8 Seas Sauna HIRA②/支配人・長島健さんインタビュー

滋賀県大津市で2024年7月に誕生した、関西では希少なアウトドアサウナ施設「8 Seas Sauna HIRA」。前回の記事では施設の全容を紹介しました。サウナの本場フィンランドをリスペクト。3台の薪サウナが鎮座する迫力のサウナ小屋や地下水を使用した広大な水風呂、雑木林に囲まれてのととのい……自然の恩恵を感じる人気サウナ施設はいかにして作られたのか? こだわりは? これからの展望は? 支配人の長島健さんにお話を聞きました。

「8 Seas Sauna HIRA」支配人・長島健さん
目次

飲食業者が地域貢献でサウナを作ったら?

――関西圏では珍しい本格派アウトドアサウナ施設として2024年7月、滋賀県大津市に誕生した「8 Seas Sauna HIRA」。オープンからこれまでを振り返っていかがですか?

接客やオペレーション、施設内の細かな調整など含めてまだまだ至らない点がたくさんあるとは思いますが、おかげさまでたくさんのお客さまに来ていただいております。

リピーターさんが多いのも「8 Seas Sauna」の特徴で、SNS等を見るとサウナ好きの方には特にご好評をいただいているようでうれしい限りです。

――“HIRA”は、こちらが琵琶湖の西側に位置する比良地区にあることから付けられたことがわかりますが、「8 Seas Sauna」というネーミングはどこから?

私どもの会社が台湾や日本でさまざまなジャンルの飲食店を展開、運営する「株式会社エイトシーズ」と言いまして、そこから名付けました。

――社名である“8 Seas”の由来は?

社長が好きな 「九山八海(くせんはっかい)」という仏教用語からとったもので(※世界の中心にそびえ立つ高山・須弥山を取り囲む9つの山と8つの海=小宇宙を意味するそう)。もともとは東京に本社があったのですが、社長が滋賀県の出身ということで大津に移転しまして。その流れでスタートしたのが、新規事業のサウナでした。

社名に“8”が付くので、施設内の扉の窓やエンブレムを8角形にするなど、細かな部分にもこだわりました。

――都会で成功を収めた経営者が地元に恩返しを……という話は取材を通して何度か聞きました(例えば、鹿児島県奄美大島の「奄美温泉 大和 ハナハナビーチリゾート」など)。「8 Seas Sauna」でも、何か地元貢献を考えておられますか?

会社は飲食のほか人材派遣もやっておりますので、まずはそちら事業の受け皿にしたい、と考えて。将来的には店舗数を増やすことで滋賀県内の雇用にもつながれば……という思いがあります。

もちろん、地域貢献という意味で、地元のみなさんに楽しんでいただける、愛されるサウナ施設を目指していきたいです。

世界90カ所(!?)ものサウナ施設を視察

――そうした経緯があって、いざ新規事業としてサウナを。長島さんは、それまではサウナビギナーだったと聞いています。

私は飲食ではなく人材派遣事業の方に携わっておりまして。新規事業でサウナをやると決まってから、北から南まで日本全国のサウナを巡って。サウナの本場フィンランドも含めて90ヵ所の施設を視察するうちに、まんまとハマってしまいました。

社長もサウナ事業を始めるまではビギナーでしたが、今ではパーソナルサウナを自宅に作るくらいハマっています。

――そして視察の折り、北海道釧路市にある「THE GEEK」の薪ストーブが心に刺さって。

そうですね。サウナ室から見える北海道の雪景色も印象的でしたが、サウナストーブの無骨なデザイン、丸窓から大きく見える炎を見て「これだ!」と思いました。

――すぐに「THE GEEK」と同じ「MOKI製作所」のものを探されたとか。

すぐに「MOKI」さんに連絡しまして。サウナ室の全体像が見えてくる中で、3台を導入することにして。果たしてこの広い空間が温まるのか……オープンするまでは少し不安もあったのですが、思い切って正解でした。

最初は電気ストーブでやることも考えたのですが、その後、電気代の高騰もありましたし、雑木林に囲まれたこの場所の雰囲気にも合っていますし、結果「MOKI」さんの薪ストーブ(「茂暖(モダン)MS70」)にしてよかったなと思っています。

