「当時は水風呂のことより、サウナ室が熱いことで有名やったね!」といたずらな表情で笑う横山社長。他の施設にただ合わせるのではなく、自身の好きなサウナ空間を作り、守り、自分の好きを貫いてきた。それが今なお世代を超え、サウナ好き達を魅了しているというわけなんですね!
サウナ大好き横山社長、自分の「好き」にこだわる
そんなサウナ好きの横山社長が作るこだわりは、サウナだけでなく水風呂・外気浴にも及びます。サウナ好きの同志たちを魅了するポイントとは何なんでしょうか? 前回触れられなかった、それぞれの詳しい部分についてご紹介していきたいと思います!
まずサウナ室に入ると気付くのは、扉が細く狭いこと。開閉時に熱が逃げないためでしょう。実際、入口付近の席を除き、開閉で涼しさを感じることはほとんどありません。どの席にいても、適度にある湿度も相まって、短い時間でしっかり汗が出てきます。
露天風呂への扉も、サウナ室の扉から真裏の側に距離をとって作られ、外気が入らないようよく考えられて配置されているのが分かります。
そして前回ご紹介したように「白山湯」の水風呂は、潜ってもよし、飲んでよしの名水です。ライオンから水が勢いよく吐き出され、高所からの方は特に水しぶきが上がっていますよね? 実はこのしぶきが重要なんです。
水が水面に叩きつけられた衝撃で、内部に酸素が含まれるのですが、この酸素が水質を一層なめらかに変えています。酸素を多く含んだ水は、より柔らかい水質に変化するため、これにより「白山湯 高辻店」の水風呂は、やわらかくなめらかな肌触りに感じるそうなんです。
京都の地下水は元々、名軟水として有名です。軟水と硬水の定義は、1リットルあたりのマグネシウムとカルシウムの含有量で区別され、軟水は口当たりがなめらかで癖が少なく、硬水は癖があるが、その分ミネラルが同時に補給できるという、それぞれにメリットがあります。
そんな口あたりなめらかな軟水が、京都の地下には豊富にあったことから、酒作り・京菓子・豆腐・湯葉などの日本文化が育ました。 現在でも京豆腐や酒造りには、京都の地下軟水が欠かせません。 そんな名水を、より柔らかくしている水風呂なんですもの。そりゃあ気持ちよかったハズでした!
「普通地下水を吸い上げる力で、周辺の砂やら巻きこんで、水が濁ったり、砂がタンクの底に溜まったりするんやけど、営業時間外もずっと出しっぱなしにしてキレイにしとるし、砂とか入らんようにビシッとさせとる」との横山社長の力強いお言葉。
やはり理由があって「白山湯 高辻店」の水質は良かったんですね。常々、水質が良いな、柔らかいなと漠然と感じていたことに根拠ができ、勝手ながら光栄な気持ちになりました。真実を知った今、間違いなく次に入る時は、もっと気持ちよくなってしまうことでしょう。
外気浴スペースは露天にあります。滝のような水風呂の音も、外に出ると一切聞こえません。露天スペースには背もたれつきのイスが3脚、ベンチの長椅子が1脚ありますが、浴室にもイスが用意されていて、各々好きなところで休憩をとることができます。男性側の露天スペースでは、座るイスで屋根のある所とない所があり、天気によって外気浴を楽しむことができるのも魅力! 小雨の時には屋根のない方で雨を感じながら、なんて天候での楽しみもあります。
また、前回でもご紹介したように、露天奥に設けられた日本庭園が目に優しい! 空間がまるで1枚の絵のように配置されていて、その中で小さな広葉樹が季節感ごとに表情を変えてくれます。
取材時は11月初旬だった為、植えられたもみじはまだ緑色でしたが、数週間後に訪れると、しっかり赤く染まり、普段とは全く違う気持ちで外気浴が堪能できました。
どうしてここまで、サウナ好きの心を掴むものを作ることが出来るのか横山社長に伺うと
「まずは自分が風呂好き、サウナ好きにならんとね。好きになれば、やりたいこといっぱい出てくるし、見えてくるわ」
と明確に返答をしてくださいました。確かにどれもサウナ好きの人でなければ気付けないことばかりなんですよね。小さな「こうだったら良いな」が沢山叶えられていて、そのどれもがサウナを気持ちよく楽しむ理に適っているんです。
