フィンランドサウナ旅③極北の…まさに聖地「スモークサウナの村」

7月3日に発売した「SAUNA BROS.vol.8」。その巻頭特集にて掲載しているフィンランドへの旅の模様を振り返る追想記の第3回目をお届けします。

前回記事フィンランドサウナ旅② 湖水地方で体感した「サウナの神髄」)では、ユヴァスキュラ郊外のハンカサルミという街にある「Revontuli Resort(レヴォントゥリ・リゾート)」でのサウナ体験、特にスモークサウナ棟で感じたことを主に綴らせてもらいました。

数時間かけて薪を焚き、サウナストーンが熱せられきったら炎を消す。焼けて熱を十分に蓄めた石が発する“余熱”と、スモーキーな薫香。日本ではほぼ体験できないスモークサウナが「キング・オブ・サウナ」と呼ばれる所以をまざまざと感じてしまい、ちょっと圧倒されてしまったのですが……。

今回は、そのハンカサルミやユヴァスキュラからもそれほど離れていないヤムサという街へ訪れた日のことを。なんとこの街のはずれに、20棟以上ものスモークサウナが建ち並ぶ「スモークサウナの村」があるのです。その名も「サウナ ヴィレッジ」(フィンランド語では「サウナキュラ」=キュラは英語のヴィレッジ同様、“村”という意味です)。

湖に面した丘陵に草原と花畑が広がる美しい光景の中、点在するログハウスはフィンランド各地から移設された、それぞれ長い歴史を持つスモークサウナたち。古いものはなんと数百年モノ……1700年代につくられたものもあるそうです。

目次

貴重なスモークサウナの灯を守れ……一度は閉鎖された施設を再生!

前回記事でも記したように、スモークサウナは最も原初的なスタイルのサウナです。具体的には「煙突のない薪ストーブの小屋」というのが形状としての定義になるでしょうか。
太古の時代(数千年前と考えられています)から、およそ数百年前まではサウナといえばこのかたちが主流だったそうですが、煙突付きの薪ストーブがつくられるようになり、さらには電気式のサウナストーブが登場すると、それらの利便性から一気に取ってかわられてしまったそうです。
歳月とともに、維持の困難さもあって、フィンランド全土から貴重な古いスモークサウナが次々に姿を消していく。そのことに危惧の念を抱いた人たちが、それらを引き取り、移設して保存することを思い立ちました。それが、この「サウナ ヴィレッジ(サウナキュラ)」の“ルーツ”。

そう。ここは、世界的にも貴重な、古いスモークサウナのミュージアム=博物館なのです。


数行上で“ルーツ”と書いたのには理由があります。実は、最初のミュージアムは、1982年にユヴァスキュラにほど近いムーラメという街につくられました。最初は数棟からスタートし、10数年かけて、20棟以上を数えるようになったそうですが、経営が破綻してしまいます。そして2010年にはついに閉館することに。

そのニュースに、サウナを愛する人たちが再び立ち上がったそうです。「閉館したら、貴重なスモークサウナはどうなってしまうのだ!」と。

経営破綻した博物館をいったん引き取ったムーラメ市と交渉し、「営利目的でなく、人々に還元されるかたちで活用するのであれば譲ってもよい」との約束を取り付けたことで、ミュージアムは再び時を刻み始めることに。

人々は新たに「フィンランドサウナ文化協会」という団体を立ち上げ、このヤムサの地にあらためて移設することを決めました。それが現在のこの「サウナ ヴィレッジ」。湖に面した場所になったのは……ただ展示するだけではない、ある目的のためです。

サウナは、入って感じるもの。生きた文化として継承したい

実はムーラメにあった博物館は、観光目的だったこともあり、移築したスモークサウナを“展示”はしているものの、実際に利用する……つまり“サウナに入ること”はできなかったそう。

「でも、私たちは、この貴重なスモークサウナを引き継ぐにあたって、ただ見てもらうだけではなく、入ってもらえるようにしたかったんです。だって、サウナの本当の素晴らしさは……入らないと伝わらないから。

ただの展示物ではなく、生きた文化、体験として後世に伝えていきたいという思いで運営しています」と、フィンランドサウナ文化協会会長で、この「サウナ ヴィレッジ」代表でもあるサイヤ・シレンさんは教えてくれました。

とは言うものの、先述の通り、移築したスモークサウナはどれも年代モノ。1700年代のものや1800年代のものはかなり老朽化しているそうです。ただ、オリジナルの構造や材料をそのまま用いることにもこだわっているため、安全面を考慮するとそうした古い時代のサウナは、火入れや体験はなかなか難しいそう。現在、実際に入れるのは1900年代以降の10棟ほど。

こちらが1700年代につくられた
この村で最古クラスのスモークサウナ

ただ、先史時代から脈々と受け継がれてきたスモークサウナの「あたたかさ」は、その10棟ほどでも存分に体感することができます。

そして、たとえ火が入っていなくても、さまざまな形状のスモークサウナを覗けばこの極北の地で人々がどんな日々を過ごし、暮らしを営んでいたのかに思いを馳せることもできます。

どこか荘厳で神聖な空間。極北の営みに思いを馳せて

たとえば、この大きなスモークサウナ棟。私たちが訪問した日は、火入れはされていなかったのですが、

くぐり戸のような小さな扉を開いて中に一歩足を踏み入れると……。

煙を逃がす用の小窓から差し込む光の中に、ロフトのように2階にあがる階段が見えます。この階上にベンチがあり、そこで熱とロウリュを浴びるつくりになっています。

振り返ると、扉の横に巨大な石積みのストーブ(というか、もはや「窯」でしょうか)。ここで炎を数時間焚き(この小屋のサイズだとかなり長い時間=7〜8時間ほどはかかるそうです)、満載された石に熱を蓄めるんですね。

実は1階にあたる部分は、熱や煙を利用して、穀物を乾燥させたり、煮炊きをしたり、肉などの燻製をつくったりする「生活空間」としても利用していたそうです。


こちらは屋根だけが地上にあるように見えますが、正面に回ると……

地面を掘り、土の壁を利用したつくりになっていることが分かります。これは「ピットサウナ」と呼ばれるスタイルのサウナ小屋だそうです。

まだ強度の高い小屋をつくる技術がなかった時代。また、ちょうどよい木材がなかった場合などにこうした形状のスモークサウナがつくられたのだそうです。


それにしても、どのスモークサウナも、入ってみるとどこか荘厳な気分になります。つくりがとにかくシンプルで、石にも壁にも天井にも、燻され続けてきた風合いがあるせいでしょうか。

かつてフィンランドの人たちは、家をつくるときに母屋よりも先にまずサウナを建てたそうです。自然が厳しい極北の地にあって、サウナが「とても大切」で、ある意味「神聖な」空間であったということが、あらためて実感として胸に迫ってくるのでした。

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