施設の仕掛け人で会長の野畑龍彦さんにサウナへの思い聞いてみました
「OND PARK」の敷地は、おおよそ100ha(東京ディズニーランド2つぶん!)。「OND PARK」内には武雄の豊かな自然の中でキャンプを楽しめる「OND CAMP(オンド キャンプ)」や、地元の食材をふんだんに使ったメニューが揃う「OND CAFE(オンド カフェ)」、フィットネススタジオやボルダリング体験ができる「OND STUDIO(オンド スタジオ)」も併設。観光客だけでなく、地元の方々にも愛される場所として盛り上がりをみせています。

しかし、なぜまた武雄市に、これほど大きな複合施設を……?
「OND PARK」を手掛ける朝日I&Rホールディングス株式会社(武雄市朝日町)代表取締役会長・野畑龍彦さんに話をお聞きしました。
――2023年4月に「武雄温泉保養村 OND PARK」が開業して2年が経ちましたが、まずはその成り立ちから聞かせてください。
「『OND PARK』は『武雄温泉保養村』の一部を利活用した新しいタイプのアウトドア複合施設です。『武雄温泉保養村』は、1970年から続く歴史あるリゾートエリアで、“体験&癒し”をテーマに、地元・武雄市の人々や観光客に親しまれてきました。
しかし、50年以上の年月が経つ中で施設の老朽化や観光ニーズの多様化、さらにはコロナ禍による観光客の減少、ますます厳しくなる市財政など、さまざまな課題が浮かび上がってきました」

――コロナ禍によって2020年4月から2021年9月まで緊急事態宣言が出されるなど、未曾有の危機に。日本はもとより、インバウンド(外国人観光客)も大幅に減少しました。
「そうしたなか、2022年9月に西九州新幹線が開業します。武雄市は、佐賀市と長崎県佐世保市の中間に位置し、福岡市からも車で1時間半ほどと利便性がよく、市の中心には古の時代から1300年続く武雄温泉があります。
西九州新幹線が開業したことも追い風となり、今後さらに交流人口の増加が見込まれるエリアです」
――長崎市内からは車で50分ほど。JR長崎駅~武雄温泉駅間を結ぶ西九州新幹線「かもめ」を利用すれば、長崎空港の最寄り駅である新大村駅からわずか14分(!)で到着するため、遠方より訪れる旅行者も気軽に足を延ばせます(※JR博多駅からも在来線特急リレー「かもめ」で1時間)。
「そこで『武雄温泉保養村』が西九州エリアの観光の拠点としての役割を果たすべく、武雄市が公園全体の再整備を提案。“Park-PFI事業(公募型設置管理制度)”を活用することとなり、これに弊社が取り組むことになったんです」。

――“Park-PFI事業”とは、2017年6月に国土交通省が創設した、都市公園の整備や管理を民間事業者と連携して行う制度です。
「『武雄温泉保養村』の魅力を伝え、新たな価値を生み出すための官民一体となった事業。この取り組みのなかで、2023年4月に開業したのが、自然ととも休日や普段の生活を楽しむことができる『OND PARK』でした」
――2023年5月に新型コロナウイルスが「5種」に移行、“ウィズコロナ”から“アフターコロナ”へと転換しました。
「当初は“果たして観光客が戻ってくるのか……?”と不安もありましたが、武雄に生まれ、武雄で育ち、武雄で事業をさせていただいている者として、地元をもっと元気に、武雄に恩ししたいとの思いで“Park-PFI事業”に参画しました。
単なるアウトドア複合施設としての役割にとどまらず、武雄市の観光ポータルとしても機能する。武雄の魅力を発信し、観光振興や地域の雇用創出に寄与することを目指す。訪れた方が自然体験やリラクゼーションだけでなく、地域の歴史や文化に触れるきっかけとなる場所を創ろうと考えたんです」