「お客さんの目に見えへん所で僕が頑張るのが仕事やね。サウナ室の背中の板も自分で作って、毎年1回張り替えてるんですわ」と。そうなんです、高辻店・六条店ともに年に1回、12月に張り替えているのだそう。町の銭湯がここまでこだわってくれるなんて、本当に横山社長のサウナ愛に感謝です。
横山社長の魅力に集まる才能
そんな横山社長のもとには、サウナ好きや「白山湯」のファンが自然と集まってきます。「白山湯」で販売されているグッズは、京都を中心に活動する「FRO CLUB」というクリエイティブチームが作っているのですが、そのきっかけも 「FRO CLUB」のメンバーの方から「白山湯に着ていく用に服を作らせて欲しい!」と横山社長に直接お願いをしたことから始まっています。
「FRO CLUB」との繋がりで知り合った染師さんからは「白山湯の暖簾を作らせて欲しい!」との声もかかり、以来、「白山湯」の暖簾は、その染師さんが染め上げたオリジナルの暖簾が軒先で揺れています。
味のある青色に「天然名水 白山湯」の文字。触ってみるとしっかりとした麻の素材でかなり長く使えそうですが、年に2回替えているとのこと。ぜひ「白山湯」に行かれた際には、入口の暖簾にも注目して見てください!
今では京都随一の人気サウナ施設となった「白山湯」ですが、ここまで至るのは簡単な道のりではありませんでした。特に「白山湯六条店」を経営することになり、リニューアルオープンした平成14年当時は、近隣の住民の方々も客入りを心配するほどだったようです。
そこからホテルに営業をかけたり、朝営業を始めてみたり、様々な努力を重ね、口コミが広がり少しずつお客さんが増えてきました。
「最初は銀行も反対しててね。それで普通ではあかんと思って色々やったわ。ホテルにもよう売り込みに行ったしね。土日祝日に朝営業も始めたりして、3年目ぐらいから少しずつ人が増えていったね。夜行バスで来たお客さんが朝から入れるゆうて口コミも広がって。夜行で来て、吉野家で朝食べてからくるお客さんがようおったねぇ」と笑いながら当時を振り返る横山社長。
「今はサウナブームさまさまやわ」と話し、その言葉だけを聞けば、ただブームに乗った様な印象を受けてしまいますが、今に至るまで様々な努力をして、少しずつファンを獲得していった裏付けがあるからこその言葉なのでしょう!
取材を終え帰り支度を始めていると、横山社長から「おもしろいモン見せてあげよか?」と呼び止められました。裏へさがった横山社長が戻ってくると、手には何やらTシャツが……。
それは上述の「FRO CLUB」さんからサプライズで贈られたもので、笑顔で広げるそのTシャツには「YOKOYAMA SHACHO」と書かれたロゴと、横山社長の格好良い写真が(笑)。「FRO CLUB」さんとの関係性と横山社長の魅力がよく伝わってきました!
今回、取材で横山社長と接するにあたり、パッと見に少し怖いイメージもあったので、少し構えてしまう自分がいたのですが、話してみるととても笑顔が魅力的で、壁を作らず気さくに接して下さいました。そのギャップに萌えました。
こうして「白山湯」と横山社長のファンは増えていくのでしょう。 暖簾をくぐり施設を後にした時には、筆者もすっかり虜になっていたのでした。
現在発売中のSAUNA BROS. vol.7では、さらに多彩な写真とともに「白山湯 高辻店」の魅力を特集しています。是非そちらも併せてご覧ください。
白山湯 高辻店
■住所:京都府京都市下京区東中筋通松原上ル舟屋町665
■営業日:後3:00~前0:00(日曜は前7:00~前0:00)
■定休日:土曜
■料金:490円(サウナ込み)
「SAUNA BROS.vol.7」
■発売日:2023年12月13日(水) ※一部、発売日が異なる地域がございます
■定価:1,137円
SAUNA BROS.STORE(https://saunabros.stores.jp)でも販売中! 全国の書店、ネット書店(honto:https://honto.jp/netstore/pd-book_32948979.html)などでも購入できます。
撮影/岡本武志
取材・文/鈴木健介