――サウナ室の収容人数は24名。コの字型の座面が3段、天井高は2.5mほどと、かなり大きめですね。

本場フィンランドのサウナ文化に触れた際、家族や友人、あるいは地元の仲間同士が性別や年齢に関係なく楽しみ、語り合っている様子に感激しまして。日本では黙浴が当たり前ですが、和気あいあいとみんなで気軽に本格的なサウナを楽しめる施設を作りたいと思い、この大きさになりました。

――コミュニケーションの場として、サウナが機能してほしいと。

そうですね。憩いの場として、当たり前のようにサウナがあってほしい――。それで、サウナ事業を長く続けるためには「サウナ好きから愛される施設にしよう」と、フィンランドをリスペクトした本格的なサウナ施設に振り切ることにしたんです。

座面は、会話が弾むといいなと思い、コの字型に。座る場所や高さで温度も変わりますので、それぞれの違いも感じていただきたいですね。

――サウナ室の温度設定は80℃と平均的。とはいえ、10分毎のオートロウリュが体感温度を上昇させます。

フィンランドのスモークサウナで、オートロウリュの時間がかなり長めの施設があったんですけど、そのときの体感がものすごく気持ちよくて。それを再現しようと試行錯誤しました結果、温度は80℃に。当初はセルフロウリュも考えましたが、10分毎という短時間で噴出するオートに落ち着きました。

サウナ室の扉を開けたところに壁を作ってワンクッション置くことで、外に熱が逃げにくくしています。

サウナ室の窓から

比良の地下水を使った広大な水風呂が魅力

――「THE GEEK」のほか、印象に残っているサウナ施設は?

いろいろありましたが、中でも「御船山楽園ホテル らかんの湯」(佐賀県武雄市)さんの薪サウナには衝撃を受けて。あのストーブの大きさ、火力が忘れられず、「8 Seas Sauna」でも一気に3台のストーブを導入することにしたんです。

――和(らかんの湯)と洋(8 Seas Sauna)、テイストこそ違いますが、グレーを基調としたシックな雰囲気もどこか通じるものがありますね。

歴史ある温泉なので当たり前ですが、「らかんの湯」さんは館内すべてがラグジュアリーで素敵だなと思い、「8 Seas Sauna」の外装や内装もシックにしようと決めて。施設全体の色やデザインまでこだわりました。

ほかにもデザインといえば、案内の看板もフィンランドで見た鹿注意の標識を元にしたもので。エンブレムやロゴなども当初はアメリカンな雰囲気でしたが、どうしてもそれにしたかったのでデザイナーさんにやり直していただいたほどです。

「SAUNA BROS.vol.9」の付録ステッカーにもなっているロゴマーク

――「らかんの湯」は御船山のサウナストーンを地元の間伐材を再利用した薪で温めて、地下水でロウリュを行う。今の時代に沿ったサスティナブルな施設でもあります。

サウナ事業をやると決めてすぐに地質調査をしたところ30mほど掘ったところで井戸水が出たので、その地下水を使った水風呂を作って。本場のように海や湖に飛び込むことはできませんが、なるだけ自然に近い形で再現したいと思いました。

あと、水風呂の周りを囲む石も、ここを整地する際に出たものを利用しています。

岩の写真

――水風呂の水温は通年で16~17℃。

比良の山々を伝ってしみ出した地下水ですので肌触りがやわらかく、手前みそですが、大変いい水だと思っています。ちなみに受付で売っている「比良水」というミネラルウォーターもご近所で湧き出した水です。

――薪も地元産のものを使っているのですか?

いろいろ調べたところ、廃棄する芳醇薪が手に入ることになりまして。堅く締まった木材(オーク材)のため、火持ちもよく助かっています。

火の見映えなども考えて、杉などの燃えやすい薪も使いますが、メインはこの芳醇薪です。


自然と一体となって“ひたる”ぜいたくがココに!

