今夏発売した「SAUNA BROS.vol.8」。その巻頭特集にて掲載しているフィンランドへの旅の模様を振り返る追想記の5回目は……編集部としてもずっと憧れ続けてきた施設の訪問記。
「SAUNA」の綴りが縦に並んだネオン看板。そして、年季の入った建物の前で、タオルだけを身体に巻き、幸せそうな表情で語り合う老若男女たち……。きっとサウナやフィンランドが好きな人なら、一度はそんなビジュアルを目にしたことがあるでしょう。
首都ヘルシンキに現存する最古の公衆サウナ「コティハルユン・サウナ」です。
結論から言いましょう。やっぱり最高でした。
ここ数回の過去記事で綴ってきた、湖水地方のスモークサウナなどで味わった……森や湖に包まれ、大自然と半ば一体化するような感覚は感動的ですらあったのですが、この都市部の公衆サウナで感じた“あたたかみ”というか“温もり”、“豊かさ”みたいなものもまた素晴らしくて。サウナという存在、空間の持つ魅力を、本場で再確認することができたのでした。
(この集中連載のこれまでの記事はこちらから。 ←よろしければぜひ併せてお読みください)
約1世紀もの間、愛され続けてきた公衆サウナ。風格すら感じる味わい深さ
ヘルシンキ中央駅など、賑わいを見せる市の中心エリアから、トラム(路面電車)に乗っておよそ10分ほど。車でもやはり10分くらいでしょうか。コティハルユン・サウナは、集合住宅などが立ち並ぶ、静かな街区の一角にあります。
創業は1928年と言いますから……もう100年近くの歴史があるということになります。
Googleマップを片手にワクワクしながら最後の角を曲がると、やや傾斜のゆるやかな坂道の中ほどにあのネオンサインが見えてきました。
ついに来てしまいました! どうしよう。ドキドキが絶頂です!
扉を開くとすぐにフロント。上半分がくり抜かれたドアの向こうから聞こえる「moi!」(モイ=こんにちは)という気さくな声に、こちらも「moi!」。地元の方たちが集うサウナなのに、のこのこと外国から来た我々に対しても、まったく分け隔てなく迎え入れてくれ……一気に心も顔もほころびます。世界中から人々が訪ねてくるゆえんでしょうね。
1階が男性の浴場で女性浴場は2階なのですが、まずは1階から。フロントに向かって右側の扉を開くとロッカールームです。
これは……いい! 年季の入りまくった木製のロッカーが静かに並んでいます。
いったい、この鍵は何百回……いや、何千、何万回、回されてきているんでしょうか。鍵穴まわりの「削られ跡」は、このサウナが長年愛され続けていることの証左ですね。
ここは着替えるだけの場所ではありません。サウナのセットの合間に、ロッカー下部に造り付けになっているベンチに腰掛け、クールダウンしながら会話に花を咲かせたり。
飲み物などを手に、一角に置かれた休憩スペースでチェスやカードを楽しんだり……。思い思いの時間を過ごしています。
壁の写真も、いいですね。どのくらい昔のものかは分かりませんが、皆さんゴキゲンなのはしっかりと伝わります。
目に映るものすべてがピースフル。使いこまれた品々は清掃や整頓など手入れが行き届いているので、味わいがもはや“風格”へと昇華しています。これはきっと、施設のスタッフの方の努力だけでなく、ここに集い、通う人たちのマナーというか、大切にしている思いみたいなものも反映されているんじゃないか。そんな気がしてなりません。
1世紀近く愛され、守り、受け継がれてきたこの空気感に……サウナにまだ1秒も入っていないというのに、すでに心が安らいでいるのでした。
行き届いたメンテナンス。その居心地の素晴らしさに感動
ロッカールームから浴室に向かうドアを開けると……シャワーエリアに通じていました。サウナ室に入る前にここで身体や頭を洗ったり、サウナ室でかいた汗を流してクールダウンするスペースですね。
ここもまた、100年近く使われているとは思えないほどピッカピカ。タイルの目地もカビはおろか黒ずみなども皆無ですし、天井や壁の板なども定期的に張り替えられているのでしょう。かなり新しい板目は、目にも心にも実に快適です。
日の光が明るく差し込み、風通しも良いこのスペース。シャワーで汗を流したあとに、そのままこの石のベンチに座ってクールダウンする人も、たくさんいらっしゃいました。
皆さんもお察しかと思いますが、このベッドではスクラブやカッピングなどのサービスが受けられるそう(要予約)。日本で言うところのアカスリやボディケアですね。
そういえば、ロッカールームの壁にこんな写真も掛かっていました。いい表情されてますね。分かります。
このシャワーエリアを奥まで進み、そこにある扉を開くと……思わず声をあげてしまう空間が広がっていました。
そうです。かなり熱くて、めちゃくちゃ気持ちのいい、広〜いサウナ室です。