優しさが行き交う空間を作る。ビバークランド ロードの湯②

静かな住宅街を歩いていると、きれいなグリーンのツタが生い茂っている建物が目に入ります。「え、ここが銭湯?」と思わずには、いられません。そう、ここが千葉県千葉市にある「ビバークランド ロードの湯」(以下、ビバーク)。こちらは銭湯でありながら、本格的な薪ストーブを備えていることを、サウナ好き、銭湯好きなら知っている人も多いのではないでしょうか。

店主のロード祐介さん(以下、ロードさん)は、”ビバークの顔”である一方で、”俳優”としても活躍しているのも、銭湯好きのなかでは知られた話ではないでしょうか。フロントにいないなぁなんて思っていると、新国立劇場に立っている……なんてことも。ただ、俳優として活躍しながらも、ビバークの店主としての仕事は欠かしません。常に、ビバークのことを考え、行動に移す。そのせいか、ここにはいつ訪れても初めて来たかのような新鮮さがあります。前回は、浴室についてご紹介しましたが(未読の方はぜひ→ビバーク①)、今回はビバークの魅力をロードさんご自身がどう考えているのか伺いました。

目次

脱サラしてできた、「富士の湯」

――私にとっては、ビバークに入りたいから西千葉駅を降りる、と言っても過言ではないのですが(笑)、そもそも「ビバーク」ができたきっかけを教えてください。

もともとビバークは、「富士の湯」という名前で、昭和30年2月に父と母で営業を開始しました。父は、「サラリーマンをしたくない!」と言ったそうで……「銭湯でもやるか!」ってなったそうなんですね。それで、西千葉へ来て「富士の湯」を開業。それをのちに僕が継いで……という感じです。

――つまり、「ビバーク」の前身は「富士の湯」だったということですね。

はい、そうです。僕が2歳の時に始めたことになります。店主は父でしたが、母も一緒になって2人で協力して経営していたみたいです。「富士の湯」の時代は、木造の昔ながらのお風呂屋さんって感じで今とは全然違う造り。浴室には富士山が描かれていたんです。懐かしいなぁ。

――ロードさんが、継がれたのはいつごろでしょうか?

僕が23歳のときだから……昭和51年3月かな。「誰が継ごうか」というか話になって。大学時代、演劇に打ち込んでいたこともあって、家業を”継ぐ”という意識はなかったんです。ただ、富士の湯は近所の方々含め、たくさんの人に愛されていたので「やめないでくれ!」と言われていました。こんなに愛されているのなら……と、継ぐ決心をしました。どうせやるのなら、「僕流にしたい!」と思い1回……2回とリニューアルしました。おかげで、23歳で多額の借金を背負うことになりました(笑)。

「ここで英気を養ってほしい」そんな思いからビバークランドへ

――「富士の湯」から「ビバーク」へと屋号を変えたのも昭和51年のタイミングですか?

いえ、2回目のリニューアルの時なので、平成元年に「ビバークランド ロードの湯」としました。ビバークランドは、フランス語で「ここで英気を養って」という意味なんです。変わりゆく時代の中で、ここに来て癒されてほしい。そんな意味を込めて屋号を変更しました。フランス語なので、外観もなんとなく洋風にしました(笑)。屋号を変えると同時に、番台スタイルを現在のフロント形式にしたり、浴室も脱衣所も入り口も……いわゆる今の形になりました。サウナ室もこのタイミングで作りましたね。

――サウナ室のお話が出てきたので、伺ってもいいですか? 銭湯で薪ストーブのサウナが楽しめる……初めて知った時は驚きました。

ありがとうございます。そうやって驚いてもらったりするのが、僕が薪サウナを作った狙いのひとつです(笑)。だって、銭湯で薪サウナなんてないでしょ? 

――ですね。銭湯の浴室にあるサウナ室で、ケンズメタルワークスさんやMOKIさんのサウナストーブを使用しているところはない気がします。男性サウナ室は現在リニューアル中ですよね? こだわりのポイントなどあればお聞かせください。

営業を再開させましたが、まだまだやりたいことはたくさん。男性サウナ室は、ストーブの位置から座面まで一新しました。前のサウナ室を知っている人はビックリするんじゃないですかね。

まず、サウナ室の大きさに合わせてストーブを特注、それに沿ってえんとつも。いかに、楽しく、気持ちよく人々を温められるか、にこだわりました。サウナ室内に使用されている”木”は、僕が切ったりもしています。人に触れるものだから僕自身の手で作りたいんですよね。

座面は、ゆったり座れるような設計に。シンプルだけど心地よい、でも圧倒的なストーブがかっこいい……みたいなサウナ室にしました。

――その一方で女性サウナ室は、座る位置によって熱の感じ方が違うのが楽しいです。

10〜12人くらい入れる女性サウナ室は、コの字型をベースに、1人で楽しめるような席を設けています。女性サウナ室は、なんだかワクワクしますよね。ただ、男性に比べて利用者数が少ないのも事実です。利用者増やすためにだったり、すこしでも”英気を養ってもらう”ためにもいろんな工夫をしていますが……。

小さなサービスから繋がりが生まれてほしい

――訪れるたびに、そのホスピタリティーを感じでいます(笑)。今だったら、かき氷だったり……?

その通りですね(笑)。氷屋さんから氷を仕入れているので、本格的なかき氷を提供しています。あとは、シロップやトッピングもたくさん用意して……。秋から冬はお店の前で焼き芋を販売しています。ほかにもプリン、ジュース、お酒なども販売していて、銭湯に来てお風呂に入る、サウナに入る、だけではない「+α」を楽しんでいただきたいんです。

浴室に入れば、みんな裸になるでしょ。社会的地位なんて一気に関係なくなる。だからこそ、新たな繋がりが生まれると思うんです。新たな関係が生まれるきっかけが、サウナ、お風呂、ビバークで提供している小さなサービスになればと願っています。”英気を養う”は、人と繋がることからも得られると思っているので。

――ロードさんが作り出す「優しさが行き交う空間」は、ビバークの大きな魅力ですよね。今後の展望などがあればお聞かせください。

千葉県の銭湯は現在26軒。数々の銭湯が閉業して……ずいぶん減ってしまいました。でも、人と人が繋がれる場所として残さないといけないんです。だからこそ、ビバークがやれることはどんどんやっていかないとだし、小さなサービスかもしれないけど続けていきたい。

あとは、大きな目標かもしれないけど、「ビバーク」の文化を西千葉だけではない、別の場所でも継承するつもりです。まだ、あんまり言えないんですけどね(笑)。

その熱を、ぬくもりを、絶やすことがないように工夫を凝らしながら、営業し続けている「ビバーク」。まさにここに来ると、英気を養うことができる……明日も頑張ろうかな、と思ってしまう不思議な力があります。

ビバークランド ロードの湯
■住所=千葉県千葉市稲毛区轟町1-8-5
■営業時間=15:00~23:00
■定休日=火曜日
■料金=<大人>入浴料=500円/サウナ料金=1,000円 <中学生>入浴料=300円 <小学生>100円 <幼児(0歳~)>0円 ※サウナ利用の場合はバスタオル付き
※最新情報は公式Xにてご確認ください

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