――自然の傾斜を活かした立地も、他の施設には見られない「8 Seas Sauna」の特徴ですね。

傾斜はもともとあったものです。近くにバイパスが通っていて車の音が聞こえるものですから、「外気浴の際、それもどうなの?」という話になりまして。「傾斜を活かして水を流せば、せせらぎの音で聞こえなくなるんじゃない?」と、棚田のように水が下に向かって流れる水風呂を発想しました。

で、掘ってみたら運よく井戸水が出て。「よし、(新規事業のサウナ施設は)この場所に決めよう」となって。自然と一体となった「The Sauna」(長野県信濃町)さんの作りも参考にさせていただきつつ、ようやく完成しました。

――左右を囲む緑もプライベート感を演出します。

サウナ小屋に向かって左側が植林で、右側はもともと自生していた雑木林で。わざわざ木を植えずに済んだこと。近隣にはお寺があるくらいで民家が少なく、多少声を出しても騒がしくはないことも、この場所に決めた理由の一つです。

――初めて脱衣所を出ると奥に向かって伸びていく300㎡もの広大なスペースに圧倒されます。受付や脱衣所のある建物の大きさからは想像できません。

デザイナーさんとも相談して、縦長の土地を活かした作りにしました。脱衣所を出て、まずその広さに驚いて。サウナでは3台の薪ストーブに驚いて、水風呂にも驚いていただく。2度、3度楽しんでいただきたいです。

今はまだ出来たてなので清潔さを維持していくことに必死ですが、ゆくゆくは経年とともにいい意味で“枯れて”いって。それこそフィンランドのサウナのような味わいが出てくれるといいなと思っています。

――確かに玄関をはじめどこも清潔に保たれていて、更衣室もすごくキレイ。ドライヤーなどアメニティにもこだわりを感じます。

混んだり並んだりということを避けたくて予約制、時間制をとらせていただいていますから、そうした細かなサービスにも力を入れさせていただいております。

また時間制ということもあって、ドライヤーも軽量、大風量のもの(クレイツイオン ドライヤー)を選びました。特に髪が長く、身支度に時間のかかる女性のお客さまには好評のようです。

オープンから半年、まだまだ進化が止まらない

――冒頭ではリピーターが多いとおっしゃっていましたが、カップルでいらっしゃる方もたくさん。

そうですね。(アウトドアサウナということで)水着着用になりますから、カップル、ご夫婦でのご利用も多く、最近は女性同士でいらっしゃるグループさんも増えています。

とはいえ、それでも男性のお客さまの方が多いので、今後は男性用ロッカーの増設も考えていて。長時間滞在できる3時間プランも検討しているところです(※取材後の2024年10月より実施)。

シャワールームにある荷物置き。サウナハットやタオルを掛けられるフックも! ありがたい! あるとないとで大違いです

――今後、本格的な冬場を迎えるにあたって改良したい点は?

まずは水路ですね。冬場に水が凍ったりしないか? 点検・整備して、補修すべきところは早急に対応したいです。

――新たなサービスはいかがでしょう?

これからの季節に向けてポンチョを作りたいですし、暖をとれる工夫もしていきたいです。ほかにもこの辺りには飲食店が少ないもので“サ飯(サウナ飯)”が食べられるおいしいお店なども紹介できればいいなと。

まだワンシーズンしかやっていないのでわからないことだらけですが、今後もお客さまからのご要望もお聞きしながら少しずつ改善していければと考えております。

――オープンから1月で半年。まだまだ進化が止まりませんね。

まずは知っていただいて。とにかく一度、来ていただくことが大事。そうすればリピートしていただける施設だと思っています。冬には冬の、春には春の。季節ごとに違った雰囲気、ととのいが味わえますので、ぜひ遊びにいらっしゃってください。スタッフ一同、心よりお待ち申し上げております。

※2025年2月17~21日にはウッドデッキの拡張工事を行うそう。完成が楽しみです!

8 Seas Sauna HIRA
■住所:滋賀県大津市南小松1695-1
■営業時間:前10:00~後10:00(最終受付は後8:00)定休=月曜、月曜が祝日の場合は営業、翌火曜が定休に
■料金:平日=120分1,760円、180分=2,420円、土日祝=2,420円、180分=3,630円 貸切利用=平日180分58,080円(10名まで。それ以上は1名につき+5,808円)※貸切は平日のみ

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