
「SAUNA BROS.vol.8」の巻頭特集にて掲載したフィンランドへの旅。このSAUNA BROS.WEBでも「世界一幸福な国」とも称される彼の地での、サウナのみならず、さまざまな人や場所との出会いから感じたものをあらためて振り返る追想記をお届けしてきましたが、いったん今回が最終回。
本連載の第5回と第6回でも、首都ヘルシンキの新旧のサウナの魅力や印象について記してみましたが、今回はそれらも踏まえた上で、あるひとつの施設をリポート。サウナの本場=フィンランドの、ここ数年のサウナシーンについて見聞きしたこともあわせてまとめてみたいと思います。
訪れたのはヘルシンキでいま最もHOTなサウナともいわれている「Loÿly(ロウリュ)」。バルト海に面したエリアに位置する、サウナとレストランが併設された複合施設で、黒い木材に覆われたスタイリッシュな外観は「公衆サウナ」と呼ぶには少しお洒落すぎるかもしれません。
ただ、このクールな建物が、フィンランドの新たなサウナの歴史を拓いている、ともいわれているようです。
(この集中連載のこれまでの記事はこちらからまとめてご覧いただけます。 ←よろしければぜひ併せてお読みください)
「機能」のみならず、「空間」としても心地よい=サウナ復権のトップランナーに

さて。寂しいことに、日本でも公衆浴場=銭湯の数は、年を追うごとに減っていますが、実はフィンランドでも長らく同じような状況が続いていたそうです。
日本の公衆浴場にあたる「公衆サウナ」が減少し続け、ヘルシンキ市内では最盛期には120軒もあったものが、あるとき、気がつけばたったの3軒になってしまっていたそうなんです。
まぁ、それはそうですよね。小型で性能のいいサウナヒーターが作られるようになり、各家庭にシャワーはもちろんのこと、サウナまで持つような人が増えたのですから。
しかし、その後……’10年代の半ばを過ぎて、潮目が変わってきたそうです。同時期に日本を含めて世界の多くの国々でサウナの価値や素晴らしさを見直す“新世代”が登場してきましたが、ヘルシンキにおいても同じことが起こったのだそうです。
いわば、「『機能』としてのサウナ」、ではなく「『空間』としてのサウナ」が復権を始めたのですね。
この「Loÿly(ロウリュ)」こそ、まさにその先駆け=新たなトップランナー的な存在のようです。

都市で「スモークサウナ」に入れる至福に加え、新たな価値観もプラス
実際に施設に足を踏み入れてみると、外観同様、デザイン性が高く、また使いやすい設備が綺麗に整っています。サウナ室も数タイプがあり、どれも多くの人が同時に入れるサイズです。
窓越しに海を望めるサウナ室も貸切のタイプとパブリックのものがあり、

コンテナタイプの、モダンなスタイルのこんな部屋がある一方で、

なんと、あの独特の薫香を味わえるスモークサウナもあるのです。扉を開くとすぐに……やわらかな余熱と蒸気に体を包み込まれます。時折、誰かがロウリュしてくれた「ジュゥ〜」という音にもまた、さらにじっくりと全身をあたためてもらえる気がします。
(室内が真っ暗に近く、かつ利用者にも人気で、人がたくさん居過ぎたので写真がありません。すみません……)。
この、めちゃくちゃ気持ちいい「スモークサウナがある」という点には、本当に驚いてしまいました。これまでの回で記してきたように、スモークサウナはサウナの原初のスタイルです。サウナ室をあたためるにも時間も手間もかかります。
それを厭わずに、むしろ、フィンランドで古くから大切にされてきた概念や、スモークサウナから水や風の中に飛び出していく“自然体験”を、ゆったり過ごせる郊外ではなくヘルシンキという都会で再現しようということなのですから。もうなんだか“志の高さ”みたいなものを感じてしまいますよね。
そんな“フィンランドのサウナの魂”みたいなものを、若者世代や国外からの訪問者……多くの人に伝え、体験してもらうためにも、この洗練されたデザインだったり、水着を着ての男女混浴、レストランを併設するなどの、それまでにはなかったアイデアを盛り込んで、2016年にオープンしたそうです。
そしてそれらは大きな話題と支持を呼び、新たな“トレンド”になったそうです。(今回の旅では訪れられなかったのですが……世界のサウナ首都を宣言しているタンペレの人気施設「KUUMA SAUNA」なども、同様にスモークサウナが楽しめるスタイリッシュなサウナです。また、サウナとレストランが併設された施設がどんどん増えているのは過去の記事でも触れているとおりです)