――8カ月後の2023年12月に「OND HOTEL」がオープン。「OND PARK」からは車で5分ほどと、立地も申し分ありません。
「もともと『OND HOTEL』の場所あった『武雄温泉ハイツ』という大型の旅館がコロナ禍で立ち行かなくなったので2021年に弊社が引き継ぐことになり、リノベーションを計画していました。
その最中に“Park-PFI事業”の公募があり、そこから“『OND PARK』、『OND HOTEL』が一体となって武雄を盛り上げることはできないか……?”とプランを練り直しました。観光客を呼び戻す、起爆剤がほしいと考えました」
――それがサウナだったんですね。
「武雄温泉エリアには、熊本県熊本市の“サウナ西の聖地”『湯らっくす』と並び称される『御船山楽園ホテル らかんの湯』をはじめ、数多くの温泉やサウナ施設がある。これから“サウナの街”として盛り上がるだけのポテンシャルを秘めていると思いました」

――武雄市は“出湯と陶芸の街”。温泉以外の観光資源もたくさんあります。
「武雄は430年もの歴史と80カ所もの窯元を誇る名陶地で、国の指定文化財となってる黒牟田焼も名産です。『OND PARK』の周辺には、ご家族連れに人気の『佐賀県立宇宙科学館 ゆめぎんが』や春にはおよそ200本もの桜が美しい池ノ内湖など観光スポットも数多くあります。また、豊かな生態系を残す自然も、おいしい食にも恵まれています。
これらにサウナを加えて、武雄を訪れる人が『OND PARK』を拠点に、さまざまな観光資源や魅力に触れることで、街全体の集客力がさらに高まることを目指したいと考えました」

――そして「OND」=“Open(誰でも利用できる)、Neutral(体と心を整える)、Diverse(多様な使い方ができる)”の名前のとおり、多種多様なサウナを中心としたコンセプトホテルとして生まれ変わりました。
「共通のブランド名は、心と身体や人との関係、地域の盛り上がりの“温度”を上げ、武雄市が地方創生の“音頭”を取っていく街になることを願って『OND』としました」
――続けて2024年の9月には「OND PARK」内に、武雄の自然が堪能できるアウトドアサウナ施設「OND SAUNA」が誕生。3つの個性派サウナが魅力のサウナエリアと併せてキャンプエリア「OND CAMP(オンド キャンプ)」も新設されたばかり。
「『OND SAUNA』は周囲の木々に囲まれた開放的なサウナ。まさに自然と一体化できる場所で、外気浴で自然の風を感じ、リラックスした後は、近くにある水風呂で体をクールダウン。自然とともに深呼吸し、体の芯から整う心地よさを堪能できます。
『OND CAMP』のキャンプサイトもまた緑豊かな自然を存分に楽しめます。朝は鳥のさえずりで目を覚まし、夜は満天の星空を眺めながら、焚き火の温もりに癒される。キャンプ初心者の方でも気軽に楽しめるよう、設備が整っておりますので、ご家族や友人と訪れるのもおすすめです」

――「OND HOTEL」、「OND SAUNA」とも水風呂の水質が最高です。
「『OND HOTEL』は男女とも温度が異なる水風呂が2つずつあります。手前みそですが、それくらい水には自信があります。
『OND SAUNA』はノーチラーで水温は通年で16.8℃と、サウナ好きな方にとって最適な水温を保っていますので、ぜひお試しください」。

――「OND CAFE」や「OND STUDIO」も賑わいをみせていました。
「多様な人たちが自然の中でリフレッシュし、活気あふれる憩いの場として誰もが気軽に集える。この場所で生まれる笑顔や交流が地域にも温かい影響をもたらし、地域の温度を少しずつ上げていく――。そんなコミュニティの中心的存在になることを目指しています。
オペレーションなど、まだまだ至らない点もあるかとは思いますが、お客さまの声に耳を傾けつつ、日々進化していきたいです」。
――武雄を訪れる人たちと地域の人々をつなげる架け橋となることが「OND PARK」が目指す役割なんですね。
「『OND PARK』が率先して音頭を取り、地域経済の活性化や地域全体の活力向上に貢献し、それが武雄市からやがて佐賀県全体に広がっていくことを願っています」。

