
「SAUNA BROS.vol.8」の巻頭特集にて掲載したフィンランドへの旅。「世界一幸福な国」とも称される彼の地で、サウナのみならず、さまざまな人や場所との出会いから感じたものをあらためて振り返る追想記をお届けしています。
7回目の今回は、首都ヘルシンキから再び北上し湖水地方へ。目的地は、森の中に広がる、まるでおとぎ話の世界に入り込んだかのような空間です。
ヘルシンキから北西に向かって、車ならおよそ2時間弱。列車ならフィンランドの国鉄=「VR」で(本集中連載の4回目で降り立った)ハメーンリンナ駅あたりまでおよそ1時間15分ほど。さらに車で1時間ほどでしょうか。フンピラという小さな村落の外れにその「ヴァイキング・サウナ」は見えてきました。
この連載の2回目、3回目などでも触れた本格的なスモークサウナなどもある一方で、「ヴァイキング」の名の通り“船の形をしたサウナ”棟や、樹上にあるツリーハウスがサウナ小屋になっていたり……かわいらしくも自由で斬新な発想の手造りサウナが建ち並んでいるのです!
サウナ愛と遊び心、そして「自然への敬意」に満ちたDIY空間
上記に“手造り”と記しましたが、こちらは、オーナーであるミッコ・クラマルクラさん、リーナ・クラマルクラさんご夫妻が「自分たちも大好きだから」「こんなタイプのものがあったら楽しいはず」という思いで、2002年からコツコツと一棟ずつ、自分たちのみの力で築きあげ続けてきたサウナ施設。
だからこそ、本格的なスモークサウナを楽しめる一方で、思わずクスリとしてしまいそうな遊び心に満ちたもの、ほかでは見られないユニークなものがいくつも並んでいるんでしょうね。
それでは、ひとつずつ、のぞかせてもらいましょう。
まずは「スモークサウナ」。この棟が、この施設の最初のサウナ室になるそうで、2002年に母屋=メインハウスとともに完成したそうです。

この敷地内で掘り起こされた粘土だそう
なお、この施設で用いている建材は、すべてこの森の中で調達したもの。木材はもちろん、この森で育った木を使用。また壁にしている粘土も、この場所で掘り出したものを使っているのだそう。
「最初に手がけたこのスモークサウナとメインハウスは、それぞれ数週間で造ったんだけど、完成までにはおよそ1年ちょっとくらいかかったね。粘土に木を練り込んで壁にするというのは、ヨーロッパでもかなり古い、伝統的な家造りの工法のひとつなんだけど、土が完全に乾くまでには数カ月かかるんだ。
僕たちだけで造るのは大変ではあったけれど楽しかったね。僕ら夫婦はDIYが大好きで。自分たちの手でものを作るのが本当に楽しいんだ。そして、誰かがそれを喜んでくれるなら、もっと嬉しいじゃないか(笑)。
実はその粘土を掘り出した跡地に、その後、地下から湧き出た水をそのまま張って、この池にしたんだよ。サウナから出たらすぐに飛び込めるようにね」(ご主人のミッコ・クラマルクラさん)


水質もやわらかくて気持ちよかった〜!!
なんと! 木や土はすべてが自然のもので、必要な量、使う分だけを調達。その結果生じた大きな穴は池にしてしまう……まったく無駄がないというか、理想的じゃないですか? もちろんサウナストーブで使う薪も、基本的にこの森で採れる間伐材を使用。
ちなみに、こうした昔ながらの工法や素材で造った理由は「すべてが土に還っても大丈夫なようにしたかった」からだそう。あまりにも普通にその言葉が出てきたことに、フィンランドという国が、あらためて自然を大切にし環境保護やSDG’sの先進国であることを思い知らされた次第です。
森の中のおとぎの国は、理想的な“循環”を、さりげなく具現化したスポットでもあったのです。

薪を6時間燃やして大量の石を熱し
煙抜きにも2時間をかけるそう
船型のサウナにブランコのサウナ。木の上でのととのいも!
船型のサウナも、形状じたいはとてもユニークだけれど、中はかなり快適なスペース。けっして狭くはないけれど、天井までがコンパクトなため、セルフロウリュをすればアツい空気が身体をしっかりあたためてくれて、すぐに発汗!



「実はこの船のサウナを造る前に、妻のリーナのアイデアで、船型のバスタブを造ってみたんだ。『船は本来は水に浮かんでいるものだけど、そうではなく、船の内側に水があったら面白いんじゃない?』ってね。
それができてしばらく経った頃、『その横に、今度は船型のサウナ室を造ろう』と思いついて、大きな本物の船を海からこの森へ持ってきたんだ。とても気持ち良いサウナになったから、満足してるんだよ! 僕はこのサウナ室がいちばん好きなんだ」(ミッコさん)
「私もたしかに気に入ってはいるけれど……入り心地は、スモークサウナの方が好きね(笑)。やっぱりスモークサウナは最高ですもの」(リーナさん)
その隣には、ガラス張りの小屋の中に、ブランコがあるサウナ室が。

「これはブランコでスウィングしながらサウナに入れる……『スウィンギング・サウナ』ね。世界で唯一なんじゃないかと思うわ(笑)! 実は、ある寒い日にブランコに乗っていたら、とてもカラダが冷えてしまって。当たり前よね。でも、サウナの中だったら、どんなに寒い日でもブランコを楽しめるんじゃないかと思ったの。外の景色も見られるように、ガラス張りにしてもらったのよ(笑)」(リーナさん)


ブランコでスウィングしながら突入!
これ、新感覚です!!
続いては、樹上にあるコンパクトなツリーハウスに入ってみましょう。

「これはね、テレビで『ツリーハウス・マスター』という番組を観たのがきっかけさ。みんな楽しそうに小屋を造っていて面白かったんだけど、“きっとツリーハウスのサウナを造った人はいないんじゃないか”って思ってね(笑)」(ミッコさん)

木の幹が床や天井を“貫通”してます!!
なんともイタズラっぽく笑うミッコさん。仮にそんなことを思ったとしても、実現しない人の方が多数派だと思うのだけど……でも、樹上から観た景色はかなり良くてビックリ!
いやぁ、これもサウナ愛、自然愛ですね。