――「OND HOTEL」の浴槽やサウナ、レストランの食器にも先の黒牟田焼の陶器が使用され、食事も佐賀牛ほか“佐賀づくし”。地産地消も「OND PARK」の特徴です。
「女性用のメインサウナ『KUROMUTA』は、黒牟田焼の登り窯で使用されたトンバイ(塊状の耐火煉瓦)と棚板(板状の耐火煉瓦)を壁材に使用し、サウナストーンも黒牟田焼で作りました。
食事は『OND HOTEL』をはじめ『OND CAFE』の食材も佐賀県産。朝食のおむすびも自慢の一つです。米の種類を吟味することはもちろん、研ぎ方にもこだわっています」。
――話は戻りますが、朝日I&Rホールディングスさんは「OND PARK」が開業した2023年4月にサウナやスパ・ストーブのシェア世界No.1を誇る「HARVIA(ハルビア)」の国内正規代理店として取り扱いを開始。それまでサウナとのかかわりはあったのですか?
「コロナ禍の折りに、社員の保養用にサウナを作ったことがきっかけで、『HARVIA』さんとのご縁ができまして、『SUNNY SIDE』という店舗をオープンしました。
それまでは、個人的にサウナが好きでよく入ってはいたものの、ノウハウは全くありませんでした」

――会社自体は1965年に武雄市朝日町で「朝日塗装」として創業。現在は建設、リフォーム、不動産、太陽光発電事業など幅広く展開されていますが、ノウハウがないなか、どのようにして作ったのでしょう?
「弊社の設計担当と試行錯誤しながら見よう見まねで作りました。コロナでどこにも出かけられなかったことから、せめて何か楽しみができれば……と思い本社の横に作ったのですが、振り返れば、これがすべての始まりだったように思います」
――「OND HOTEL」のサウナ作りも自社で?
「サウナ自体はプロの専門家の方や業者さんからアドバイスをいただきつつ、話し合いを重ね、時間をかけて作りました。
とはいえ、サウナで重要な電気の配線などは、これまでにやってきた事業のノウハウが生きたと思います。特に気を配った点は温度と湿度、空気環境。オープンから1年が経ちましたので、これから季節ごとのセッティングなど細かな調整をしていきたいです」

――お話をお聞きしていますと、会長の行動力、決断力、実行力、そして地元への愛情に驚かされます。
「『武雄温泉ハイツ』を取得して、西九州新幹線が開通して、“Park-PFI事業”の公募があり……というタイミングと流れ、全国で衰退していく温泉街も多いなかで“武雄をどうにかせにゃいかん”という思いに突き動かされた感じです。
集大成と言っては少し大げさですが、創業から60年間、弊社がやらせていただいたさまざまな事業が『OND PARK』で一つに繋がったような気がします」
――朝日I&Rホールディングスさんは、佐賀県のJリーグチーム「サガン鳥栖」のスタジアムスポンサーであり、株主としてもクラブ活動を支援されていますね。
「地元で初めてできたプロスポーツチームですので応援させていただいていて、選手も何人か『OND HOTEL』に遊びにいらっしゃいました。
サッカー観戦、スポーツ観戦はサウナとの親和性があるかと思います。佐賀はもちろん、長崎、福岡など近県で観戦の折りには、ぜひご利用いただければ。アウェイ、ビジターのお客さまもお待ち申し上げております」

――では最後に、これからの「OND PARK」および「OND」ブランドの今後の展望をお願いします。
「これまで以上に、地元の人たちが日常的に通うような公園を目指したい。市外や県外の方が武雄という街を訪れるきっかけとなる場所にもしていきたいです。
いずれは武雄市が“サウナの街”として全国で広く知られ、佐賀県内にたくさんの観光客が訪れてくれるようになればうれしく思います」
以前SAUNA BROS.で取材した佐賀県武雄市「御船山楽園ホテル らかんの湯」のオーナー・小原嘉久さんも同じことをおっしゃっていましたが、まずは自分が生まれ育った街を元気にしたい。それが結果的に大きな意味での地方創生へと繋がる――。
すばらしいサウナがある街には、そんな地元愛にあふれた熱い経営者がいることを改め感じた、今回の取材でした。

【会長プロフィール】
野畑龍彦(のばた・たつひこ)
1966年3月15日生まれ。佐賀県武雄市出身。熊本工業大学卒。朝日I&Rホールディングス会長。
OND SAUNA
■住所:佐賀県武雄市武雄町18202番地1
■営業時間:月曜~金曜13:00~21:30、土曜10:00~21:30、日曜7:00~21:30 定休=火曜
撮影/岡本武志
文/橋本達典